02-5 マゾッホの眷属
「セフレってなんだよ。冗談よせよな。お前中一じゃんか」
焦る
「ひと目見て、『この御方なら、わたくしをていねいに調教してくれるに違いない』と直感しました。お兄様のご嗜好がよくわからなかったので、ひととおり持ってきたんですのよ」
「ですのよってなんだよ。涼しい顔して。なんだよこのピンポン球みたいの」
穴開きピンポン球ベルトとしか言いようがないものを、伊羅将は振り回してみせた。
「ボールギャグですわ。わたくしの口にさるぐつわとして噛ませて、そこから漏れる言葉にならない愉悦の叫びを、お兄様がお楽しみになるための道具です」
「いや説明を求めたんじゃなくて……。お前なんだ、Mって奴か?」
「嫌ですわ、そんな俗な言い方。もっとエレガントに『マゾッホの
鞭を握らせようとする。
「ちちちちょっと待てっての」
伊羅将は鞭を放り投げた。
「あら。鞭打ちやスパンキングは、お好みではないのかしら」
頬に手を置いて、考えている。
「まあわたくしも実際にプレイするのは生まれて初めてですから、あまりハードでないほうがいいかもしれませんし」
「待て待て待て待て」
伊羅将はさらに焦った。
「花音に顔向けできないだろ。妹にアレコレしたら」
「そう……」
哀れむような視線を投げてきた。
「お姉様がお好きなの? でもそれはお諦めになったほうが……。お姉様には『運命のお兄ちゃん』がおられますから」
「運命の……?」
「ええ。お姉様は幼少の頃、とある組織にさらわれたことがあるのです。そのとき助けてくれた殿方がおられて、その方をずっとお慕いになっているそうですわ」
「……誰だよ、それ」
「あらあら……悔しそうな顔をなさって」
陽芽は微笑んだ。
「わからないんですのよ。通りすがりの方でしたから」
「別に悔しくはないが……」
そう。たしかにかわいいけれど、別に好きなわけではない。ただ危なっかしいから、ほっておけないだけだ。
「ですから、わたくしを……」
熱い視線を注がれた。
「いやいやいやいや。お前に手を出したらマズいだろ。法律的な意味でも」
「ふふっ、いいんですの? 断って」
「へっ?」
「お姉様に言いつけますよ。お兄様にむりやりキスされて、エッチなことをさせられたって」
「……お前なあ」
「ですので、ほら……」
なにか医療器具のようなものとか、謎の風船。使い方の想像すらつかない道具を、またいろいろ出し始めた。どんだけあるんだよ、グッズが。世界は広いな……。
「……まっいいか。あることないこと告げ口されても困るし」
伊羅将は、ゆっくりと深呼吸した。
「やる気になりましたわね」
陽芽はうれしそうだ。
「じゃあ始めるか。俺の好みのやり方でいいんだろ」
「ええ」
瞳が輝いている。
「初めてだから、優しく調教してくださいましね」
「わかったわかった。ほら、ベッドに横になれ」
「制服のままで、ですか?」
「そうさ」
「制服着衣プレイなんて……。お兄様ったら、エッチであられますこと……」
頬が上気している。横たわった陽芽の手に手錠をかけて、ベッドの天板に括りつけた。
「……」
期待に満ち満ちた視線が、伊羅将に注がれる。その瞳に、続いて目隠しを施す。
「ああ……」
なんか知らんが、勝手に勘違いして喜んでいるようだ。
「じゃあな。お休み」
ブランケットをかけてやると、電気を消した。寝袋に潜り込んで、伊羅将は床に寝っ転がる。
「あの……お兄様……」
困惑した声だ。
「黙って寝ろ。放置プレイだ」
「放置……。はい、お兄様」
うれしそうな返事が返ってきた。
「お兄様のご命令ですもの。陽芽は放置に耐えてみせます」
――はいはい。ご苦労様。
魂の底から息を吐くと、伊羅将はまぶたを閉じた。どうにも
もじもじしながら勝手に吐息を漏らしている陽芽の姿を下から眺めながら、伊羅将は子供の頃を思い返していた。両親の間に微妙に波風が立ち、子供心にそれを感じ取って心を痛めていた日々のことを。
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