04 エロ祖先のルーレット
04-1 根付の秘密
「はあーっ」
茶碗を抱えたまま、自宅の居間で、
「どうした伊羅将。箸が止まってるぞ。珍しい」
そう言いながらも、父親はものすごい勢いで飯をかっこんでいる。男ふたりの晩飯は大雑把というか、雑だ。作るのが面倒らしく、父親は大量におかずを作って、何日もそれで通す。
今、ふたりの前にあるものは、ちくわと野菜の煮っ転がし、味噌汁、ご飯、漬物、そして買ってきたメンチカツ。それに四日前に作ったカレーの最後の残りが、小皿に盛ってある。あとは父親がガンガン飲んでいるビールだけだ。
つまみにするため、のんべの父親の味付けは、どれも濃い。その味にもう飽き飽きしていたが、働いて食わせてもらっている以上、贅沢は言えない。
「ああ。悩み多き十代って奴でさ」
「お前がか?」
父親が噴き出した。母親がいないせいか、父親とは仲がいい。家庭運営が厳しいので、ケンカしている余裕がないのだ。
「高校で、彼女はできそうか」
「彼女ねえ……」
伊羅将は上を向いて考えた。荒れていただけの中学とは異なり、とりあえず高校では一週間かそこらであっさり女子の友達ができた。花音にリンに、あとまあ……陽芽と。
「知り合いはできたよ」
無難な言い方をしておいた。ただまあ、どうやら全員、人間じゃないみたいだけどな。
「そうか」
父親は、能天気に喜んでいる。
「物部家の
若死には事実だ。話に聞くとだいたい痩せてるし、五十代くらいで亡くなることが多いとか。父親は、中では割と元気なほうだという。
「嫁とか、まだリアリティーがないし」
「それもそうか。父さんも高校のときに出会ったわけだが、早すぎたのかな。浮気されてあっさり逃げられたし」
ガハハと笑う。喜んでる場合かっての。この惨状を見ろよ。畳ははげてるし、部屋の壁はボロボロ。窓だって修繕が面倒とか言うから、隙間やヒビだらけじゃないか。
「とにかく、根付をお前に譲って楽にはなったがな」
「どういう意味」
「物部家ではあれは本来、元服、つまり数えで十五になった正月に、嫡男に下げ渡す風習なんだ。……でもお前、八つのときに勝手に持ち出して使っちゃったじゃないか、根付の力を」
「あれ夢じゃないのかな。信じられないんだけど。根付がペカーッて光るとか」
「夢でも現実でもさ。使ったってことは、根付所有権が移ったってことさ。だから仕方なくお前に受け継がせたんだ。……おかげで体が軽くなった」
「軽く……」
「ああ。根付は物部家
なにを当たり前のことを――といった顔つきで、とんでもないことを口にする。
「初耳だけど」
「話しておく必要がなかったからな。お前の『ペカー』が九度めの願いらしいから、当面はもう影響もないはずだし。実際お前、そのあと母さんが帰ってくるよう祈ったんだろ、根付に」
「うん」
「でもそれは実現しなかった。根付は『ペカー』で力を使い切ってたってことになる。『ペカー』が最後、つまり九度めの願いだったって証拠だな」
「なるほど」
「言い伝えが本当ならば、まだ根付との因縁は続くはずなんだが、それは何十年か後かもしれないし、気にしなくていいだろう」
わずかに残った缶ビール(なんちゃってビールだが)をあおる。缶を振って、もう一度口に当て、最後の一滴まで吸い出している。冷蔵庫からもう一本持ってきた。
「ま、それより重要なのは、お前が彼女を作ることと、父さんに新しい嫁さんが来ることだ」
なんとも言えない表情で、こちらを見つめる。
「……なあ、新しい学校の先生で、誰かかわいい人いないか? こう……渋好みで年上大歓迎みたいな若い子。なんなら生徒でもいいな。そしたら父さんが――」
延々続くたわごとを聴き流しながら、伊羅将は、先程の陽芽と花音の話を思い返していた。ふたりはネコネコマタ族という猫又の姫君で、人間世界に「留学」しているのだと語った。神明学園は理事長を代々王家が仕切っており、一族の留学先として一般的らしい。
そしてネコネコマタは今、人類を滅ぼすべく動き始めている……。
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