第3話 魔法解放!!


 何のタメにもならなかった入学式は終わり、俺達はしばらくお世話になるクラスへ案内された。

 くふふ、刻一刻と近づくぜ……。

 この俺様が魔法を使う時が!

 なんたって、転生する前に購入したユニーク魔法が手に入る権利をゲットしたんだからな!

 きっとこの俺にふさわしい魔法になるはず!!

 くぅぅぅっ! 楽しみすぎる!


 とりあえず適当に座っていいって事だったので、俺は後ろの方に座った。

 前に座ってもよかったけど、何となく後ろの方がよかった気分なんだよねぇ。

 すると、隣に誰かが座ってきた。

 ちょっと視線を向けてみると、金髪の女の子だ。

 髪はウェーブがかかったふわふわ系なんだけど、ちょっとそばかすが付いている。

 だが、それがいい!

 可愛いけどちょっと隙がある、そういうのは俺、大好き!

 こりゃ幸先良いスタートじゃね!?

 

 こういった出会いは、まずは先手必勝!

 俺から声を掛けるのさ!


「よっ、俺はハル・ウィードだ。よろしくな!」


「えっ、あ…………私は、《リリル・バードウィル》……よろ、しく」


 ちょっとおどおどしている。

 それがまたいい!

 とりあえずファーストコンタクトはこんなもんでいいだろうな。


 ふふふ、俺は密かに一つの計画を立てている。

 それは、異世界版光源氏物語計画!!

 実はこの俺、容姿は悪くない。

 なら、今の内から将来有望(容姿的な意味で)な女の子にアタックを掛け、成人したらハーレムを作ってしまおうという、超壮大な計画だ!

 つまり、年少期から俺にご執心させ、成人してもそれを維持させていくのだ。

 ありがとう女神様、素敵な両親の元に俺を降ろしてくれて!!

 まぁ髪が金髪じゃないのは残念だけど、燃えるような赤ってのはそれまた格好良い!

 顔は多分父さん譲りかな?

 俺も不摂生をしなければ、将来有望だぜ!


 ここは三人座れる席で真ん中には俺、左にはリリルが座っている。

 つまり、右の席が空いている訳だ。

 さてと、誰が座るかなぁ?

 お願いします、男は止めて男は止めて!!


「やぁ、ここ空いているみたいだけど、座っていいかい?」


 はい、男でした。

 まぁ断るつもりはない。

 男友達ってのも作った方がいいかなって思ってたしさ。

 でも、でも!

 やっぱ女の子にサンドイッチされたかったよぉ!!


「僕は《レイ・ゴールドウェイ》だよ。よろしくね」


 ゴールドウェイ?

 確か、どっかで聞いた事があるなぁ。

 ……あっ、別の村の田舎貴族の名字がそれだった気がする。

 まっ、俺は別に関係ないな。


「俺はハル・ウィードだ、よろしくな!」


 俺達は握手を交わす。

 こいつ、男だと思うんだけど、男か女かよくわかんないんだよな。

 肌は白いし茶髪の髪はさらさら、肩まで位の長さの髪で、うなじ辺りで髪を縛っている。

 だけど目からは自信というか、力強さがある。

 よく言えば中性的って感じだ。

 同じ五歳とは思えない、落ち着いた佇まいだな。


「そっちの女の子もよろしくね」


 おおぅ、手慣れた感じでリリルに握手を求めた。

 彼女もおどおどしながら短く自身の名前を言って、遠慮しがちで握手した。

 対極的な二人だなぁ。


「この後、魔法解放の儀をやるみたいだね」


 おっ、マジでか!!

 ついにやってきた!!


「いやぁ、もうずっとこの日を楽しみにしてたんだよ、俺! きっと格好良い魔法が使えるに違いない!」


「あはは、どれだけ楽しみにしていたんだい?」


 レイが上品に笑う。

 リリルも口を押さえてくすくすと笑っている。

 いいじゃん、魔法なんて現実世界に住んでいた俺にとっては夢だったんだよ!


「そう言うけどさ、レイやリリルだって魔法使いたいだろ?」


「うん、そうだね」


「う……うん。使えた……ら、生活がきっと……楽になる」


 確かに魔法は火属性や水属性が少しでも使えたら、生活が大変楽になる。

 俺の父さんと母さんは残念ながら魔法の素質がなかった。だからその身で自給自足を頑張っている訳だ。

 リリルの村は、結構生活苦しいのかな?

 まぁ俺の場合はユニーク魔法は確定している訳だから、きっと生活の役には立たないんだろうな。

 だがその分、きっとすっげぇ魔法が使えるはずだ!


 俺達三人が魔法について胸を弾ませながら語り合っていると、一人の女性が入ってきた。

 年齢は二十代前半といった所か?

 修道服に近い服を着ていて、立ち振舞いも礼儀正しい。

 金髪のロングヘアーを三つ編みにしたおさげさんで、眼鏡を掛けている。

 クラスの委員長がそのまま成長しました、って感じ。

 くっそっ、俺がもう少し早く生まれていればアプローチできたのに!


 あっ、俺はこの世界では自分の欲望に忠実に生きようと決めてます。

 いいと思ったらYES、嫌だと思ったらNOと言う。思い立ったら即実行!

 俺はもうイエスマンじゃないのだ!


「皆さん、お静かに。今日からこのクラスを担任します、《アンナ・レイモンド》です。先生と一緒に楽しく勉強をしましょう!」


 アンナ先生がそう言うと、クラスの皆は元気よく「はーい!」と答える。

 俺は精神年齢が四十歳だから、それは流石に出来なかった。


「では皆さん揃っているようなので、この後魔法解放の儀を行いますね?」


 アンナ先生がそう言った途端、クラスの皆がいてもたってもいられない感じにソワソワし始めた。

 うん、わかるぞ皆! 俺だってワクワクしてんだから!


「お静かに! この魔法解放の儀によって魔法が使えるようになります。ですが、魔法が使えない人もいるのは事実です。ですから必ず使えるとは思わず、『使えたらラッキー』と思っていてくださいね」


 おおぅ……、この先生結構ストレートに言うな。

 でもそのおかげで浮き足立った皆は静かになった。使えないかもしれないって不安が出てきたんだろうな。

 皆の表情に緊張が走っている。

 その中で俺だけは余裕の表情だ!

 なんたって、魔法が使えるのは確定しているからな!

 ……ユニーク魔法だけどね。


「す、すごいねハル。先生のあの言葉で落ち着いているなんて」


 ガッチガチになっているレイが、俺に驚いた表情を見せて話しかけてくる。


「別に使えなかったからって、死ぬ訳じゃねぇし。魔法が使えなかったら生活出来ない訳でもねぇだろ?」


「……確かにそうだね。僕は今まで魔法を使えなくても暮らせてたからね」


「う……うん。そう、だよ、ね」


 リリルは顔面蒼白だった。

 でも、俺の一言で二人とも少し安心したようだ。

 よかったよかった!


「それに俺は、魔法が使えなくても剣があるしさ。そっちで身を立てられるし」


「へぇ、君は剣が出来るんだ。後でお手合わせ願おうかな?」


「いいぜ、怪我しても泣くなよ?」


「大丈夫だよ」


 やっぱりこいつ、貴族だけあって立ち振舞いもそうだが、言葉遣いが五歳児とは思えない。

 それなりに教育は受けているんだろうな。

 こりゃ、手合わせも気を引き締めないと、俺がボコボコにされそうだ。


 皆が緊張している中、俺達三人だけは緊張がすっかり解れた。


 さて、この魔法解放の儀だが、一人ずつ行われていく。

 アンナ先生が生徒の名前を呼び、その生徒は先生の所へ向かっていく。

 まずアンナ先生が何か呪文みたいなものを小さな声で呟いている。何言ってるか聞き取れない。

 その後に、子供の頭位の大きさの透明な水晶球に触れさせる。

 すると、水晶球が赤く光った。


「おめでとう! アンディ君は火属性の魔法が使えるようになりました! 魔力量は《ランクC》ですね」


 へぇ、あの水晶球で属性と魔力の量がわかる訳か。

 でも魔力量って増やせないのかな?


「なぁレイとリリル、魔力量って訓練とかで増やせないのか?」


「ふ、増やせない、よ」


「うん、リリルが言った通りで、魔力量は増加させる事は出来ないらしい」


「へぇ、そうなんかぁ」


 レイがさらに魔力量のランクを詳しく説明してくれた。別に頼んでないんだがな。

 一番下がEで、一番良いランクはSとなっている。

 アンディって奴はCだから、平均値という事だな。

 ……五歳児に早速ランク付けとか、容赦ねぇなこの学校。


 次にリリルが、属性についても教えてくれた。


「あの水晶球の、光った、色で……属性が決まる、よ。赤が火属性、青が水で……黄色が土、み、緑が風。銀色が光で、紫が闇、だ、よ」


 相変わらずオドオドした話し方だが、それが可愛い!

 そして、「光がどれくらい眩しいかで、魔力量が、決まる、よ」との事。

 なるほどねぇ、良くできた水晶球だ事。


 実際、水晶球は忙しい位様々な色を出しているが、時折全く光らない事があった。

 それが魔法適正がない、という反応だ。

 その事実を突き付けられ、そいつは大声を出して泣いていた。

 あぁ、せっかく魔法が使えると思ったら使えない、そりゃショックさ。

 なかなか残酷なシステムだねぇ、全く。

 しかもすでに三人が適正無しだった。二十人中三人とは、そこそこ高確率なんだな。


 皆の魔法解放の儀を見ていると、アンナ先生がレイの名前を呼ぶ。


「呼ばれた……。行ってくるよ」


「おう。まぁ気を楽にしろよ?」


「が、頑張っ、て」


 レイは直前になって緊張してしまったようだ。

 俺とリリルは励ましの言葉を送ると、少し緊張が和らいだみたいだ。


 レイがアンナ先生に呪文を掛けられ、その後水晶球に触れる。

 すると、目を開いていられない位眩しい、銀色の光を発した。


「こ、これはすごい! 珍しい光属性です! しかも魔力量は《ランクA》です!!」


 おおっ、すげぇな。

 クラスの大半はもう水晶球に触れたが、銀色で尚且つこんな眩しい光を放った奴は一人もいなかった。

 あいつ、魔法の才能めっちゃあるんだな!

 

 そして次に呼ばれたのはリリルだ。

 リリルも先生に呪文を掛けられた後に、水晶球に触れた。

 すると、レイより眩しい、まるで晴天の空の色のような青い光が発せられた。

 青い光が何か一番目に負担がかかる!!


「リリルさん、水属性ですが、魔力量が《ランクS》です!! なんという事でしょう!!」


 アンナ先生が興奮気味に言っていた。

 わかったから、まずはその光を止めてほしい!

 眩しくて仕方ない!!


 光が止まった後、俺のクラスはリリルがランクSと判明し、相当どよめき立っている。

 そりゃランクSってのはエリート間違いなしだ。Aだって職に困る事はないらしいしな。

 何か、すっげぇ天才達と知り合いになっちまったな、俺。


「では最後、ハル・ウィード君。こちらに来てください」


「ういっす」


 俺は軽快な足取りでアンナ先生の前に立つ。

 さぁ、俺はどういう魔法になるかなぁ?


 先生は俺に呪文を掛ける。

 目の前なのに相変わらず聞き取れない。

 そして、水晶球に触るように促される。

 はいはい、ちゃちゃっと触りますよっと。


 俺はぽんっと水晶球に触れた。

 すると、リリルより眩しい銀色の光が、水晶球から発せられた。

 うっわ、すっげぇ眩しい!!

 何だよ、銀色って事は俺は光属性かよ!

 全然ユニーク魔法じゃないやん……。


 と思ったら、次は赤色に変化する。

 さらに、黄色に変化。

 さらにさらに、青色に変化!

 そしてそして、緑色に変化!!

 もういっちょ、紫色に変化!!

 そしてまた銀色に戻ったら赤色からスタートってのを繰り返している。


 何だこりゃ!?


 まさか、俺は全部の属性を使えるってか?

 それが出来たら確かに唯一無二の魔法だな!!

 うっひょ~! そりゃ最高だ!!


「な、何ですかこれは!! こんな反応見た事ありません!! 属性が、属性が定まっていない!?」


 定まってない?

 全部の属性を使えるからでしょ!

 そうだよね、先生?


 アンナ先生は冷や汗をかきながら水晶球の光を止め、何かブツブツ言い始めた。


「どういう事? こんな反応は全属性行使者でも見た事ないわ。それなのに全ての色が光り出すってどういう訳? わからない、長年教師をやった私でも、こんなの見た事ないわ……。魔力量は《ランクS》で間違いないのだけど、私はどう対処すればいいの? 教師マニュアルに載っているかしら? いえ、きっと載っていないわね。じゃあここは校長先生に相談してみようかしら?」


 えっ、全属性行使者?

 つまり、全部の属性使える奴って事だよな。

 それとも反応が違うんだ!

 じゃあ何だ、俺の属性!?


 そしてアンナ先生の長考が終わり、俺の肩に手を置いた。


「……ハル君」


「はいはい、何すか?」


「今から校長室に来てもらいます」


 ……そんなに良くない反応だったか、俺の。

 俺はクラスの皆が呆けた顔をしながら俺を見送る中、アンナ先生に強引に引きずられるように連れ出された……。

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