海底神殿㉔

 新手のモンスターを倒した川蝉はすぐに八雲達の方へ向かった。七瀬もそれに付いてくる。


 見れば島田と新入りの伊佐木が負傷していた。二人ともすでに再生は始まっておりそれほど重傷ではない。


 unknownから逃げて階段を上がったらまさかの事態になっており、即座に介入したが正解だったようだ。


 ――それにしてもあのモンスター……。


 似ていた気がする。川蝉達が逃げていたunknownと言うモンスターに。


「大丈夫か?」

「助かったわ。ここで合流するとはね。でもまだ終わっていないわよ」

「何だと?」


 八雲は研ぎ澄まされた顔を全く緩めることなくそう言った。ピンチを切り抜けた者のする表情ではない。


 傷が完治した島田が寄ってくる。


「あいつはコアを破壊しても無限に再生するんだ。死なねえんだよ!」


 その一言だけで全てが理解できた。川蝉の嫌な予感は的中する。


「そっちもか……」

「何だそれ、どういう意味だ?」


 島田が戸惑ったように言葉を返してくる。

 そこで七瀬が口を開いた。


「私達も死なないunknownってモンスターから逃げてここまで来たっす」

「おいunknownって、マジかよ!」


 この驚きよう、川蝉と同じ気分を味わっているのだろう。


「どういうことだ?」

「こっちもunknownと戦っていたの。貴方がさっき倒してくれた。でもそろそろ……」


 八雲が沈黙するunknownの方に眼を向けた。そこにはコアが再生成されている光景がちょうどあった。おそらく完璧な再生にはそう時間はいらないだろう。


「あいつ、まだ……」


 伊佐木がワンドをそのコアに向ける。そのトリガーを引いて雷撃を放った。

 黄色い閃光がまたしてもコアを砕く。


 だが散ったコアはさらなる加速で再生され始めた。


「もう少し話す時間が欲しい。伊佐木さん、まだそれを使っていてくれ」

「わかった」


 最低でもコアを破壊し続ける限りは戦闘にはならない。魔力の無駄ではあるが、まだデータを交換し合う必要があった。


 川蝉もトリガーを引いて雷撃に風刃を加える。


「こっちも似たようなのと遭った。コアを破壊しても死なないモンスター。今戦っている奴にとてもよく似ている」


 白濁色の肌の質感。頭と片腕が存在しない。共通点はいくらでもあった。


「ちょうどアマノといさかいを起こしている時に出逢って、ここに逃げ込んだ」

「アマノはどうなったの?」


 八雲が尋ねてくる。


「俺達と別ルートで逃げた。そこから先は――」


 黒い影が階下から飛び出してきた。


 再生中のunknownのコアを守るような位置に着地する。


「!?」


 雷と嵐が乱入者によって導かれるように吸い込まれてしまった。


 そんなことをできるモンスターは一匹しかいない。


「もう来たのか……」


 大剣を持ったもう一体のunknownが、仲間の壁となる。放たれた魔法は、その全てが大剣によって吸収されてしまうのだった。


 それでも川蝉は構わずトリガーを連打して魔法を撃ち続けた。こうしておけば、おそらく奴は仲間が再生し終えるまでは動かないはずだ。


「おい、どうするよ!? 死なない奴がニ体って、しかも新手は強ぇ武器持ってるし」


 島田の叫びは最もである。魔法師は五人に増えたが、増援された敵がそれ以上なのだからむしろマイナスなのだ。


 八雲は取り乱さず、七瀬に顔を向ける。


「取り敢えず七瀬さん、アマノを探しに行ってもらえる? 急げばまだ間に合うかもしれない」

「え、アマノさんっすか? でも味方になってくれるか……」

「事情を説明すれば来てくれる可能性はある。あいつも最低限、魔法師として仕事を果たすから」

「で、でも……」

「お願い、こいつらがボスじゃないってことは、まださらにボスが残っているってこと。あいつら以上ってなれば、かなりキツい戦いになる。アマノがいるかいないかで、生存率が全然違うのよ」

「わかったっす」


 言われてすぐに七瀬が階段に駆けだしていった。アマノの行方を知るのは川蝉と七瀬しかおらず、彼女に頼るしかない。


「そろそろ時間切れだ。大剣の奴は俺が相手をする。もう一方は任せるぞ」

「一人でいいのかよ!?」

「ああ、何とかする」


 あの大剣を相手にするには、戦い慣れていないと即死の可能性すらある。特に島田と伊佐木は相性が悪いだろう。


 八雲も対応はできるが、初見ではどうなるかわからない。それにここでベテランの八雲が死ねば、リーダーを失ったも同然であり指揮が大幅に下がってしまう。


 川蝉で相手をするしかないのだ。

 けれど自信はあった。


 ――あれを試してみるか。


 まだ前回の戦闘でやり残したことがあった。それをする前にアマノにunknownが拘束されたので試す機会を失っていたのだ。


「なあちょっと聞いてくれ、実は気になることがあるんだ!」

「そんな時間はなさそうよ」


 島田の言葉を遮断して、八雲が奥に眼を凝らす。その眼光の先では尾を持ったunknownが体を再生させ復活を果たしていた。


 その掌から赤い魔力を収束させる。何かの攻撃が来るのだ。


「尾のある方は任せた」


 川蝉はトリガーを引き、風の魔法を己の体に纏わせる。そして風力で己の体を浮かし、虚空を翔ける。


 その目指す先は、大剣を持ったunknownだった。

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