海底神殿⑮

「透さん!」

「ああ、気を付けろ」


 川蝉はワンドのトリガーを長押し、そのアルター機能を発動させる。杖は刀にその姿を変えた。


 海底神殿のダンジョン、その二階層目に川蝉達は来ていた。


 今回のダンジョンは前回と違い階段を上ることで奥に進める仕組みになっている。それはタブレットのマップ機能によって確認済みであった。


 ギングを倒し七瀬と探索して第二層の通路を行き、その途中に異変と遭遇したのだ。


 蛍光色の赤、ターミナルを発見。そこまではいい。


 だが様子がおかしかった。内部から誰かが暴れ回るような、金属を叩き割る音が木霊していた。しかも無差別的に滅多撃ちしている、異様に攻撃性のある不気味な音である。


 これで警戒をするな、と言う方が無理だろう。


 ――これでハッキリするな。


 ダンジョンに蔓延はびこっているターミナルを壊す害。ここで必ず決着をつけねばならないだろう。


 川蝉は七瀬の前に出て、気配をできるだけ殺しながら進んでいく。


「!?」


 そして一定の距離まで接近すると、突如音が止んだ。騒音から無音に急激に変わるとそれはそれで不気味なものである。


 ターミナルの小部屋の入り口から中を覗き見る。


 ――何もない……か。


 まだ壊された壁や端末しか見えなかった。問題はそれを行ったなのだ。

 川蝉は刀に取り付けられたトリガーを引く。


 大量のシャボン玉のようなものを発生させた。一つ一つに圧縮された風刃が籠められた空気爆弾エア・ボムである。


 敵はまだターミナルの内部にいる。


 こうなれば先手必勝、先に攻め込むべきであると判断した。

 空気爆弾エア・ボムは小部屋の中に入っていく。


 だがそれだけで反応はなかった。もし誰かがそれに触れていれば爆発しているのだが。


「本当に何もいないんすかね?」

「いやそんなことはない。何かの能力だ」


 チマチマと探っていても埒が空かない。

 そう思って川蝉はターミナルに足を踏み入れた。


「…………」


 相変わらず無惨に荒れ果てた光景が広がるだけだった。他で見たターミナルの様子と変わったところはない。


 


 一つ小さな違和感がそこにはあった。普通にすれば見過ごしてしまう、小さな違い。


 白くて細長い箱か柱のようなものが部屋の隅にあった。あまりに自然で初めて見た者には、部屋の一部にしか見えないだろう。


 だがターミナルをいくつも見てきた川蝉には、それがあるはずのないものであることがわかっていた。前のダンジョンも今回のダンジョンも、違いは数えきれぬほどあれど、ターミナルの造りは全く同じなのだ。


 川蝉は空気爆弾エア・ボムをそこに向かわせる。


「もしアンタが魔法師であるなら、姿を表した方がいい。違うならすぐに殺すことに――っ!?」


 四角いそれがぐにゃりと歪んだ。歪みはスライムのように形を変えながら、口のような物体を出現させる。それが言葉を発した。


「おっと、それは困りますねぇ」


 やがて歪みは色味を変幻自在に変え、一つの形に収束していく。


「お手上げですよ、川蝉君」


 そこにいたのは両手を上げたアマノだった。

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