野士
「この辺じゃイワナはとれねえ」
女の老人が俺に向かってそう言った。
「だろうな」
俺はそれでも網仕掛けを仕込む。
「まぁイワナ、鮎だとか、鱒だとか、川魚で採れるものは限られている。だけれど、まぁほかにもいろいろと小魚はいるが、俺が狙ってるのはカジカだ」
「ああまたずいぶんと珍しいものを」
老女はそう言って去っていった。
網仕掛けを川に張って、あとはまぁ適当に釣りをする。もってきた金属のシャベルで土を掘って、アルミのバケツの中にミミズを入れる。
結構強度のあるしなりのいい竿で魚を釣る。
川は海に比べてやりにくい。
だけれど地元の料理屋や都会の方にも持っていくので、しぶしぶやるといった感じだ。
「最近どうよ?」
食品を扱う子会社を経営している昔ながらの友人からこうやってちょくちょく電話がくる。
「まぁまぁだね。冬だから、今はあんまり仕事にならねえ。でも春にかけてまた頑張ろうかな」
「ほどほどにな。またいいのが入ったら教えてくれ」
日が暮れるまで適当に釣った後、網を一気に引き上げる。沈んでいく暗がりの光に照らされたのは銀色や茶色の魚たち。
俺は手早くそいつらを持ってきた氷の中にぶちこむ。
大学を二年で中退後にここへやってきた。
家は東京から電車で一時間のところにある。
どうしても流通の都合上そうせざる得ない。
だから俺はスバルの軽を走らせて、こうやって毎日山の中だったり、川だったり、畑だったり、海などに通う。
都合上、どうしても寝泊りを外ですることになる。それが野士の仕事だ。
軽を走らせながら山のふもとで流通のおっさんに採れた魚を渡す。
明日もやるので、今晩は泊まりだ。
「せいがでるね」
「いいや。それほどでも」
「楽しいか?」
「まぁね」
俺はそう言って、また山の中に入っていく。氷の入った新しいアイスボックスを後部座席に乗せる。
適当なところで、俺はおっさんからもらった弁当を食べ、魔法瓶の中の紅茶を飲む。
星が輝いていた。都会育ちの俺にはめずらしい光景だ。
きらきらと名前の知らない星が銀色の光を放つ。
冬の寒さが身に染みる。岩肌の感触だったり、川の水の匂いだったり。
車の中で俺は眠りにつく。
毛布にくるまりながら、夢を見る。
夢の中で俺は過去の復讐をしていた。なぜだろう。
朝、目覚めた時は早朝で俺はさっそく魚を採りにまた出かけた。
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