古い下着を雑巾にする人っていたよね (後編)
「きのこを見てるとね、思うの」
「ん?」
「……食べたいなぁって」
「だから下ネタか貧乏ネタかはっきりしてよ」
〜〜
「濡れてきた」
「無理やり下ネタぶち込むのやめようね」
「おっ、ぶち込むとは!お目が高い!」
「……」
またここに戻ってきてしまった。喫茶ラブドリーム。夢も希望もない経営状況。
今日頼んだのはパフェだ。これなら、まぁどこの店でも具材の出処はそう変わらないだろうし、まずくはならないと思う。それこそ具材をぶち込……盛り合わせるだけなのだから。
「あのさ、そういえば、さっき給料日って言ってたけど、花上さんがオーナーじゃないの?この店」
「母が一応オーナーなの。私は与えられた金でやりくりしてるってこと」
「もうさ、潰したほうがいいでしょこの店」
「……私のセリフよ。何回言ったことか。でもダメね、聞かないのあの人。私が経営難で苦しむ姿フェチなの」
「本当に遺伝だね」
「ちなみに私は背筋フェチ」
「あっ、そう」
まぁ、この人も大変なんだなぁってことはわかった。かといって、別にこの性格を受け入れたわけじゃないけれど。
「花上さんはいいとして、キッチンの人の給料はどうしてるの」
「それを払ってるから経営難なの。わかる?」
「何でそんな偉そうなの」
「エロそう?」
「減ってしまった下ネタ成分をラノベ難聴で補うのそろそろやめない?」
貧乏だからって、ネタまでチープにしないでほしい。
「まぁほら、下ネタって、こう、何ていうの。うーん。出そうで出ない。困ったなぁ。その点男の子は出そうになったら出るからいいよね」
「無理がない?」
「まぁ別に女の子も出そうと思えば出せるものはあるけどね」
「あるんだ」
「まぁ金は出ないんだけどね」
「かわいそう」
どうやら開き直ったらしい。まぁ、すでに土下座までしてるし、もうプライドなんて無いんだろうなぁ。
「ところで、今日の私の服装、気がつくところない?」
「気づくも何も……」
制服の件については、さっき聞いた。
「そう。下着を着けてないの」
「足りてないだけでしょ」
「わかってきたね」
「わかりたくもない」
今、花上さんは俺の向かいの席に座っている。制服のスカートはそこそこ長めだ。ラッキースケベは無さそうだし、下ネタおばけのラッキースケベに価値があるのかどうかって問題もある。
「ねぇ小太郎くん!今履いてるパンツを頂戴!」
「どっちの意味で?」
「下ネタ的な意味で」
「じゃあダメ」
「えっ、貧乏的意味ならいいの?」
「いや、ごめん。ダメ」
花上さんは微妙な表情をして、椅子の背もたれに深くもたれ込んだ。
「んだよ……。期待させんなよ……」
「口が悪いね」
「ごめんね〜。あんまりお口でしたことないの〜」
「下ネタに魂がこもってないよ」
「あ〜あ。もういっそ本当にそういうお店やろうかな」
「連載終了しちゃうからやめて」
悔しいけど、この人には死ぬまで下ネタを言ってもらわなきゃいけない。
そんなこんなで、ベルがなった。
花上さんが店の奥に以下略。
思ってたより、普通のパフェが来た。サイズこそ控えめだけど、普通に期待できるフォルムをしている。
「ど〜ぞ。私の財産だと思って食べてね」
「重たい重たい。いただきます」
まずは上に乗ってる切られたバナナと、生クリームを同時に食べる。
……普通に美味しい。いやまぁ、パフェをまずく作れというほうが無理か。
「どう?美味しい?」
「うん」
「はい、お手拭き」
「ありが……」
受け取りそうになった手拭きは、明らかにパンツの形をしていた。何てことだ。手拭きを買う金すらないのか。
「……と、いうわけで、今日はノーパンです!」
「本当に悲しくなるからやめて」
「いいの。食べて食べて」
心なしか死ぬ気で作ったと思うと、このパフェも美味しく感じる。いや、作ったのは給料をしっかりもらってるキッチン担当なわけだけど。
しかし、フルーツが少ない分、すぐに生クリームだけになってしまった。というか、器が透明じゃなかったから気がつかなかったけど、これ、ほぼ生クリームじゃん。確かに、3分くらいで出てきたから、おかしいとは思ってたけれど。
「花上さん。ちょっと食べる?」
「えっ。いいの?」
「いいよ。こんなに生クリーム食べられないし」
「……恩に切ります」
いつになく真剣で、下ネタがなかった。花上さんはエプロンのポケットからスプーンを取り出すと、多めにすくい取り、口に含んだ。
「美味しい!生クリームだ!」
「語彙力が無さすぎるでしょ」
「小太郎くんの生クリームだね!」
「別にそれは下ネタじゃないよね?」
「いや、白いから下ネタかなって……」
「そんなこと言ったらこの器の下のコースターだって白……あれ」
器をどけると、コースターがドーム型に膨らんだ。珍しいコースターだ。手に取って見る。妙な肌触り。
「……と、いうわけで、今日は片方ノーブラです!」
俺はパフェ代七百円を置いて、早足に店を出て行った。……今度こそ、もう二度と来るまいと誓う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます