下ネタ喫茶ラブドリームへようこそ

なまたカリエ

出会って3秒で後悔 (前編)

「小太郎くん小太郎くん!」


「なに?」


「喘ぎ声って十回言って」


「言えるか」


「じゃあ十回喘いで?」


「……」


〜〜


「いや、いきなり上の会話じゃあ無理がない?」


「開幕メタ発言だけはやめて」


そういうのが嫌いな読者、桶から溢れるくらい知ってるから。


えっと。


「自己紹介、する?」


「自己紹介?」


「いや、君と会うの初めてだよね」


「あぁ。うん」


女の子は背筋を伸ばして、咳払いをする。


「私は、花上野乃。女性の花びらの花に、上半身の上。野外プレイの野に、乃……。ねぇ、乃のつく下ネタって知らない?」


「知りません」


そもそも上半身は下ネタじゃないんだけど……。


「はい、次は君の番」


「俺は渡辺小太郎。去年まで浪人生だったけど、途中でやめて今はニートです」


「ニート?じゃあ毎日家でシコってばっかりなんじゃない?」


「否定はしないけどね」


改めて、こんなところ来るじゃなかったって思う。


おしゃれな内装。具体的には、シャンデリアとか、木造だとか。かかってるBGMさえもおしゃれ。当然外装も、知る人ぞ知る。みたいな場所にあるおしゃれで控えめなドアから始まり、人を高揚させるものだった。


それに惹かれて、入ったらこれだ。出迎えてくれたのは、身長やや高めの金髪色白のスレンダーな女の子。目が会うなり、「私のパンツの色を当てたら、コーヒーを一杯サービス!」なんて言ってきた。


そして、今に至る。短い状況説明だった。


「あの、店員さん」


「野乃って呼んで」


「店員さん。座っても良いかな」


「野乃って呼んでくれないと、あなたに襲われたって叫んじゃうよ」


「花上さん」


「まぁそれでもいいや。あと私、別に襲われても叫んだりしないから、いつでもウェルカム」


俺はその優しさを無視し、席に着く。とりあえずメニューに目を通した。ちょっと身構えたけど、内容自体は普通だ。普通すぎて逆に疑わしい。


「ご注文はお決まり?」


「まだ考え中でーす」


「ホテルは別でいい?」


「じゃあこのオリジナルコーヒーとサンドイッチのセットで」


「かしこまりー!」


早くも扱い方を覚えてしまった。あの人の下ネタは、受け流せばいいらしい。


注文を伝えに行った花上さんが、忘れていたかのように、水を持ってきた。


「10分くらい待ってね」


「うん」


「それまでここに座っても良い?」


「どうぞ」


どうせ断っても座るだろう。


「ねぇ、小太郎くんはどうしてこの店に入ったの?」


「どうしてって言われてもなぁ」


「昼間にこんな喫茶店入ってくるなんて、結構クレイジーだよ?」


「そうでもないでしょ。別に、がっつり食べられるメニューを置いている喫茶店も多いし。朝とか夕方だけってイメージはないな」


「いや、この店の入り口の看板、見てないの?」


「……なにそれ」


俺は急いで席を立ち上がり、店の外装をもう一度確認する。実は、あの時俺は衝動的に入店したので、顔を上げないと見れない看板については、全く見向きもしていなかったのだ。


派手な看板。セクシーな水着を着た女の子が二人、端っこに描かれており、真ん中には、それこそそういう店のような字体で、「ラブドリーム♡」と書いてあった。


……これが目に入ってたら、絶対入店なんてしなかったのに。


「おかえり〜。お風呂にする?ご飯にする?それともお風呂にする?」


「うわー。意味がわかってしまう自分が嫌だ」


より一層ニコニコした花上さんに、釈然としない気持ちを抱きながら、俺は再び席に着く。


「ところで、私ね?こんな下ネタばっかり言う女の子じゃなかったのよ」


「あぁそうなの」


「こうなったのはだいたい十年くらい前かな」


「結構初期段階じゃん」


「えっ?私、そんな若く見える?」


俺は少し考えてみる。見た目的には俺と同じか、多めに見積もっても二つくらいしか年は離れていないような気がするけど。というか、その前提で、俺はタメ口なわけだけど。これで三十五歳とかだったら、哀れみの敬語を使うことになってしまう。


「じゃあ三択クイズね。五歳。十九歳。六十八歳。さぁ選んで?」


「クイズ作るのが下手くそすぎない?」


「正解は十九歳でした」


「だろうね」


と、いうわけで、無事俺の見積もりは正しかったらしい。女の子の年齢、間違えると血を見ることになるからね。気をつけようね。


「でもね、あと一ヶ月で二十歳なの」


「へぇ〜」


「二十歳って素晴らしくない?お酒もタバコもやり放題」


「それだけの資金力があればね」


「無いと思ってる?」


「年齢的に考えれば」


「こんなに立派なお店を持っている家庭なのに?」


「なるほど」


「まぁ見ての通り、客が来ないからヤバイんだけどね」


「あの外装ではね」


来るとして、酔っ払ったサラリーマンくらいのものだろう。それすら、来ても、ここが喫茶店だと知ったら、泡を吹いて帰るに違いない。というか、そういう人が来た時、この人大丈夫なのかな……。


「そういえば君、去年まで浪人生だったってとこは、私と同い年?」


「どうかな。多浪の可能性もあるよ」


「そうだよね。言われてみれば」


「冗談だったんだけど」


「冗談は嘘と紙一重なんだよ」


「それを君が言うんだ……」


嘘つきは泥棒の始まり。というなら、冗談つきは嘘つきの始まり。とでも言えるのだろうか。でもそれだと、アメリカンジョークを得意とするアメリカ人の皆さんは、最終的にみんな泥棒になっちゃうか。不成立。


「ところで、この店は、フロアは花上さんだけなの?」


「そうだよ。だから指名料もかからないってわけ。おっとくぅ〜!」


「テンションでごまかすのやめようよ」


「ちなみにキッチンも一人だから、どっちか風邪ひいたら終わりなのよね〜」


「よくここまでやってこれたね」


「いやだからヤバイよ」


これ以上は触れないことにした。明日には潰れてるかもしれない。


店の奥でベルが鳴る。それを聞いて、花上さんは向かっていった。おそらく料理ができたのだろう。


しかし、戻ってきた花上さんは、何も持っていなかった。


「あれ。料理ができたのかと思った」


「違う違う。あの子がトイレに行きたいって言ったから、その間作業を変わってただけ」


「……大変だなぁ」


料理ができるまで、まだ少しかかりそうだ……。

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