魔王系少女
ぷりっつまん。
第一章 魔王系少女
1.00 日記
何か特別なことがあった日は、日記を書くことにしている。
今日はすごく特別なことがあったから、久しぶりに日記を付けようと思ったけど、前に日記を書いたのは、もう五年も前だった。
いくら魔族の寿命が長いって言っても、さすがに何もなさ過ぎだと思う。危機感を覚えると同時に、その前はどうだったかって気になって見ると、十二年前の日記が書かれていた。つまり前に何かあった時から、七年も前なのか。その前は二十五年前で、部屋の扉が外れて使い物にならなくなったことが書いてある。これ、日記にするような特別なことなのかな。
成人してからこの日記を付け始めたけど、これ、今までの私だったら一生使い切れなかったんじゃないかな。いっぱい書くつもりでかなり分厚いのを買ったしね。今までの生活は十分楽しかったけど、そう思うとちょっと寂しい気持ちになる。
でも今日からは、特別なことが毎日のように起こって、毎日のように頭を悩ませて、毎日色んな所に出向いて、たぶん魔界で一番忙しい魔族になると思う。そうなったら日記は一気に埋まる……かな。なんか特別なことに慣れてしまって書かない気がする。っていうかあれだ。覚えているだけでももっと色々事件はあったはずだ。それらがこの日記には一切書かれてない。
つまり、私に日記は書けないってことか。私はページの隅に今日の日付を書いて、分厚い日記を本棚に戻す。この日記を次に開けるのは何年後になるのかな。もしかしたら開けることなく、命を終えるのかな。
未来のことを考えると不安になるっていう魔族も多いけど、私はすごく楽しくなる。だって何が起こるかわからないんだよ? 良いことが起こるかもしれないんだよ? 何が起こるかわかってる人生ってたぶんすごく面白くないと思う。ほら、誕生日プレゼントの中身を知ってたら、あのドキドキ感がないでしょ? あんな感じ。
今日から新しい日々が始まる。あのぼろ洋館ともお別れ。でも時々遊びに行くからね。心配しなくても良いよ。絶対に忘れたりしない。
人を従えて、広大な領土を統治するという優越感。今まで感じたことのない高揚感。全魔族が私に跪くんだよね。ノワエ様って言いながら。
でもなんかしっくりこない。跪かなくてもいいかな、普通に接してくれた方がやりやすい。まぁいいや。何百年もかけて、私らしい統治をしていこう。
大きく伸びをしてからふかふかのベッドに潜り込む。ああ。今日からこんな豪華なベッドが私の物なのか。嬉しくて涙が出そうになる。
あ、そうだ、一言だけ日記に書いておこう。私は日記を魔法で呼び寄せて、ペンを走らせる。書いた内容は単純で短い。
今日から魔界は、私の物です。
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