第2話 俺、学校へ行く


 さて、俺は生まれ変わった。

 赤ん坊からのスタートだ!

 いやぁ、前世の記憶を引き継ぐのは正解だったわ。

 生まれたての赤ん坊の時から、すでに意識ははっきりしている訳だしな!


 俺がよく読んでいた異世界転生ものの出だしは、まず相手の言葉がわからない事なのだが――


「ーーーーー○○××△」


 うん、案の定わからなかった。

 今話したのは恐らく俺の母親だろうけど、まだ目が発達していないのかぼやけている。女性の声ってのはわかるな。

 だが、そこは想定内さ!

 なら俺は、このアドバンテージを活かして、さっさと言語を覚えてしまおうじゃないか!

 言語を覚えて、定石である情報収集を早めにやってしまおう。


 あっ、俺性別どっちだ?

 とりあえず股間を触る。

 うっ、腕短けぇな。えっと、うん、俺は男だ!

 よかったわぁ、女だったらどうしよかと思ったよ。

 俺は童貞を捨てたいの!

 童貞を捨てさせる側には回りたくないね!



 というわけで、さくっと一年経過して、俺は無事に一歳になった。

 このまま長々と赤ん坊時代を語っても、どうせ異世界転生ものと似たような感じだから、大きな変化があった部分をさくっと説明する。

 まず、俺の名前は、《ハル・ウィード》というみたいだ。

 生まれて半年で覚えた言葉で、俺の事を父さんと母さんが読んでいたから、ほぼ間違いない。

 そしてハイハイも出来るまでに成長した俺は、早速本を漁る。

 この世界の文字はアルファベットに似ていたから、結構簡単に習得できた。もうちょっと苦労するかと思ったんだがなぁ。

 とりあえずこの一年は、文字の習得にさらに費やした。例えば諺はあるかとか、どういう単語があるのかとかね。

 俺は前世で作曲をしていて、作詞もやった事がある。

 こういう時に役立つのは語彙力だ。

 つまり俺は、この語彙力を増やしていったって訳だ。


 ちなみに、この歳で初めて「ぱぱ、まま」と言ったら、泣いて喜んでくれた。

 ちょっと照れ臭いぜ。


 

 さらにさくっと一年が経過して、俺は二歳になった。

 ここで初めて父さんと母さんのプロフィールを知る事となった。

 まず父さんは、《ロナウド・ウィード》。現在三十歳だ。そうは見えず、二十代前半って言っても通じる顔作りだ。

 髪は燃えるような赤で、若そうな顔立ちにしては身体が引き締まっている。

 父さんの書籍に忍び込んだ時に日記を発見したんだけど、どうやら昔剣一本でそれなりに名が知れた剣士系冒険者だったらしい。

 母さんと結婚を機に冒険者を止め、現在は農作業と狩りで家庭を支えている。


 母さんは、《リリー・ウィード》。現在二十八歳で、金髪の美女だ。ちょっと女神様に似ている。

 俺が赤ちゃんの時には、その素晴らしいおっぱいにはお世話になりました!

 ……母乳は意外と不味かったけど、不思議と元気になるから我慢して飲んでた。

 おっぱいも合法的に揉めるしね!

 父さんの日記曰く、母さんは普通の村娘で、魔物に襲われた所を父さんが颯爽と救う。

 それがきっかけで交際をスタート、そしてそのまま結婚して俺を出産した訳だ。


 そうそう、俺は簡単ながら言葉を話し始めた。

 本当はペラペラに喋れるのだが、あまりに喋りすぎて両親に気持ち悪く思われるのも嫌だしな。

 何だかんだで、俺はこの人達を大事な親として見ている。

 だから嫌われたくないんだよね。

 

 後はわかった事が、この世界の時間は前世と同じ二十四時間。そして一年は三百六十五日だということだ。

 これは正直ありがたい事実だった。



 そして俺は三歳になった。

 父さんはよく庭で、剣の素振りをしている。

 俺も真似をして素振りをやってみると、父さんが嬉しそうに俺の頭を撫でた。


「お前も男だ、大事な人位はせめて守れるようになるんだぜ?」


「うん!」


 父さんはにかっとした笑顔を俺に向けてくれた。

 何か、こういうの嬉しいな。

 この頃から、俺は父さんに剣術の稽古をしてもらった。

 いやぁ、ポイントで購入した技能、『剣と魔法の成長率特大アップ』のおかげで飲み込みはかなり良い!

 結構父さんの剣術を吸収していってると自負しているぜ!

 はっはっは、俺の才能が怖い!


 

 さくっと四歳になった。

 俺はようやく家の外を自由に歩けるようになった。

 俺が住んでいる場所はちょっと規模が大きい村のようで、ザ・田舎を体現したような村だ。

 前世は作曲で結構金を稼いでいたから、都心部でちょっと高めのマンションを買って暮らしていたが、正直コンクリートジャングルは見飽きていたんだよな。

 だから、この田舎丸出しの村ってのは、のどかで俺は好きだった。

 何より、農作業をしている村人の目の光は、しっかりと生きようとした意思が宿っている。だから皆すごい元気だ!

 実はこの村は珍しく小さな図書館が存在している。俺はよく通っていたので、村人から顔と名前を覚えられ、にこやかに挨拶する仲になっていた。

 しかし、ここで俺は魔法の練習に取りかかろうとしたが、とんでもない事実が発覚した。

 魔法は、学校に通い始めて、教師から魔法解放の儀を行って初めて使えるようになるんだとか。

 しかも学校は五歳にならないと通えない。


 マジかよ!

 普通テンプレなら、幼少期から魔法の特訓をして、とんでもない魔力を以て無双していくのにさ!

 人前に出る前に驚愕する魔力量だとか、そういう事は言ってもらえないのか……。

 テンション下がってくるぜ……。


 後四歳になった頃には、父さんと一緒に狩りに出掛けていた。

 父さんと一緒にウェアウルフという狼より牙を鋭くして、爪がまるで刃物のような魔物を狩るんだ。

 俺と父さんは剣でウェアウルフの首を跳ね、その場で血抜きをして解体。

 毛皮は大きな町や村で売る為に、その場で血抜きと解体を行い、肉は俺達家族が食べる分となる。

 父さんは剣術の腕がよく、それから教えてもらった俺も、めきめき上達。

 四歳なのにウェアウルフ位なら単独撃破は楽勝なんだぜ!


「ハル、お前は天才だな! はっはっは!!」


「ふふん、俺は父さんの子だし、当然でしょ!」


 父さんは豪快に笑って俺を誉める。

 まぁ死んだ時に購入した『剣と魔法の成長率特大アップ』のおかげなんだけど、特訓は相当苦労したから悪い気はしないな!


 母さんからは、よく歌を聞かせてもらっていた。

 母さんは昔歌手を目指していたそうだ。

 別にこの世界は、レコードとかそういうのは一切なく、酒場等で歌を披露する。人気が出るとコンサートとかやって稼げるのだそうだ。

 でも結局夢は叶えられず、挫折。普通の村娘に収まったみたい。

 しかし贔屓目を除いて母さんは結構歌上手い!

 俺の楽曲でボーカルとして、土下座しても頼みたい位だった!

 そういや俺も美声を購入していたな。

 くっそ、録音環境があれば俺の声を確認できたのに!

 



 そして待ちに待った五歳の春!

 俺は今、村から少し離れた所にある、学校の入学式に参加していた。

 ふっふっふ、ついに俺も魔法が使える日が来たんだ!

 これをどれだけ待ち望んでいたか!!

 周りを見渡すと、他の村からも子供が集まっていて、総勢二十人位が同級生となる。

 この学校はそこそこ大きく、多数の村から集まってくるので、在校生が思った以上に多かった。


 さて、軽く学校のシステムを紹介しよう!

 まず学校は、最大五年間在籍する事となる。まぁ成績が優秀なら、飛び級してさくっと卒業出来るみたいだ。

 そして卒業したら、様々な選択肢が与えられるらしい。

 冒険者になるか、魔術師として活躍するか。

 冒険者はフリーの何でも屋さんだ。雑草狩りやら、魔物の間引き等仕事の内容は多岐に渡る。

 対して魔術師は、最終目標は王宮魔術師として雇われて、日夜魔法の発展の為に研究するそうだ。

 それまでは冒険者で日銭を稼いだりして、年に一度の王宮魔術師試験に挑むのだとか。

 もちろん冒険者として名を上げてスカウトってのも、選択肢としてはありらしい。

 じゃあ魔術師としての適正がなかったら、どうなるか?

 それは父さんみたいに剣一本で名を上げるか国の兵士になるか、それか狩人になって自給生活をするかだ。


 現在は校長先生のありがたいお言葉を頂いている最中だ。

 ま、どの世界でもお偉いさんの言葉は、長い!

 俺としては前世で結構経験があるから聞いていられるが、普通の五歳の子供にとっては暇すぎる。

 誰一人マトモに聞いちゃいない。

 俺が話を聞いている理由としては、学校生活におけるヒントが隠されているかもしれないからだ。

 俺は飛び級を狙っていて、学校をさっさと卒業したい。

 だから真剣に聞いていたのだが、結局ヒントらしいヒントはなく、無駄な時間でした。

 ちっ! もうちょっと有意義なスピーチしろよ!!


 約一時間だらだらとスピーチを聞いて、ようやく入学式は終了した。

 さて、これからこの入学式に参加した子供達がクラスメイトとなる。

 学校なんて前世の分を含めると、十八年ぶりになるな!

 まぁ定番としては、授業の内容が簡単だってのが異世界転生もののテンプレにはなるけど。

 それでもいいさ、久々の青春を謳歌しちゃおうじゃねぇか!

 そして最速で学校を卒業してやる!


「よっしゃ、いっちょ暴れてきますか!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る