第四章【6】 い・い・と・こ・ろ
学校を出て数分後。真斗が住む学生寮の建物の前に真斗と怜奈の姿があった。
「あっあっあのっ、つつ着きましたけどっ、ウチ散らかってて……というか、ですね! ここ男子寮でっ……」
真斗はしどろもどろだ。
「じゃ、ここで待ってるから」
「へ?」
「着替えとか――まあとにかく一泊できる用意してきて」
なんだ、ウチに来るんじゃなかったのか、と真斗は落ち着くが……言われた内容を頭の中で反芻してまた動揺する。い……一泊!?
「……あ。あんまりレディを待たせないでよね」
怜奈が付け加える。
「はっ……はいーっ!」
真斗は上官の指令を受けた兵隊のように学生寮へと駆け込んでいった。
…………
――約四分後。
「お待たせしましたっ! 先輩!」
荷物を詰めたスポーツバッグと共に、上官の元へ帰還した真斗。怜奈の表情を窺うにミッションは無事時間内に達成できたようだ。
「うん。じゃあ、行きましょうか」
「ど……どこへ?」
真斗は今後の展開に期待交じりの緊張した声で返す。
「決まってるじゃない。私の家よ」
「え……? ええぇぇーっ……♪」
…………
学校を出て数分。学生寮前で四分。そして学生寮を出て数分後。怜奈が住むマンションの前に真斗と怜奈の姿があった。
「あっあっあのっ、つつ着きましたねっ、いいマンションですね……というか、ですね! ホントに上がってもっ……」
真斗はやはりしどろもどろだ。
「じゃ、ここで待ってて」
「へ?」
「私も用意してくるから。色々と」
なんだ……怜奈先輩の家に上がれるんじゃないのか……と、真斗は落ち込むが、言われた内容を頭の中で反芻してまた興奮する。い……色々!?
「……じゃ。すぐ戻るわ」
怜奈が手を振りながらオートロックを開けてマンションへと入っていく。
「はっ……はいっ!」
真斗は上官の指令を受けた兵隊のようにその場へ待機した。
…………
――約三十分後。
「お待たせ。真斗くん」
コンパクトなキャリーバックを引き、忠実な部下の元へ出御する怜奈。真斗の表情を窺うになかなか過酷な試練だったようだ。
「さて。じゃあ、行きましょうか」
「はっ! 何処でありましょうか! 先輩!」
真斗は期待と興奮と、過酷な試練のあまりおかしくなったテンションの声と口調で返す。
「決まってるじゃない。い・い・と・こ・ろ、よ」
「えっ……!? いえぇぇーっ……♪」
…………
学校を出て数分。学生寮前で四分。そして学生寮を出て数分。さらに怜奈のマンション前で三十分。さらにさらにマンションを出て十数分後。夜の繁華街を歩く真斗と怜奈の姿があった。
夜の街を色とりどりのネオンが照らし、昼間とは全く違った顔を覗かせている。平日にも関わらず人通りは多く、カップルや会社帰りのサラリーマンの群れに客引きの若い男が声をかけている。
怜奈に連れられ、真斗はそんな路地を歩く。大通りをしばらく歩き、映画館の隣を抜け、少しさびれた通りに入る。この辺りは少し灯りも乏しくなり、人通りもまばらになる。周囲の建物を見ると、入り口付近に宿泊と休憩の金額の書かれた看板が多く目に入る。
これって……まさか……本当に……!? 真斗はゴクリと唾を飲みこむ。そして――
「さ。着いたわよ」
とある建物の前に立ち止まり、怜奈が言う。
真斗は首を上げ、やたらと屋内がオレンジの電球色で明るいその建物の看板を見る。
そこにはこう書かれていた。
『スーパー銭湯 スーパースパ・スパイラルスパーク』
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