Life of Leaf

杉崎 三泥

Chapter.1 認識

ep.1 見知らぬゲーム

 「ルリ!」

 「…わかってる…!」


 サンサンと落ちる日光により心地の良い空気を作り出す木々に囲まれる中、黒い髪の少年が小鬼、いわゆるゴブリンと呼ばれる緑色の体をした生物の振り下ろす棍棒をどこにでもある簡素な鉄の剣で受け止める。

 その少年のすぐ後ろから水色の髪をしたショートヘアの小柄な少女が、その小さな体躯を活かしてゴブリンの死角から一気に駆け、獲物であるこれまた普通の短剣をゴブリンの横腹に突き刺す。


 刺されたゴブリンは突然の痛みに悲鳴を上げ、持っていた棍棒の力を緩めてしまう。もちろん、鍔迫り合いとなっていたために少年の剣はゴブリンの頭に吸い込まれていき、真っ二つとまではいかないがゴブリンの脳天をたたきわった。

 

 倒れたゴブリンが死んだかを少年が足で小突いて確認したあと、たたき切ったことで浴びたゴブリンの返り血を少年は商店で安かったぼろ布で拭う。


 「ナイスだルリ、いつも通りウサギのようなすばしっこさだな」

 「…むふー」


 少年がぬぐい終わったのちに相方の少女にも顔に軽くかかっていた血を、少年がぬぐいながらほめてやると猫のような顔をしながら満足げに鼻息を漏らす。

 一通り片付けが済んだところで、少年はポケットからスマホを取り出しゴブリンの死体にカメラを向け写真を撮る。

 パシャリ、と響く無機質なシステム音が響くとゴブリンの死体は最初から戦闘など何もなかったかのようにきれいに。少年の服についていた血もだ。


 「うっし、これでゴブリン5体目終わりだな。帰ろうかルリ」

 「…了解であります」


 まるでどこぞの軍隊のようにピシッと礼をした少女に少年は苦笑を漏らしながら右手に持ったスマホをポケットに戻し少女に右手を出す。少女は無表情ながらも口を緩ませ、その右手に左手を乗せ楽しそうにしながら2人で町がある方向へと戻っていった。









 

 少年、藤堂祐作はただの高校生であった。しいて言うなら多少運動が人より得意ではあったが、特段運動部で鍛えて青春を謳歌するわけでもなく、勉強が苦手で四苦八苦するわけでもなく、ただただゲームが好きな男であった。


 ゆえに祐作はスマホでいろいろなゲームを試してはやめるを繰り返し、とあるゲームをインストールした。

 内容自体はありきたりで、ファンタジーと戦略シミュレーションが混ざったようなものだ。課金要素はほとんどなく、経験値アップやドロップボーナスくらいだろうか。

 いろいろなゲームをやっていた祐作は、課金要素がほとんどないこのゲームを見て、珍しいシステムの上にどうやってお金の収支が取れているのか、と考えた末にやり始めた。


 自室でインストールがすぐに終わったので、学校から帰った服装のまま早速やり始めようとしたところ画面が太陽のように明るく輝き、あまりの眩しさに祐作は目を伏せた。

 光が収まったところで目を開けたところ、自室にいたはずの祐作はよくあるファンタジーの町の大通りに一人ポツンと座っていた。

 

 あまりの展開に目を疑った祐作は1分ほどポカーンとしていたが、周りの人々が胡乱げな目を向けてくることでハッと我に返り慌てて立ち上がり、通りの端に行って持っていたスマホを見ると


 【Welcome to "Leaf"】


 と書いてあった。祐作は何が何だかわかないままであったが、ひとまずそのあとに続くチュートリアルを読み込んでいくことにした。





 チュートリアルを一通り読んだ祐作は一息ついて情報をまとめる。

 まず一つ目にここは地球ではない、別のどこかであり、宇宙のどこかに存在する惑星であること。

 二つ目にユーザーは特定の条件を満たしたときのみ地球に帰れるが、その条件は一切開示されない。

 三つ目にスタートダッシュボーナスとして装備一式といくらかのお金がスマホに登録されているので、まずは城に行って正式ユーザー登録をした後にギルドに行くように、と。

 なお、別のところから来たことがばれても特に問題はないので普通にしていいとのことだ。だからさっき変な目で見られても誰も騒がないわけだ。とすると、ほかにもお仲間がいるということか?と祐作は頭を巡らせる。


 なんにせよ、急な状況でまだいろいろ混乱してはいるが、ひとまず城に向かうことにした。登録したものとかどうやって出すのかなぁ、など割とどうでもいいことを考える。少し遠くに見える大きなお城は誰に聞かずともわかっていた。


 ゆったりと歩いている中、ふと目を向けた家と家の間に子供がいるのを見つけた。薄汚れていたことと一人でいる時点で明らかに孤児か何かだと思い、立ち止まって周りを見たところ、ほかにも気づいている人がちらほらいたが、特段不思議そうにはしていない。

 なるほど、孤児とかそういった価値観がそもそも違うし気にしてないのだろう、と納得する半面、子供相手にいささか非情ではないか、と怒った祐作は少女のもとへ歩いていく。


 自分のもとへ歩いてくる足音に気付いた少女は体をビクッと震わせ、せめて邪魔にならないように体を縮ませる。祐作は悪いことをしている気持ちになりながらも少女にできる限りやさしく声をかける。


 「あの~…お嬢さん、少しいいかな?」

 「…!?」


 声をかけられたことで再び体を震わせた少女はそーっと顔をこちらに向けてくれる。

 白のワンピースであったであろう服は汚れにすっかり灰色になっており、きれいな水色の髪もどこか黒くなっている。向けられた瞳は赤…と思いきや左目は黄色となっており、いわゆるオッドアイか、と祐作は不謹慎に思いながらも感動する。

 現実ではほとんど人にはない稀なもので、それこそアニメとかでしかお目にかからないものだ。

 と、まじまじと観察している祐作に少女はおびえながら答える。


 「…なに…?」

 「あ、ごめんごめん。お嬢さん、迷子なのかな?お父さんかお母さんは?」


 そんなのいるわけないだろうと思いながらも一応尋ねる。案の定少女は首を振り、再び何かを言おうとする。と、同時に


 くぅ~…


 とかわいらしく腹の音が鳴る。最後に食べた飯が昼で、夕方にここに来た祐作がなるわけもないため、祐作は腹の音の主に顔を向ける。


 「………」


 少女は自分の腹の音に真っ赤になった顔を必死でうずくまった自分の膝に埋める。

 悪いと思いながらも少年は苦笑し、少女に声をかける。


 「もしよければなんだけど、一緒に来ない?そこのパンをいくつか買ってあげるよ」

 

 完全に誘拐犯的なセリフではあるが、そういうしかあるまい、と祐作は割り切る。

 お金に関してだが、スタートダッシュボーナスには1万フェン入っていた。物価に関してはあまりよくわからないが、道を歩いているときに見かけたパン屋を外からのぞいたとき、安い奴の平均は150フェンほどだったので問題はないだろう、という考えのもとだ。

 

 誘われた少女は急な甘い誘いにいぶかしみながらも、空腹にはあらがえず首を縦に振る。ゆっくりと立ち上がった少女に祐作は今思い出したかのように再び質問する。


 「そういえば、名前はなんですかお嬢さん?僕は藤堂祐作」

 「…ルリ…」

 「ルリちゃんだね、よろしく!」


 これが少年と少女の出会いであった。






 「…うまうま」

 「…さすがによく食べるね…?」


 お店で買ってきた150フェンのパン6つと100フェンの水を渡したところ、何も食べていなかったゆえにか獣用にパンを食べる少女。2分ほどであっさりと平らげてしまったルリはそれを3回ほど繰り返して満足そうにしていた。


 思った以上に出費を重ねてしまったことに頭を悩ませたが、あまり後悔はしていない。満足そうに口に笑みを浮かべるルリを見ながらそう思う祐作だった。


 「ごはんありがとう」

 「どういたしまして」


 ルリがていねいに頭を下げてきたことに軽く手を振りながら、これからどうするかについて伝える。道草を食ってしまったが、対して急ぐことでもないし、と自分の中で割り切る。

 しかし、ルリはいったん別行動を勧めてきた。どうしてか、と聞くと、


 「…ルリ、今汚い」

 「…あ」


 忘れていたわけではないが、いまだ汚れた状態のルリ。どこかに行ってきれいにしてからでないとさすがにあの大通りは歩こうは思えないだろう。

 仕方ないのでルリにはうまくこのあたりで隠れてもらうことにして、一人で城に向かうことにした。気にしないで、と言われたもののどこか寂しそうな顔で手を振ったルリに何とも言えない気持ちになった祐作は早めに戻るために城へと走って行った。






 「は~でけぇな、こりゃぁ」


 思わずといった感じで感嘆する。10人に聞いたら10人がディズニーの城と似ているというような壮観さである。あまりの迫力に軽くタジタジになったが、ひとまず大きな門の前にいた兵士らしき人に声をかける。


 「あの~すみません、お話いいですかね?」

 「ん?どうした?」

 「自分、外からこっちに来たものなんですけどね?これ見てもらえばわかると思うんですけど…」


 城に行った際に何やらよくわからない画像を兵士に見せなさい、とあったのでひとまず見せる。


 「ふむ…なるほど転移者だね。じゃあ、あっちの詰所に行って手続きをしてきてね」

 「わかりました、ありがとうございます!」

 

 何やらよくわからないが、話は通ったみたいだ。丁寧に対応してくれた兵士さんに礼を言ってササッと詰所に向かう。


 「君の生還を祈っているよ」


 と、兵士さんの言葉を聞きのがして。

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