海底神殿㉖
大剣が天から振り下ろされる。
風の補助を受けた川蝉は、その体を後方にスライドさせて避けた。
大剣は床に突き刺さり石畳を砕く。その衝撃波が髪をかき乱してくる。
ボスの間での一戦、二匹のunknownを引き離すのには成功していた。
そして川蝉が相手をしているのは大剣を持ったunknownである。魔法を吸収する効力を持った大剣と渡り合うには、防御と遠距離攻撃は無効化されてしまう。
しかし大剣の性質上、無理矢理近距離に持ち込まれやすく、その上で攻撃も絶対に回避でなければならなかった。下手に受け止めても魔力が吸収されるので意味がない。
だからこそ風の魔法によって運動性能を限界まで高めた川蝉でなければならなかった。
しかし真の問題はそこではない。
――不死か……。
コアを破壊しても死なないモンスター。
ただでさえ強い上に無限の再生力を誇る。
仮にここで打ち勝ったとしても蘇るだけ。まるで無駄なこと。
だから川蝉としても下手に手は出せない。リスクを冒してunknownにダメージを与えたところで意味はないのだから回避に専念するしかなかった。
終わらない悪夢の幕を引くにはどうすればいいのか。
川蝉は横殴りに振るわれる大剣を、伏せて避ける。
果たしてこの一方的な戦闘もどれだけ続くのかもわからなかった。
その中で、もう一方のunknownと戦っていた島田が動くのが見えた。
「なあ、ちょっと俺の話を聞いてくれ!」
島田の大声での呼びかけが大部屋に木霊する。嫌でもその声は耳に入ってきた。
「あいつを倒した時、コアが何かおかしかった。他のモンスターより小さくて中途半端な形だったんだ!」
それは川蝉も気付いていた。直方体であるはずのコアがそうでなかった。
「あくまで仮説なんだが、こいつらは二匹で一つのコアだったんじゃないか!?」
島田は戦いながら叫ぶように説明する。
「仮に一匹のコアを破壊してもそれは半分のコアでしかない。だから再生したんじゃないかって!」
なるほど、と川蝉もそれには納得した。もしそうであれば全ての辻褄は一応合う。川蝉の見た二つのコア、確かに組み合わせることはできそうな形状だった。
「それで俺の考えはこいつらを二匹同時に倒せば、完全にコアが破壊できるかもしれないって思う! どうだ!?」
その場にいた魔法師で反論する者はいなかった。もちろん島田の案を否定することは可能だろう。だがそれをしたところで「じゃあどうするか」と言った代替案を出せるわけがないのだ。
今の状況、島田の案に賭けてみる価値は十分にある。むしろそれしか選択肢はなかった。
川蝉は島田に視線を送り、そして首を縦に降った。
ただしそこからまた難関になる。
どうやって二匹同時に倒すかである。一匹を倒しそのコアを破壊し続けていき、その間に残ったメンバーでもう一体を倒すのが最もいい手か。
しかしそれでは破壊された方のunknownを助けにもう一方のunknownが動く可能性もある。
できればそう言った乱戦は避けたい。あの二匹を同時に相手するのは四人では難しいのだ。
今の状況から二匹を同時に倒すのが、一番不確定要素がない方法だ。
川蝉は大剣からバックステップで距離を取り、八雲に近づく。
「こっちから倒せる状況になったら合図を出す。あとはそっちのタイミングに合わせよう」
「わかった」
返事をするや否や、二人ともそれぞれの戦場へ帰って行く。
unknownが大剣を振るう。鈍器のような重い一撃が垂直に下ろされた。
「っ……」
川蝉は右に体をズラし、それを紙一重で避ける。
けれどそれで斬撃は終わりではない。大剣の重量を無視するほどの筋力で、下ろされたそれの軌道を無理矢理変えてきた。
今度は大剣が斜めから振り上げられる。
「くっ!!」
攻撃に転じるのを即座に辞めて、川蝉は上体を限界まで反らす。わずかにでも当たれば肉を削がれる即死級の斬撃が、顔の前を通り過ぎていった。
生きている気がしない。
反撃も可能だったが、川蝉はそれをせず回避に集中した。
――近接戦は駄目だ。タイミングが合わせられない。
決死の覚悟で挑めば、unknownに刀を食い込ませることは可能かもしれない。だがそれはあくまでunknownの斬撃を避けつつ、わずかな隙を見いだしての一撃。
そのタイミングまでコントロールするのは無理である。敵はあくまで格上の存在であるのだ。
二体を同時に倒すには、もっと確実に好きなタイミングでunknownを倒す術を見つけなければならない。
――まず知るべきはあの大剣の効力か。
吸収すると言っても全てを無差別にするわけではない。現に川蝉が機動力を上げるために身に纏っている風の魔法は吸収されていないのだ。
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