掌編小説帖
陽皐いちる
霧の湖
湖だ。湖の、静かな水面が広がる中にいる。
そう、見まがうほどに暁の草原は美しかった。地を覆うように霧が立ち込め、夜明け前の藍色が地も天も染め上げる。
ああ、舟があればいいのに。霧が見せる、あの湖へと漕ぎ出していきたい。つたない手で櫂を動かせば、ぴちゃりと魚が跳ねる。さあ、どこへ向かおう。どこまでいけるのだろう。
まぶたの裏に広がる光景に、ふと光を感じて、おそるおそる目を開く。
まっすぐ見える東の山際は藍色を消し去るような白さで、大地に訪れた迷いのない光が霧の下の草むらを照らし出していた。
湖はもうない。はじめから、湖などなかったのだ。
舟も櫂も、魚も。行く先も。
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