表の世界、裏の世界 第一部 碧翠の夜伽巫
禪白 楠葉
第1話 中学三年生 9月 夢の中の神様がお姉ちゃんになりました
最近、似た夢を繰り返し見る。
出てくるのは、美人のお姉さん。
俺といつも何か話している気がする。
青のワンピースに、青のピアスが頭に残る。
紺とか藍や水色でなく、透き通る海のような碧。
見渡す限り広がる、大海原のように包み込むイメージだ。
全てを吸い込むような、全てを任せたくなるような感じがする。
何でこうなったんだろう。
そうだ。あの時か。
一週間くらい前の
何となく、特に考えもなく来てみた夏祭りで、特に用があったわけでもなく足を踏み入れた清海神社で、つい自然とお賽銭を投げ入れたら、こんな声が聞こえたんだ。
「今の人生、変えたい?」
その声に俺はなんとなく手を合わせてお願いしてしまった。
「もっといい家族がほしい。」
家族なんてそう簡単にチェンジできるものではない。
だから無茶を承知の上でそんなことを言っちゃった。
謎のお姉さんが夢に現れるようになったのは、確かその日からだ。
全く無関係じゃないと思う。
今の家族は最悪だ。
俺と両親の三人家族。
そして家族仲がこの上なく悪い。
親といるといいことは何一つとしてない。
数年前に、母のいとこが会長を務めていた、一代で驚くほど急成長していた会社が潰れてしまった。会長は詐欺と脱税で逮捕され、新聞報道までされた。会長には小学生の子供がいたけど、もちろん、一家離散した。一族の誇りが瞬時に一族の恥になったその影響で親戚一同の関係がギスギスするようになった。俺の両親の仲もおかしくなり、家の中だというのに空気がぴりぴりするようになった。まあ、こんな事件があったら、家族仲が悪くならないほうが異常だと思う。
両親は家の中ではお互いに口もきかないか、口を開けたら悪口か嫌味ばかり。俺と顔を合わせると八つ当たりしないほうがおかしい。穀潰しだ、おまえのせいで家計が苦しいんだ、俺の存在が最大の失敗だった、そう罵しられるのにも慣れてきた。不思議なことに、そういう時だけは気が合うらしい。当たり前か。俺は格好のサンドバッグだからな。それでいて外面は良いから、よそでは仲の良いおしどり夫婦を演じている。家の中がこんな感じだなんて親戚以外はだれも思わないだろう。俺が助けを外に求めても一笑に付されるだけなんだろうな。
だけど俺は部屋に引きこもったり非行に走るつもりはない。自殺するつもりもない。そういうの面倒だし。だらだらと、余計な問題に巻き込まれないように、おとなしくひっそりと生きるほうがいい。顔も地味だし、身長も低めで痩せ気味だから、もともとクラスで目立つようなタイプじゃない。むしろ「このクラスにいたっけ?」と思われている人ランキングのトップ3に入ってると思う。俺がまだ救われているのは、俺の苗字が元会長の苗字と違うから、周囲の人に俺が関係者とばれにくい点だ。苗字が同じ親族よりはずっとマシなんだろう。そう考えると不幸中の幸いだったのかも。
年が明けたら高校受験。だけど何かを頑張る気が起きないせいで成績は落ち気味。それで余計に親が怒る。悪い成績は文句をいう口実として格好のネタだ。考えれば考えるほど、俺はまるでスケープゴートだ。俺を攻撃することで夫婦関係が成り立っている。子はかすがい、なんていい方があるけど、まさにその通り。負の意味でだけどな。
気分が落ち込むといつも考えてしまうことだが、俺の人生、一体何のためにあるんだろう。この家で生きてていいことなんて俺にとっては一つもないんだよ。
どこか遠くへ、遥か遠くへ行ってしまう妄想をすることがある。もちろん、一人でだ。最近は車やバイクの雑誌を立ち読みして自由気ままに旅に出ることを想像し、現実から意識を逸らすことも多い。そういう本はコンビニには売ってないから、大きい本屋に寄ることがあった際に、ちょっと立ち読みするだけ。
そこに、あのお姉さんだ。
これ以上状況が悪くなることはないだろう。
せっかくだから、もうちょっと話をしてみたい。
幽霊か怨霊か、そんなのかもしれないけど、今より悪くなることは無いと思う。どうやって話をすればいいのかわからないけど、心は開いておこう。失うものなんて、もう何も残ってないだろうから。
◆ ◆ ◆
さて、寝るか。
とにかく布団に入ろう。頭の上まで布団をかける。外の世界から隔絶された、布団の中の世界。俺が安心して俺でいられる、数少ない場所。
「やっほー! いつものお姉さんでーす!」
頭の中で声がする。
はっきりと声がするというよりは頭の中に音が浮かぶ感じ。
心の中で声にして考え事をするときのように、心の中に意味のある言葉が浮き上がってくる。自分が考えていないことだから、話しかけられていることがわかる。
「ちゃんと聞こえてるかな? やっと心を開いてくれたみたいだね。
ここは夢と現実の中間くらいだから、夢の世界に遊びに来てると思ってよ。深く考えちゃダメだよ?」
まあいいか。お姉さんと話ができてるんだし、そういうことにしておこう。
なんか会話が成り立ってるみたいだから、これでいいのかな。
「集中できるよう目を閉じててね? そして今みたく心の中で話してね。
で、キミ、目の前に何か見える?」
見えない。暗闇。
「ちょっと残念だな。夢のなかの私、どんな感じだったか覚えてる?」
よく覚えていないけど、青い、シンプルで広がってるワンピースに、同じ色の青いピアス。黒くて長い髪。
きれいで、包容力がある感じ。
「褒めてくれてありがとね。お世辞でも嬉しいな。
でも、私の姿をはっきり思い浮かべることが出来ないなんて、お姉さんちょっと残念だな。
せっかくだから目の前で私の画像を組み立ててみてよ。ほら、風景を見た後に目を閉じると、しばらくしても風景がなんとなく見えるでしょ? 学校の授業で絵を描く時にも、実際に筆を動かす前に、目を閉じて何を描くか想像するように言われなかったっけ?
色彩は鮮やかではないかもしれないけど、少なくても雰囲気はわかるよね。そんな感じで、ぼんやりとでいいから、私を想像してみて?」
ぼんやりと人の輪郭が思い浮かぶ。でも細かいところは無理。
「しょうがないな、しばらくは声だけで我慢するか。だけど、暇な時にできるだけ頑張ってみてね? 美人のお姉さん、嫌いじゃないでしょ?」
そりゃあ、嫌いじゃないさ。
「だったら私の姿を見えるよう、いっぱい努力しないとね!」
ああ。
「頑張れば人生いいことがいっぱいあるかもよ?
あ、そうだ。キミ、私とこれからも話したい? それとも、私といるの、嫌?」
もう少し、付き合ってもいいかな。
「うーん。ちょっと失礼な言い方だよ? お姉さんが好きだったら、もっと積極的に、『お姉さんともっとお話したいです!』って言わなきゃ。
男の子は素直が一番なんだからね?
そうだ。せっかくだから、私の名前、当ててみてよ?」
はぁ? 無理だよ!
どうしろっていうんだよ! ヒントもなしに?
「じゃあ、私の名前をキミの心の奥底に囁きかけるから、それを感じ取って。」
どうやればいいんだよ。もうちょっとヒントをほしいな。
「もう。お姉さんに対して反抗的な言い方はよくないよ?
安心して。日本人の女の子にありがちな名前だから。音の響きで考えてね。」
まあいいか。
考えろ俺。
落ち着け、俺。
お姉さんはムチャクチャな要求をしているわけじゃない。
だってそうでしょ? 嫌がらせにしては中途半端すぎる。
「そうだよ? 無理なこと言ったって、私が得するわけないでしょ。」
……う、え、お段はなさそう。濁音半濁音もなし。
「いいね、その調子!」
マジ? こんな感じでいいの?
2文字だ。
五十音図で、後ろの方の行の文字が1文字め、前のほうが2文字目。
1文字目がい段、2文字目があ段。
リカ、リサ、リナ、ミナ、ミカ、ミサ……これか? 「ミサ」でいいのかな?
「キミ、やるねえ! 見事、正解だよ?」
褒められた。
「そういえば、最後にキミが褒められたのって、いつかな?」
……覚えてない。
くそっ。なんだよ、俺の人生。
俺、そんなに惨めな人生送ってたのかよ。
「せっかくだから私が考えたキミの名前も当ててみてよ。キミが頑張ってるからヒントをあげるか。最初のほうは、キミの普段の名前そっくりだから。」
俺の名前は
「ハルキ」、「ハルオ」、「ハルミ」、「ハルカ」?
え? 「ハルカ」が正解なの? 女の子の名前みたいだけど、いいの?
「別にいいじゃない。男の子の名前でもあるでしょ? それに、遥か遠くにあこがれているハルカ君にとっては、悪い名前じゃないと思うんだけどなー。」
まあ、いいか。
「あのね、お約束があるの。私達二人だけの場所では、お互いに『ミサ』と『ハルカ』と呼び合うこと。夢の世界ってかなり荒れてるから、セキュリティが重要なんだよね。悪夢を見させる妖怪の怪談話、聞いたことあるでしょ?」
それ、ネタでしょ?
「とにかく、私が本物か偽物か、今後100%の精度で見抜くことができる自信ある?」
……まあ、無理、だよね。
「今、ハルカ君に『ハルカ』と呼びかける人は、私しかいない。キミを『ハルカ』と呼ぶ人がいたら、安心して私だと思っていい。だから『ハルカ』という名前は、他の人に絶対に言わないでね。人に自分の家の合鍵を渡すようなものだから。そして『ミサ』という名前も他人に言わないで。私が偽物に見えたら、遠慮無くカマかけていいから。『あんた、ミキなの?』とか。自分が『ミサ』以外だと認めた者は、偽物だから。」
意外と大変な世界なんだ。
「面倒極まりないでしょ? でも、なりすましが横行してるから大変なんだよね。騙し、騙されの無法地帯。夢の世界は理想の世界じゃないんだから。
あと、私の象徴というか、こだわりは両耳の碧のピアス。これつけてなかったら私の偽物だよ。」
偽物とかなりすましとか、どこかで聞いたことのある話な気が。
「ハルカ君の世界のインターネットって、こんな感じじゃない? 相手が誰か、本人だとちゃんと証明するのは大変なの。そんな感じだと思ってよ。
それじゃあ、今日は疲れただろうから、これくらいでお開きにしましょうか?」
……ところでミサさん。あなた、誰?
「ハルカ君にとっては、いわゆる神様かな?」
何だそれ。
「じゃ、おやすみ、ハルカ君! しっかり休んでね?」
ぷちっ、と接続が切れた感じがする。今日のミサさんとの話はこれで終わりなのかな。
インターネットの話題があったけど、チャットみたいな感じだった。ミサさんが落ちたから、今日は終了、と。
ちょっと頭の奥が疲れた感じがする。少し集中力が必要みたいだ。
◆ ◆ ◆
今日も一日乗りきった。昨晩に続いて今夜もお姉さんが現れるのかな。ミサさん、って言ってたっけ。自称「神様」。せっかくだから、もう少し付き合うか。
9月に入ったけどまだ少し暑い。でも布団を頭からかぶって準備しよう。
ミサさん、いいよ?
「お邪魔しまーす。ミサお姉さんでーす。
で、キミはここではなんて名乗るんだっけ? ハル……なんだっけ?」
ハルカ、だったような。
「ハルカ君がちゃんと覚えていてくれて、よかったよ。夢の世界で日中の名前を言っちゃうと、怖い人と変な契約しちゃうはめになるかもしれないから、気をつけてね?
そういえば、私の雰囲気、もう少しイメージできるようになった?」
ちょっとまだ難しいかも。
「普段から自主トレ頑張ってね? 通学途中のバスの中とか、お風呂の中とか。トイレでふんばってるときにやっても、お姉さん怒らないからね?」
なんかコツとかないの?
「ハルカ君? 人生楽したいのはわかるけど、自分で努力することも大切だよ? ヒントばかり聞いて手抜きするのも処世術かもしれないけど、努力する楽しみも覚えたほうがいいって。
もう、しょうがないから特別にヒント出しちゃうね。
恋愛シミュレーションゲームで決まった背景にいろいろな人の上半身が表示されるタイプのもの、あるでしょ? 体に動きがないけど表情が何種類か用意されてるの。そし、画面の下にセリフの枠がある。ハルカ君もどこかで見たことがあるでしょ?」
そういえば雑誌にそんなの出てたっけ。
「うんうん。背景は黒でいいから、私をそうやって表示する練習をして? セリフの枠はお好みで。別に無くてもいいし、私のセリフを表示してもいい。」
これならいけるかも。
「美人のミサお姉さんを想像するの、嫌じゃないでしょ? 下手なグラビアアイドルよりかわいいんだからね?」
自分で言わないでよ。
「そういえば、ハルカ君って、いい家族がほしいんだっけ?」
それ、何で知ってるの?
「だから言ったでしょ? お姉さん、神様だって。
いいこと思いついた。お姉さん、ハルカ君のお姉ちゃんになってあげる!」
えー?? 何それ?
「呼んでみて? 『ミサお姉ちゃん♪』って。」
恥ずかしいよお。
「言ったら心が楽になるって。それとも、私と家族になるの、嫌なの?」
嫌じゃ……。
「もうっ。強情なんだから。
ハルカ君、いつまでも今の自分でいたいの? 何か変えたかったから神社でお願いしたんでしょ? まさか口だけだったの? 私とのことは遊びだったの? これからも惨めな人生を送りたいの?」
そんな、ことは……。
「だから、私がハルカ君のお姉ちゃんとして、幸せな家族がどのようなものかをハルカ君に知ってもらおうと思ってるの。ハルカ君がもっとマトモな人生を送れるよう、ミサお姉さんが頑張っちゃう、って言ってるんだよ? 家族が欲しいって、男に二言はないよね?」
うーっ。
「さっさと言いなさい。『これからよろしくね、ミサお姉ちゃん♪』
さん、はい。」
よろ……しく。おねえ……ちゃ……ん。
「だめ。全然だめ。気持ちがこもってない。
もう、お姉ちゃんをバカにしてるの? はい、もう一回。」
よろしくお願いします。ミサ……おねえ、ちゃん。
「だいぶ上達したけどまだまだね。もう一回!」
これからよろしくお願いします、ミサお姉ちゃん。
「もう少しかわいげがあるといいんだけど、今日はこれぐらいで勘弁してやるか。できれば語尾をもう少しあげて、少し媚びるような、上目遣いで目を潤ませて甘えるような感じにしてほしかったな。子犬が飼い主を期待を込めた瞳で見上げるような目線って、萌えるよね。
今日から美人なお姉ちゃんと二人の家族。くぅーっ、これからが楽しみだね!」
お姉ちゃんってこんなに横暴なものなの……?
「こら! ハルカ!
その言い方、お姉ちゃんに失礼だと思わないの? せっかく私がかわいい弟にいっぱい愛情を注ごうと思ってるのに、何よ、その態度。罰として『ハルカはミサお姉ちゃんのことが大好きな弟です』と言いなさい!」
ミサお姉ちゃん、ごめんなさい……。
「ごめんなさい、じゃないでしょ。全く。これからハルカ君が私の理想の弟になれるようにいっぱい鍛えてあげるから。
ハルカ君、最後に人に好意を寄せられたの、いつ?」
…………思い出せない。
「そうやっていつも悲しんでる、後ろ向きな弟なんて、姉として許せないんだから。ハルカは私の大切な弟なの。いっぱい幸せにしてあげるから。お姉ちゃんのプライド賭けて頑張っちゃうからね。その代わり私にちゃんとなつきなさいよね?」
は、はぁ。
「今日はこれ以上何言っても無駄だろうからこれくらいにしとくけど、最後に私の名前の漢字を当ててから寝て。当て字じゃないから安心して。」
…………海。海の青さ。ミサお姉ちゃんを象徴する色。ミサのミは、海かな。サは砂、沙、どっちかかな。海砂って野暮だから、後のほうかな?
これで合ってる? 海沙……お姉ちゃん?
「よく出来ました、ハルカ君。本当ならお姉ちゃんのおっぱいにハルカ君の顔をうずめて頭をぎゅーっと抱きかかえたいんだけど、ハルカ君はそんなイメージできないでしょ?」
……ごめん。
「しょーがないから、ハルカ君は横に丸めた布団か枕を横において寝て、添い寝される気分を味わうこと。海沙お姉ちゃんにぎゅっとされて寝るところを想像して、心を楽にしてね。今日からハルカは海沙お姉ちゃんと二人家族。
おっと、いい忘れてたけど、ハルカの漢字はわかるよね?」
普通に、遥、かな?
「正解!
おやすみ、遥。」
おやすみなさい、海沙お姉ちゃん。
◆ ◆ ◆
まーた、親に文句言われた。
部屋はいい。少なくても心が落ち着く。
布団の中だともっと落ち着くけど、今はまだそんな時間じゃない。
「遥クン? 私よ、私。」
頭のなかで声が聞こえた気がする。
誰だろう? でも、「遥」って呼び方を知ってるのは……海沙お姉ちゃん以外にいないよね?
「自然と『お姉ちゃん』って言葉が出てくるところ、お姉ちゃんポイントいっぱいあげちゃうね。
そうでーす! 遥クンが好きで好きでたまらない、海沙お姉ちゃんでーす!」
布団に入ってないけど、いいの?
「声だけなら問題ないでしょ? それに、二人だけの呼び名ってこういうときに便利だよね?」
はあ。確かに。
「遥クン、一つお願いがあるんだけど。」
何?
「遥、お姉ちゃんのために人生頑張ってくれない?」
え?
「遥には誰か応援してくれる人が必要だと思うの。遥を大切にしている人が誰もいないから、遥は何もやる気が起きないんでしょ?」
そう、だけど……。
それに、急に呼び捨てになったの、なんか怖いよ?
「だから、今日から遥はお姉ちゃんのために生きなさい。」
海沙お姉ちゃんのため?
「そう。遥は海沙お姉ちゃんの大切な弟として、お姉ちゃんを喜ばせるために頑張りなさい。もちろん、お姉ちゃんの私としては全力でかわいい弟を応援したいけど、肝心の遥が何もしないんだったら、私は何も出来ないんだよね。
いい? 私は神様なんだから、遥のためにいろいろ頑張っちゃえるんだよ? 遥がその気なら、お姉ちゃん、全力で応援しちゃうから、私の凄さを実感しなさいよね。
どう? 私の弟として、私のために生きてくれる?
そして、遥は私のモノになるのだから、呼び捨てなのは当たり前だよね。」
家族ってそういうものなの?
「家族がどういうものなのかは遥が自分で決めなさい。私はお姉ちゃんとして遥を応援したい。そして、お姉ちゃんとして遥が幸せになる姿を見たい。お姉ちゃんとして弟を立派に育てる喜びを感じたいんだけど、だめ?」
だめじゃ……ないけど。
「よし! 決まりね!
遥は海沙お姉ちゃんの弟として、お姉ちゃんのために人生を頑張る。そして、海沙お姉ちゃんは神様なお姉ちゃんとして、弟の遥が頑張れるように全力でサポートする。素晴らしい取り決めだと思わない?」
……わかった。
「じゃ、『海沙お姉ちゃん、大好き♪』って言いなさい。」
えー。
「言いなさい。弟がお姉ちゃんに逆らうことは許されないものなの。」
海沙お姉ちゃん、大好きです。
「もっと感情を込めて!」
海沙お姉ちゃん、大好きです!
「よろしい。こんなに弟に慕われるなんて、お姉ちゃん冥利につきるねー。
寝る前にちゃんと私の姿を思い描くトレーニングをしておくこと。遥にとっての理想の彼女を思い描きなさい……といっても、遥はそんなの考えたことないか。
私の雰囲気を遥の心にこっそり流すから、自分の心に正直に感じ取ること。
そして、遥に向かって微笑んでいる女性をイメージすること!
わかりましたか?」
はい、海沙お姉ちゃん。
「語尾がだめ!」
はい、海沙お姉ちゃん♪
「もうダメ、お姉ちゃんキュンキュンしてきちゃった。かわいい弟の遥に『海沙お姉ちゃん♪』って呼ばれると、一日の疲れが吹き飛んじゃいそうだよ。
いい? 私のために、ふてくされずに頑張るんだよ?」
海沙お姉ちゃん、わかった。
「今はこれくらいで。
また、寝るときによろしくね?」
また後でね、海沙お姉ちゃん。
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