缶詰シロップ

フルーツの沢山詰まった缶詰にまつわる思い出があります。

果物を保存するシロップがありますよね、保存されている果物の甘い香りと味わいが感じ取れる甘露です。

私のおばあちゃんはこのシロップが好きで、幼いころ私におやつとして缶詰を買ってきては、中身を私に食べさせてくれて、少し残ったシロップだけをぐいっと飲み干していました。

「ばあちゃんは果物いらないの?」

と聞いても。

「わしはもう食った。」

と言っていたので、とりわける際に食べているのか、缶に少し果物を残して一緒に飲んでいるのかと思っていたのですが、どうやらそうではなかったのです。


おばちゃんは結婚してから三人子供を産んだそうですが、三人目が産まれて少し経った時に旦那さん(私の祖父)が蒸発してしまいました。

幼子を三人抱え、極貧の生活を送る中、缶詰を子供たちに買ってきて食べさせてあげると自分の分は残らない、それで缶に残ったシロップを飲んでいたようです。


食べ盛りの子供たちに甘い果実はごちそうです。

きっと兄弟で取り合って喧嘩したり、時にはお互いに分け合ったりと、様々な兄弟模様を繰り広げていたでしょう。

私はおばあちゃんはこの姿を見ておなか一杯になっていたのではないかと思います。

喜んだり悲しんだりする子供たちの姿は、おばあちゃんにとってはどんな甘い果実よりも甘く、それだけで満足な幸福感を得ていたのだと、そう考えると孫である私にも同じようにしてくれていたんだなと嬉しく思います。


禅に足るを知るという言葉があります。

そこまで詳しくないので説明もあやふやですが、満足だといえることが大切だという意味です。

であればまさしくおばあちゃんは足るを知っていた人だったと、缶詰のシロップから教わる今日この頃でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る