第1話 始めまして

 知らなかったです

 知りませんでした


 そんな言葉では済まされない

 すみませんすみません

 だから済まないんだって


 そんな日々

 学校じゃ教えてくれない

 あれやそれやこれやどれもが

 先輩に言われることのどれもが

 よく分からなくて1日が終わる

 そんな日々

 いろんなものを調べて勉強して

 それでも全然追いつかない

 1日の流れがつかめそうなところで

 新しい何かが始まっていく

 初めまして始めまして



 おはようございます


 そう挨拶する前に患者さんたちの情報収集をする。あ、夜勤者さんに挨拶をする。今日の部屋持ちの患者さんのワークシートを出す。時間でやることが書いてあるリスト。同じ時間に2つも3つも4つも書いてある。どれから手をつけたらいいのかわからない。患者さんたちの病名も1つや2つや3つもある。それに今まで付き合ってきた病気も含めて調べなくてはいけない。症状に薬に検査に、調べることだけでも時間が足りない。そしてとにかく私が初めましてで辛かったのが点滴だ。


 点滴をつめる。必要なら薬を足して線をつなぐ。これがなかなかに時間がかかる。だからこそ新人の役目なのだが、恐ろしく先輩に申し訳ないくらい時間がかかる。シリンジが使えなくて薬がうまく吸えない。



「どう教えたらできるようになるの?」


「どうしてこんな簡単なことができないの?信じられない」



 中身があってるかなんてのはもちろん、開封の確認、混中の確認をする。

 電子カルテのパソコンに自分の受け持ちの点滴を乗せる。ピッとして読み込む。つないでよし、あれ、流れない。なんで?刺し直しだ、腫れてしまった。もう一回、すいません。2回やってダメなら教えて。2回ともダメでした。いつまで時間かけてるの、検査呼ばれてるよ。すいません。



「謝ればいいと思ってるでしょ?」



 すいません。


 やっとなんとか点滴をつなげても、速度が速かったり遅かったり。採血の検体エレベーターがうまく使えなかったり、レントゲン室まで迷ったり、申し送りがぐちゃぐちゃになって声が小さくなったり。


 なんとかかんとか踏ん張っていると、今度は入院も取ることになった。書類を準備して迎えに行って病棟の説明をして、身長体重を測って、今までの経過を聞いていく。お薬手帳を受け取って病棟薬剤師に渡して。いろんな書類にサインしてもらって、先生から指示を受けなくてはいけない。あとあれとそれと。


 迎えにいく時ドキドキする。新しく入ってきた患者さんや家族の人に挨拶をする。



「初めまして」





 今日の言葉


 初めてはいいよ。2回目だよね?

 言われなくなったら寂しいでしょ

 あなたが終わらないと私帰れないんだけど

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