転校生

 僕が地球で目覚めて9ヶ月が経過したころだった。クラスに編入生が来るとの話が舞い込んできた。いったいどんな人物がやってくるのだろう、朝から教室内はその話題で持ちきりだった。

 そして朝のホームルーム。担任が転校生を引き連れて教室へとやってきた。それは黒髪でオカッパ髪の女だった。


「今日からみなさんと一緒に勉強することになったミズノシズカさんだ。みんな仲良くしてやってくれ」


「……ミズノシズカです。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げてあいさつをする。もしかして彼女は僕と同じ純粋な日本人だろうか。顔立ちと髪色、そして名前からしてもおそらくそうなのだろう。


「……!」


 彼女は顔を上げるとなぜかその鋭い目を僕へと向けてきた。

 その瞬間、僕は何か頭に強い衝撃が走った気がした。これはなんというか既視感だろうか? まさか僕は以前彼女に会ったことがあるのか? だが、この時代にほとんど知り合いのいない僕にそんな相手などいないはずだが。


「あの窓際の開いてる席へと座ってくれ」


「はい」


 彼女が教室を横断し窓際の席を目指す。


 彼女はその席に座るとまた鋭い目を僕に向けてきた。とっさに顔をそむける。何だろう。彼女が現れてからずっとおかしな感覚に捕らわれたままだ。一体彼女は何者なのだろう。


 ホームルームが終わると、クラスメイトの何人かが彼女の前へと向かい、話しかけていた。友達になろうだとか、どこからログインしているのだとか、クラスメイトは非常に友好的な態度だ。


 しかし、彼女は表情をほとんど変えることもなく、みんなの言葉を完全に無視している。何だか愛想のない人だ。そしていきなり席を立つと、僕のもとまで歩いてきた。


「え……っと」


 彼女は僕の席の前に立ち無表情で僕を見下ろしている。クラスメイトの視線は僕達に集まっていた。


「な、何か僕に用かな」


「ミツル君、少しあなたとお話がしたいんだけど、いいかしら」


「え……? あぁ、まぁ……」


「ならついてきて」


「え……」


 彼女はきびすを返すと教室の出口に向かって歩いていってしまった。ここで話すんじゃないのか。僕はクラスメイトのからかう言葉を適当に返しながら彼女と2人教室を出た。

 教室を出てからも彼女は廊下を進んでいく。僕はその姿に遅れないように後についていった。


 一体何なんだろう。まさか僕に一目ぼれしたとか、そういうことだろうか。見た目のクールさとは裏腹に積極的な人だ。

 しかし、隣で歩く彼女の横顔を見ると、そんなよこしまな考えは吹き飛んでしまった。彼女はひとつ強い信念を持ったようなそんな目をしていたからだ。

 少し進んだ先にある渡り廊下、ここならしばし誰もこないと確信したのか彼女は足を止めた。


「ミツル君」


 振り向き彼女は僕の名前を呼ぶ。その一言で僕の頭のなかにあるあやふやな違和感は思い違いではないということを僕は確信した。さっきも僕の名前を呼んでいたが彼女はいつ僕の名前を知ったのだろうか。


「あなた、私のこと覚えていないのかしら?」


「え……?」


 やはり彼女と僕は面識があったのか。


「え……っと……ごめん。何かどこか引っ掛かるような気はしているんだけど……」


「そう……」


 僕は内心ホッとした。どうやら覚えていないことを怒ってはいないようだった。


「ねぇミツル君、ところであなたがこの地上で目覚めてからどの程度の月日が経過したのかしら?」


「え……?」


 彼女は僕のことを名前以上に知っているらしい。なんなんだ。彼女は僕のストーカーか何かなのか?


「えっと……4年くらいになるのか。とはいってもそのうちの3年くらいはコールドスリープしてたんだけど」


「そう……。それでその前はあなたはどこにいたのかしら?」


「え……? それはマナの……あ、僕の家族の仕事の関係でスペースコロニーに……」


「そのスペースコロニーから地球まではどうやってやってきたの?」


「どうやってって、そりゃあ宇宙船に乗って……」


 なんだ、なぜ僕はこんなカウンセリングのようなことをされているのだろうか。彼女の真意をいまだに掴むことが出来ない。


「その宇宙船の旅のこと、覚えてる? コロニーセブンから地球までは10日前後の時間がかかるはずだけれど」


「10日……だって?」


 そんな馬鹿な。僕は10日間も船に乗っていた記憶なんてない。もしかしてその間も僕はコールドスリープによって眠っていたのか?


 いや、それもないはずだ。僕は確かに宇宙コロニーの中で目覚め、船に乗り込んだ記憶がある。その宇宙船はコールドスリープを保った状態で運搬出来ないということも聞いた覚えがある。だからこそ僕はスペースコロニーで一度目覚めさせられたのだ。


「記憶が……なくなっている?」


「そうね。あなたの記憶は一部が欠落しているようね」


「しかもその船の中の記憶だけが……い、一体なぜ……い、いや、ちょっと待てよ、そもそもなぜ君は僕がいたコロニーがコロニーセブンだと知っているんだ」


 僕はなんだか自分で何を言っているのかもよく分からなくなってきた。


「それは私がその船であなたと一緒になったからよ」


「え……」


 彼女と一緒の船に……? 彼女にどこか既視感がかるのはそのせいなのか。

 思い出そうとしてみるが、うまくいかない。そこに記憶があるような気はする。しかし霞がかって見渡すことが出来ないような、そんな感覚だ。


「これってコールドスリープのせいなのか……?」


 コールドスリープによって脳細胞の一部が破壊されて記憶がなくなってしまったとか、そういう理由かもしれない。そんなリスクは医者に説明されなかったが、そんなことが絶対にないとも言えないかもしれない。


「いえ、それは違うわ」


 なぜかミズノシズカは確信を持ってそう答えた。


「あなたは記憶の一部を意図的に消されているのよ」


「は……?」


「私がそれを思い出させてあげる」


 彼女はそういうと僕に一歩近づいてきた。


「え……どうやって」


 彼女は片手をこちらに向けてくる。


「な、何を……」


 僕は壁際まで下がった。しかしそれにあわせて彼女も近づいてくる。


「安心して、別に痛くないはずだから」


 次の瞬間、いきなり彼女は振りかぶり僕の額にズボッとその手を突っ込んできた。


「う、うわあああああ!」


 その瞬間、いきなり頭の中にあった霞が一気に晴れ上がった。そこで見えた記憶は衝撃的なものだった。


 僕はスペースコロニー『セブン』で目覚め、一隻の脱出艇に乗り込み地球に向けてコロニーを脱出した。その中でロウジンというバケモノが現れ人々を襲いだした。偶然乗り合わせた12名の乗員の中にその本体がいるらしく、そいつを倒そうという話になった。そしてシュレイ博士が自分ならばロウジンを特定できると言い出し、シムの犠牲がありつつもその検査結果を待った。結果を聞き、ロウジンの正体と言われたヒースをみんなで殺した。ロウジンが死んだと思い込んだ僕達は安堵したが、結局ファントムが現れジンがその犠牲となった。博士が嘘をついてたのかと部屋を訪ねると博士はロウジンの手によって殺害されていた。そして次の日、実はファントムに知能があるという事が判明し状況は一変した。エイリがその時ファントムに脅されていたが、それ抗い推理した結果、サムラが投票によって選ばれ老化してしまった。その日の夜に僕とマナがファントムに脅され、僕達はそれに屈することになった。それにより僕は場を乱し、モモ、そしてクメイを陥れ死なせることとなった。そのあとエイリがシズカをロウジンの正体だと思い込み、ナイフで刺し殺そうとしたが、結局カウンターを受けエイリ自身が死んでしまった。そして最後に発覚したことは、僕の側にずっといてくれた僕を守ってくれていたマナこそがそのロウジンの正体だったということだった……。

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