第4話 ここから私を連れ出して

 昼食が終わり、看護師が膳を下げにやってくる時間だ。


 聖人はいつものように菫の部屋に入り、トレイに乗せられた皿を運ぶ。今日は彼女の誕生日であるため、決められたメニューのほかにケーキがつけられていた。どの皿も空っぽになっており、体調は優れているらしいことが窺える。


「菫ちゃん?」


 普段なら皿を下げたら部屋を出て行ってしまうのに、部屋に戻った聖人は横になっていた少女に声を掛けた。


「……なんでしょうか?」


 慣れていた対応と違うことに驚いたらしく、菫は目を丸くしている。


「誕生日プレゼントとして、外に連れて行ってあげますよ」


「え? 部屋から出られるんですか?」


 目を輝かせ、菫は上体を起こした。体中から伸びる様々な管が揺れる。


「長い時間の外出は無理ですけどね。どこか行きたい所はありますか?」


 聖人の問いに菫はくすっと笑う。その様子に聖人は首をかしげた。


「何か?」


「いえ。夢の通りのものですから、なんだか可笑しくって。願えば叶うものなんですね」


「そうですよ。強く願っていれば、大抵のことは叶います」


「じゃあ、私の身体が治らないのは、思いが弱いから、ですかね?」


 自嘲気味に笑う菫に、聖人は首を横に振った。


「いえ、そうではありませんよ」


「どうしてですか? 私、早く身体を良くして、お姉ちゃんを自由にさせてあげたいって、ずっと願っていたんですよ?」


「…………」


 口を噤んで困ったような表情を浮かべる聖人に、菫は柔らかな微笑みを取り戻して無邪気に告げた。


「天守さん。どこでも良いですから私を連れ出してください。そして一つ、お願いを聞いてくださいませんか?」


「お願い、ですか?」


 同じ顔をした菖蒲のそれとは違う様子に、聖人は正直戸惑っていた。その気持ちの動きが妙に上ずった声となって現れる。


「はい。大したお願いじゃないんですけどね、お姉ちゃんにもプレゼントをあげたくて。協力してくださいませんか?」


「えぇ、そういうことでしたら」


 そして、聖人は菫を抱えて病室を出たのだった。


 * * * * *


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