第四章【4】 如月響子

「怜奈先輩!」

 ル・ジャルダンの前に来るや否や、真斗が叫び、怜奈の姿を探す。


 ――ぅごぅっ!!


 上空から響く鈍い衝撃音。二人は上を見上げる。


 ――どうっ!


 何かが……いや、誰かが落ちてきた。

 !! それは……怜奈だ!!

 そして一瞬間をおいて、炎の槍と化した怜奈の魂装具がきん、と乾いた金属音をたてて地面へと突き立った。

「れ……怜奈!」

「怜奈先輩! 大丈夫ですか!?」

 うつ伏せに倒れる怜奈の元に雅美と真斗が駆け寄る。

「う……くっ……二人とも……気をつけて……まだ上に……」

 怜奈が身体を起こそうと腕に力を込めながら言う。

 怜奈の言葉に二人は上を見上げる。そこにはガーデンの手すりの上に器用に立つ響子の姿があった。その右肩に掛けられた大鎌を見て、真斗は驚愕する。

「き……如月……お前……」

「あっ、夜霧ー! ……と、ええっと……早乙女先輩、であってますよね」

 街で偶然友達を見つけたときのような、そんな調子で響子が言う。その素振りは真斗のよく知る響子、そのものだ。

「……あなたの仕業?」

「んー。まあそういうことになるんですけど。ちょっとやり過ぎちゃったかも。……でも半分は神崎先輩のせいですよ? こんな場所であんな大技使おうとするなんて。止めてないと今頃、本校二例目の火災事故になってるとこですよー。あはは♪」

 威圧的な雅美の問いかけにも、臆した様子はない。それどころか会話を楽しんでいるかのようにすら見える。

「……そう。それはうちの怜奈が面倒かけたわね。じゃあそのお礼はアタシから――」

 言いながら雅美は魂装具を具現し、構える。

 反して響子は言うと――大鎌をくるり、と軽く回し――魂装具の具現を解く。きらきらと虹色の霧を漂わせながら大鎌が消滅した。

「あ……疲れちゃったし、今日はこのへんにしときます。じゃあまたね神崎先輩。結構楽しかったです♪」

「待ちなさい!」

 雅美が叫ぶも、響子は取り合わず、風にでも乗るかのようにふわりとガーデンへと降り立つと、奥へと姿を消した。

 …………

 雅美はしばらく響子の居た場所を見つめていたが……今から追っても無駄だと悟り、魂装具の具現を解く。

 緊張が解け、三人は息をつく。

「とにかく、どこか落ち着ける場所へ……」

 怜奈に肩を貸しながら、真斗が言う。

「そうね……磯崎先生のところに行きましょう」

 雅美の提案に、二人は頷いた。

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