第五章

第五章【1】 接触

 温泉施設のカプセルホテルで一夜を明かした真斗と怜奈は、チェックアウトすると、繁華街の入り口付近にある喫茶店に入り、窓際のカウンター席に腰を落ち着けていた。

 テーブルには二人分のトーストと、目玉焼きにサラダ、そしてコーヒーが並ぶ。時刻は既に十時を回っているので少し遅い朝食だ。

「これからどうします?」

 真斗はコーヒーカップに手を伸ばしながら、隣の怜奈に訊ねる。

「そうね……このまま黙っていても向こうから接触してくるでしょうけど……こちらから打って出るのも手ね」

 真斗はコーヒーに口をつける。ほろ苦い液体がふんわりとした香りと共に口内に流れ込む。決して不味いわけではないのだが、ついつい研究室で飲んだそれと比較してしまい、真斗は物足りなさを感じてしまう。

「そうですね。確かに――」

 真斗が怜奈の案に自分の考えを言おうとした、その時だった。

 机上に置いてあった怜奈のスマートフォンが振動する。二人は画面を覗き込む。テレビコールの着信だ。発信相手は……非通知。怜奈のスマートフォンの番号を知る者は限られているから、これはかなり怪しい。

 怜奈は真斗と顔を見合わせ……わずかに頷くと応答ボタンを押した。

 そして……画面には一人の男が映し出される。

「……こうして話をするのは初めてだな。神崎怜奈」

 !! 画面越しに先にそう言ってきた男は……宝條茜!

「どうして番号がわかったのかしら? おおよそ彼女から聞き出したってとこ? まあ、ちょうど良かったわ。こちらも話がしたいと思っていたところよ」

 怜奈が宝條に挑戦的な口調で返す。

「そうか……。ならば話が早い。直接会って決着をつけよう……そう、これについてな」

 そう言うと、宝條はジャケットの胸元に手を入れ――内ポケットから記録水晶を取り出した。

「……!!」

 残る一枚の記録水晶! やはり宝條がスコーピオンの正体だったのだ!

「……それを持っているという事は――そう。確かに話は早いわ」

 怜奈はわずかに険しい顔を浮かべるも、努めて冷静に対応した。

「……いいわ。それでいつどこに行けばいいのかしら」

「今日の十八時。アーケード街にある例の空き地で待っている。神崎怜奈、そして夜霧真斗……二人だけで来い」

 宝條は表情一つ変えず、淡々とした口調でそう言い放つ。

「……ええ。それでいいわ。楽しみね」

 怜奈がそう答えると――宝條はわずかに笑みをこぼし……そこで通話は切れた。

 …………

「怜奈先輩、素直に応じるんですか? 罠だって可能性も……」

 突然の展開に、真斗が心配げに言う。

「ええ、確かにそうね。……とは言っても行かない手はないわ。……ひとまず磯崎先生に連絡しましょう」

 そういうと怜奈はスマホを操作し、耳に当てる。ほどなくして――

「先生、神崎です。今よろしいでしょうか。実は――」

 通話が繋がり、怜奈は宝條が記録水晶を所持していた事、そして待ち合わせの事を伝えた。

「――ええ、はい。わかりました。それではこれから伺います。ええっと……多分、十二時頃には着くと思います。はい――では、失礼します」

 電話を終えると怜奈は真斗に向き直る。

「やっぱり先生も罠かもしれないって心配してたわ。約束の時間までに何か作戦を練ろうですって」

 真斗は頷き、席を立つ。二人は朝食もそこそこに喫茶店を後にし、磯崎教授の研究棟へと向かった。

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