うさぎ、かける
加田シン
第1話 はじまりのゆうがた
夜の街には様々な人間が集う。
皆『正しい方向』を向いて生きていけたらいいのだけれど、当然人生なんてそうそううまくいくもんじゃない。
私たちはそんな方向を少し間違えてしまった『大人迷子』の『案内人』——夜の街専門の。
「また店で寝てやがる……」
私は店のソファですやすやとおやすみになっているボスの腰辺りを思い切り蹴り上げた。乱暴?女の子のすることじゃない?えーっとですね、こうでもしないとこの人起きないんですよ。私だって可愛く『ボス起きて☆』とか女の子らしく起こしてあげたいよ。それで起きるんだったら。
「いってぇ……え、今何時?」
「夕方の六時です。つまり開店一時間前です。昨日何時まで飲んでたんですか?」
ため息を大きく一つついた後、軽く店内の掃き掃除をしながら聞いてみる。髪の毛ボッサボサだわ、涎のあとついてるわ『THE!起き抜け姿ランキング』なんかがあったら多分上位狙えますよ。そんなもん存在したらの話ですけどね。
「一時ぃ……」
「はぁ?昨日お客さん少なくて暇だったから私十二時であがりましたよね?」
「ノー、ホンジツの十三時まで飲んでたのー……お前が帰って店閉めた後お客さんと盛り上がっちゃってねー」
頭をバールのようなもので殴ってやろうかと思ったが、我慢した。これでも一応、私の現在保護者兼雇用主なのだ。そして私はまだ犯罪者にはなりたくない。更にバールのようなものは残念ながら店の備品に無い。
「買い物、私行ってきます。足りないものなんですか?」
「ジンとジャックダニエルとライム、あと俺用にウコンドリンクよろしくぅ……」
肝心なところはしっかり覚えてらっしゃるのねー。さっすがー。淀みなく言い切ったボスをじとーっと見下ろしていたのが伝わったのか、弱々しくも爽やかに笑った。
「んな顔すんなって。お前経営者ナメんなよー。ちなみに舐めてもイイところはねぇ」
「下ネタ結構です、とにかく開店までに何とか復活してくださいね、ボス」
手早くメモった買い物リストを手に新宿の街に出る。顔見知りのバーテンに遭遇したので軽く挨拶などしつつ。夜はまだ、始まってもいない。
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