第五章【4】 予期せぬ事態
周囲を警戒しながら、真斗と怜奈は空き地の中へと足を進める。以前袴田たちが潜んでいた時とは違い周囲は明るい為、見通しは良い。見渡す限り誰もいないようだが――
「約束通り二人で来たようだな」
上空から聞こえてきた声。
二人が声のした方を見上げると、空き地を取り囲む雑居ビルの一つ、その屋上に立つ宝條の姿があった。宝條はビルから飛び降りると――魂装具の力で制御しているのだろう――膝のクッションを利かせ、苦も無く空き地へと降り立った。
ゆっくりと身体を起こし怜奈へと向き直る宝條。
「そちらも約束通り来てくれてうれしいわ。さて……お望み通り決着をつけましょうか」
怜奈がわずかに姿勢を低くし、構える。
「……待て。まずこれについてだが――」
「何? 全て揃った事でも自慢したいわけ?」
記録水晶を取り出し、何かを言おうとした宝條の言葉を怜奈が遮る。
「……? 何のことだ……?」
「とぼけないで。私たちホルダーだけならまだしも、よくも磯崎先生を……!!」
怜奈が怒りを露わにした、その時。
――ごうっ!
「ぬっ!?」
宝條の周囲に巻き起こる突然の旋風。宝條は怯み両腕で身を守るようにして身体を縮める。
そして――雑居ビルの屋上から現れる黒い風。あれは……響子だ! 一瞬の内に怯む宝條の前に着地すると――その場でバック転蹴りを放つ! ロングブーツに包まれた足先が宝條の右手を的確に狙い打ち、その手にあった記録水晶が宙へと舞う。響子は一回転し、そのまま屈みこむと――一気に全身のバネを解放し、記録水晶目がけて飛び上がる!
「な――」
突然の出来事に怜奈が声にならないほどの声を上げる。
「あはっ、いただきっ♪」
響子は空中で記録水晶を掴むと――そのまま風に乗り再び雑居ビルの屋上の奥へと消えていった。
「な……なぜ如月が……宝條……先輩とは仲間なんじゃ……!?」
叫びにも近い真斗の問いかけに、右手をさすりながら宝條が答える。
「……話の続きだが……俺はスコーピオンではない」
目の前で起こった出来事と宝條の告白に、真斗と怜奈は困惑の色を浮かべる。
「そして――これで決着をつける」
宝條は響子が消えた雑居ビルの方向を見上げると――そう独りごちた。
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