青結晶の洞窟㉕

「ドラァ!」


 島田が地面に拳を打ち付ける。その衝撃で地面に蜘蛛の巣のような地割れができた。その割れた岩盤の内、最も大きな一枚を手に取る。


 そして蝦蟇ガエルに向かって全力でそれを


 地面に散らばっていた油が収束する。それらは巨大な壁と化して、岩盤を受け止めた。


 島田はジャンプしてその投げた岩盤に足を乗せる。そこからさらに跳躍して、天井に届く高さまで飛んだ。


 そこからさらに天井の岩を蹴って、眼下にいる仙人めがけて流星のごとく落ちる。


「このぉぉぉぉ!」


 大きく振りかぶって拳を構えた。


「!?」


 まさかの肉弾戦は仙人も予想外だったようで、焦ったように油の防壁を上部に展開させる。


 防御が上に集中するところで、八雲が剣を振るった。


 剣の刃は分解されて伸びていく。鞭のようにしなやかに動く剣に仕込まれたワイヤーが蝦蟇ガエルの足下へ飛んでいく。


 多少の油の邪魔はあった。しかし剣が纏った蒼炎がそれらを蹴散らしていく。故にその侵攻を止めることはできなかった。


 危機を感じた蝦蟇ガエルは初めてまともに動いた。その畳んだ両足を使って地面を蹴った。


 天高く上がって、島田と八雲の攻撃を避ける。


 だが――


「まだだ」


 蝦蟇ガエルの背後に川蝉はぴったりと張り付く。


 風力にて空を共に駆け抜ける。


 仙人が首を180度後ろに回して火炎を吹いてきた。

 川蝉もワンドのトリガーを引いて即座にそれに対応する。


 火炎と嵐が正面から衝突した。単体でしかも油の力が乗っていない火炎では威力が足りず、嵐が炎を打ち破り仙人を破壊する。


 空中から蝦蟇ガエルが着地する。


 機動力を発揮して本気を出してきた蝦蟇仙人に出せる最後の手。

 


 川蝉は残った最後の魔力をトリガーに込めて絞り取った。


 だが瞬間、蝦蟇ガエルの黒の油が絶対的な障壁を生み出す。


 それを破らなければこの戦いには勝てない。おそらくはラストチャンス。逃せば勝機はない。


 出した風は針の細く、そして短いものだった。


 極限なまでの


 全ての無駄を排除して、命中率も無視。極小の中にエネルギーの全てを注ぎ込んだ。


 その一点が油の壁にぶつかる。そのとき極小に込められた多大な魔力が解き放たれた。超圧縮された魔力がミクロの螺旋を描く。


 それは油の壁を削り取り、強引に小さな一点の穴を開かせた。その針の穴を、風刃がすり抜ける。


 一閃――煌めく光のごとく刺突が疾走する。


 それが蝦蟇ガエルの額を貫いた。

 血肉と脳髄が弾け飛ぶ。


 それでもなお、蝦蟇ガエルの瞳は死んでしなかった。油の壁から仙人が続々と現れ川蝉の眼前に立ちふさがる。


 もう魔力は使い果たしていた。


 それを発動させる。


 蝦蟇ガエルの足下からシャボン玉のごとく空気爆弾エア・ボムが大量に吹き上がっていく。予め仕掛けておいたものだった。


 そもそも空中戦の時点で仕込みはしていた。大気の流れで蝦蟇ガエルの着地する場所を誘導。その周囲に事前に罠として出しておいた空気爆弾エア・ボムを集めたのだ。


 脳髄を引き出された箇所、貫かれた区域からが空気爆弾エア・ボムが入っていく。それらが爆裂して内部から穴を生み出した。


 そこからさらに続けて大量の空気爆弾エア・ボムが流入していく。


「爆ぜろ」


 十二分に入ったそれらを起爆させる。風刃が蝦蟇仙人本体の内部を切り刻んでいった。その爆発が地獄のように連鎖する。


 蝦蟇ガエルの全身から血が垂れて、その体が膨張していき風船のように丸く膨らむ。もはや油の壁が消えていた。


 そしてボスが――弾けた。


 蝦蟇ガエルの体が内側から破裂する。同時に黒い直方体が空に舞った。


 だが刻まれた傷に耐えきれずコアは手を加えるまでもなく割れていく。


 コアは割れると粒子のように分解されて天に向かって上昇していった。


「オッホッホッホ!」


 仙人が笑う。


 不気味な高笑いが洞窟中に響きわたった。


 そしてそれもどろりと溶けて消えていく。


 後に残ったのは混沌とした蝦蟇油だけであった。

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