ブラボー! オー、ブラボー!!

タカテン

第1話 ブラボー、いつものように失恋する


 男たるもの、年頃になれば嫁を娶らねばならない。

 

 ある者は子供の頃から慣れ親しんだ幼馴染を。

 またある者は親が決めた許婚の娘を。

 街で見かけた子、お見合いで知り合った子、友人の妹……とにかく適齢期の男子は、子孫を残す為、命を繋ぐ為にも共に人生を連れ添うパートナーを得なければならない。


 だからブラボー・O・ブラボーは旅に出た。


 長年付き添ってきた母に「必ずや嫁を連れて帰る」としばしの別れを告げ、オルノアという少女を従者にし、未来の伴侶に夢と、そして体の一部を膨らませて、颯爽と家を飛び出たのである。


 実に五年前の話であった。





 ここは大陸のほぼ中央に位置する王国・ワンスワン。

 その片隅にある酒場兼冒険者の宿『爆発する宝箱亭』に、長旅で伸びた髪を無造作に後ろで束ね、ここ数年でさらに逞しくなった巨漢のブラボーが頬に紅葉形の痣をつけ、相棒である緑髪ショートカットの美少女・オルノアと共に現われた。


 テーブルについたふたりにほどなく運ばれるのは、呑んべぇたちが痛飲することで有名な火酒と、ミルクに蜂蜜をたっぷりと入れて果実酒で割ったカクテル。

 この店で一番キツいアルコールと、カクテルとは呼べないようなお子様向けのシロモノを、愛想の良さと胸の大きさがお客さんたちに好評のウェイトレス・アンジーが手馴れた様子でそれぞれを二人の前に置く。


「えー、それではブラボー様の次の恋こそ成就することを祈って」


 毎度のことながらオルノアが溜息をつきつつ、火酒の入ったグラスを手にした。


「乾杯!」


 そしてぐいっと一気に飲み干すと、テーブルに軽くグラスを叩きつける。女性でありながら、実に気持ちのよい飲みっぷりだった。


 対してブラボーはその体躯に似合わず、カクテルを舐めるように一口啜ったと思うと顔を真っ赤にし


「おおおおおおんおんおんおんおん、なんで俺はこんなにモテねぇんだぁぁぁぁぁぁぁ!」


 大声で叫びながら、テーブルに突っ伏して泣き始めた。

 見た目と違って酒に弱く、しかも泣き上戸。

 おまけに女の子にまったくモテない。

 それがブラボーという男だった。


「ブラボーさん、今度は誰にフラれたの?」


 傷心のブラボーが目の前にいるにもかかわらず、アンジーはなんら憚ることなくオルノアに尋ねる。

 旅人である二人と知り合ってまだ数ヶ月しか経っていないが、毎度のことなので言葉には何の遠慮もなかった。


「先日遠征から戻られた女騎士様がおられたでしょう?」


 オルノアの言葉にピクっとブラボーの体が震えた。


「えー、そりゃ無理だよぅ」


 さらにアンジーの嘲笑うような声に、ピクピクっと反応してしまうブラボーの体。悔しいっ、でも反応しちゃう、びくんびくん。


「だって、ブラボーさんだよ? 初対面の女の子に『ヤらせてくれ』とか言っちゃう人だよ? 花屋の娘さんに『合体したい』とかのたまっちゃう人だよ? 体中からやりたいオーラが出ている人なのに、清廉潔白な女騎士様が相手するわけないじゃん」


「それでも今回はブラボー様なりに自重した告白だったのですよ……」


 オルノアがアンジーを女騎士に見立てて、当時の告白を再現してみせる。


『騎士様、あんたに俺の童貞を捧げたい!』


「おい、それのどこが自重してるんだ!?」


 すかさずアンジーはテーブルに突っ伏しているブラボーの脳天に突っ込みのチョップを入れた。


「ブラボーさんって婚活始めてもう五年も経つんだよね? いい加減、もうちょっと女心ってのを学んだ方がいいんじゃない?」


「私も口をすっぱくして言ってるのですが、なかなか……」


「まぁブラボーさんだしねぇ……てか、前にも言ったけど、オルノアちゃんが結婚してあげたらいいじゃん?」


「私はブラボー様に仕える身です。結婚なんて出来ません」


「子供の頃から従者してるんだっけ? まぁ、さすがにそういう人がお嫁さんだなんて、ブラボーさんのお母さんが認めないのは分かるけどさー、でもこのままだとこの人、一生独身のままだよ?」


 アンジーがブラボーの頭の旋毛ををぐりぐりと指で押さえながら言う。


「そうならないように私も頑張っているんですけど……はぁ、どこかに良いお相手はいませんかねぇ?」


「いっそのことサッキュバスを狙ってみたら? あの魔族、来るもの拒まず、らしいし」


「モンスターですか……まぁ、いざとなれば、それも……」


「ふざけんな、お前ら! 誰がモンスターなんかを嫁にするかよっ!」


 そんなふたりの会話をテーブルに突っ伏して聞き、好き放題されていたブラボーだったが、さすがにこれにはカチンと来た。

 顔を上げて、ふたりをジロリと睨みつける。


「ご、ごめんなさい、ブラボー様。……あ、そうだ、いっそのことアンジーさんで手を打つってのはどうでしょうか?」


 ブラボーの怒りを収めようとオルノアが隣りにいるアンジーを指差した。


「あ?」


「ほら、アンジーさんってちょっとおてんばですけどおっぱいは大きいですし、顔も愛嬌あるつくりをしてますよ」


「愛嬌あるつくりってなんかビミョーに貶されているような気がするんですけど!?」


 とアンジーは膨れっ面をするも、冗談めいて胸を持ち上げて誘惑のポーズを決めて見せたりする。

 あくまで冗談っぽく、だ。


「うーん、アンジーか……」


 が、カクテルを少し啜っただけなのにすっかり出来上がっているブラボーは、据えた目でアンジーをじっと見定め始めてしまった。


「え? いや、ちょっと、ブラボーさん。そんな、あたし、困っ」


「ダメだ、ダメ! 俺が好きなのは清楚な女の子なんだ。例えるなら澄み切った水辺に咲く、華麗な一輪の花。比べてアンジーはいいとこ街角の雑草がってうげっ!?」


「誰が雑草だっ!」


 なんの遠慮もないアンジーのトレイによる一撃が、ブラボーの脳天を直撃した。





 ☆次回予告☆


 俺、爆発する宝箱亭に居合わせた、両手が右手のヤツを探している客。

 あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ!


「俺の名台詞がタイトルどころか主人公の名前になっていやがった!」


 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も作者が何をやっているのか分からなかった……。

 作者の頭がどうにかなっているんじゃないかと思ったぜ!?


 次回『ブラボー! オー、ブラボー!』第二話「ブラボー、出会う」


 大丈夫なのか、著作権!?

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