文字数4000 ラブコメ 『オフィスレディ KAGUYA』


 

 ~月に替わって、ご奉仕致します~




 昔むかし、ある所に竹取の翁という他人の私有地に踏み込み竹を取って生活をする不届きなやからがいました。


 ある日、翁は悪びれる様子もなく竹林に入り込むと、金色に光る竹を見つけてしまいました。



「へへ、これは金になるぞぃ」



 目論んだ翁は手に持った錆びたノコギリで切り付けましたが、中々に頑丈でびくともしませんでした。



「ばあさんや、ちょっと頼みがあるんじゃが」



 どうにかして中身を取り出したい、と思った翁は妻に事情を説明し、電動式のチェーンソーをネット通販で買って貰いました。ええ、家庭内権力の差で翁にはお小遣いがなかったのです。



「よっと、こいつを回してと」


 チェーンソーのエンジンを掛けて翁はご機嫌です。そのまま、金の竹を切り取ると、中には血だらけの小さな女の子がいました。



「う、痛いです……」



「こりゃたまらん、かわゆす」



翁はその女の子をグッドエースに連れ込み、おなごの名前を『くり竹のかぐや姫』と名付け育てることにしました。


 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 三か月後、かぐや姫は驚くばかりに成長を遂げ成人としても申し分ないプロポーションを手に入れました。もちろん体はすっぽんぽんのままです。


「じいさんや、そろそろかぐやにも働きに出て貰わんといかんのう」


「そうじゃのう」


 翁は頷きますが、中々に外には出しません。それはかぐや姫の魅力、すなわちFカップであることを誰にも知られたくないからです。


「そんな変態遊びばかりさせでは、かぐやが可哀そうじゃ」


「何をいうとる、ばあさんで遊べんからこうやって我慢しとるというに」


「そこを突かれると痛い。ああ、そうじゃ。そういえばこんな求人誌がうちに入っとったのう」


 おばあさんは広告を取り出して、翁に見せつけます。なんとそこにはOLレディが水色のミニスカートをばっちり決めている写真が載っているではありませんか。



「じゅるり」



 おじいさんは泣く泣くかぐや姫を働きに出すことを決意しました。



 ◆◆◆◆◆◆



「かぐや君、ちょっとこれのコピーを取ってくれないか?」


「畏まりました、部長」


 かぐや姫は働きに出ると、見違えたように仕事を覚えていきました。オフィスレディとして三か月、短い期間で頭角を現すようになりました。


「部長、コピー二部ずつ、取っておきました! それとこれが冷たいお茶とおしぼりですね! 営業頑張って下さいね!」


「ああ、いつもありがとう。かぐや君は気が利くなぁ」


「とんでもありません! 部長、それとこれもよければですが……」


 かぐや姫が取り出したのは値段の割に質のいいフィリピンパブの広告でした。


「こちらに在籍されているジェニファーちゃんが部長好みだと思われます。愛想もいいですし、口も堅いため商談にも使えそうですよ! 何より社長・専務が通うことはありませんので、安心してお使い頂けることをお約束できます」


「お、おお……ありがとう、かぐや君。いつもすまないね」


「いいえ、私なんぞのために勿体ないお言葉です。是非、ご武運を祈っております」


 

 かぐや姫は仕事が大好きで、仕事のできるお方に敬意を表し従順にこなしていきました。


 その中でも特に熱心にお慕いしていたのは取締役の五人の幹部でした。


◆◆◆


「かぐや君、ライバル会社のデータを調べて来てくれないか?」


「常務、承知しました! こちらが各ライバル社、3社分のデータです。3人ほど同業者から裏も合わせておりますので、信憑性の高いものでございます」


「さすがかぐや君だ。これからも期待しているよ!」


「もったいないお言葉ありがとうございます」


◆◆◆


「かぐや君、うちの商品がマンネリ化の影響で売れないでいるようだ。何かいい方法はないかね?」


「所長、ここを見て下さい」


「ほう、なんと!」


 そこに映ったのは見事なギャルのパンティでした。


「私も市場捜査の一貫として使用させて頂いていますが、問題ありません。使用済みのものとして付加価値をつけて売るのはどうでしょうか?」


「グッド! それはいいアイデアだね! これで女性だけでなく男性の顧客もゲットできる。さすがかぐや君だ、あっちの方も具合がいいと聞いているのだが、そうなのかね?」


「うふふ、そこにはお答えしかねます。ですが体にきくことは可能でございますよ?」


◆◆◆


「かぐや君、何かいい商談場所はないかね? お酒でも飲みながら気軽にゆっくりと語られる所があればいいのだが」


「専務、不束ながらご用意させて頂きました」


「おお、ここは?」


「ファッションパブでございます。女の子のレベルはもちろんのこと、皆、わが社の製品をご使用しておられますので柔軟に対応できる所存です」


「なるほど、そうなれば取引先の方々にも直接見て触って貰えるということだね?」


「左様でございます。それとこれはいうまでもないことですが、社長はこちらのお店を使用されておりませんので、専務ご自身にも満足して頂けるかと思われます」


「さすがかぐや君、素晴らしい。どうだね? 今宵は金座でロマネコネンティで一杯、どうかね?」


「ありがとうございます。ですが私は一杯では嗜めない欲の深い女ですよ? 私でよければ誠心誠意、尽くさせて頂きます」



 かぐや姫の働きは常人の理解を超えていました。


枕営業はお手の物、自ら腕枕を持参するくらいのやり手エージェントに成長しました。



「部長、ここがいいのですか?」


「そうだよ、かぐや君。まさにピンポイントだ!」


「専務はこちらがよろしかったですよね?」


「イエスイエス、超エキサイティング!」


役員の方の評判もよく、その噂はなんと会長様にも届いてしまいました。翁よりも年を召した会長様は余命いくばくもない中、是非、かぐや姫に会いたいとまで仰せになられました。


ですが、かぐや姫は会長の申し出を聞き入れようとはしませんでした。



「おい。なぜじゃ、なぜかぐや君は儂に会おうとせんのじゃ」


「会長、かぐや君は気が利きすぎるのです。ですのできっと会うことで会長に何か悪いことが起こるのではないかと危惧しているのです」


 社長のいうことは尤もでした。会社に入ったかぐや姫はみるみるうちに輝きを手に入れ、まさに敵なしでした。抜群のプロポーションも、さらに進化を遂げFカップからIカップへと突入する所存でした。


 これでは会長も腰を抜かすに違いありません。


「それでもじゃ! 儂はかぐや君に会いたい! Fカップをこの目で見たいのじゃ!」


「会長、直接あえぬのなら、文通をしましょう! それだけでも彼女の魅力が伝わるはずです!」


「そうか! よし! 筆と紙を用意せい!」


 会長はかぐや姫を想いながら手紙を書いていきます。かぐや姫は好意を無碍にできず、こうして二人は特別な関係を築いていくことになりました。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やがて時が経ち、3年の月日が経過した8月のある日。


 お互いの文通は、瞬く間に進化を遂げ、文通から交換日記へ、さらにSNSへと発展していき、二人はマイミクとなっておりました。


 ―――――――――――――――――――――――


 『題名 今日のKAGUYA 1192句目 』


 Fカップ 天にも昇る この気持ち 胸のふくらみ 我が身でも知る



 中訳:Fカップ、なんて素敵な響きの言葉なのでしょう。この言葉を聞くだけで私の心までも大きく広がっていくようです。ああ、FカップFカップ。触りたい。



 コメント KAGUYA


 まあ、大変! 会長様のお胸まで大きくなってしまわれたら、お薬の数が増えてしまうかもしれませんね! お大事に!



 ―――――――――――――――――――――――――



2人の関係は親密さを増し、LINEでもやり取りを続けていきます。



 ―――――――――――――――――――――――――


  会長:ていうか、まじFカップとかありえなくね? どんだけ成長なの? たけのこ級なの? 


 かぐや:中心部は恥ずかしがり屋さんですよ。



 ―――――――――――――――――――――――――



「ああ、もう我慢できん。はぁはぁ……」


「会長、お気を確かに!」


「儂はもう駄目じゃ。この3年で目も悪くなっとる上に、耳まで聴こえんくなってきとる。それでもかぐや君を、かぐや君を何とか儂の前に連れてきてくれ。褒美は何でもする。頼むから、かぐや君を……」



 役員の五人はかぐや姫を連れてこようと、数多あまたの策略を練りラインを流しますが、かぐや姫はオッケーのスタンプを押しません。


「かぐや君、病室に美味しいゴディバのチョコレートがあるよ。どうだい?」


「わたくし、チョコレートは明治と決めておりますの」



「かぐや君、病室にインスタ映えする点滴袋があるんだ、写真を取りに行かないかい?」


「わたくし、ツイッター派ですので二次的なものはご遠慮させて頂いておりますの」



「かぐや君、病室にいい尺八を使った雅楽が掛かっているんだ、一緒に聴きに行かないかい?」


「わたくし、ダンスミュージックにしか興味ありませんの。いいグルーブのテクスチャーがなければ雑音にしかなりませんわ」



「かぐや君、いいバイブレーションが手に入ったんだが、早速病室で試さないかい? 秒速15万回転もできる優れものなんだ」


「わたくし、ローター派ですのでそちらはお断りしておりますの」



「かぐや君」


「間にあっておりますわ」



 取締役5人衆は肩を落としながら会長の部屋の前で項垂れます。



「どうして、かぐや君はそんなに嫌がるのかね?」


「全くもって理解できませんな」


「あれだけ仕事ができる人を慕っているのになぁ……今じゃ仕事は全て家内業務になってしまったし。もはや鶴のようにミステリアスな女性になってしまったねぇ」



そうなのです。かぐや姫は仕事ができるあまり、会社に行く必要すらなくなったのです。


 彼女は自宅にいながらも、支持者としての采配に長け、またインターネットを駆使して社内を動かしていたのです。


「風の噂では子作りに励んでいるそうですぞ。子供を身ごもっても、その行為は止められない兎になってしまったと……」


「なんと破廉恥な! だがそこがいい、痺れる憧れるぅ! 私も一緒に混じりたいものですな」


「そうだ! わが社のためにもかぐや君には会長に会って貰わなければ」


「はわわ、もしや……そういうことなのか?」


「どうした部長」


「我々は見当違いを起こしていたのかもしれませんぞ……」


 部長は頭を悩ませながら腕を組みます。


「かぐや君はきっと仕事ができる人だけでなく、別の要因があったからこそ、実力を発揮していたのかもしれませんぞ」


「なるほど……」


 五人は意見を纏め上げ、ついにかぐや姫に作戦を決行することにしました。



 ◆◆◆◆◆◆



 今日のKAGUYA 1197句目




 バイアグラ 空も大地も 全て知る 誇り掴めば 天をも貫く (字余り)



 

「これでよしっと!」


「こんなので、かぐや君の気を引かせられるのかね?」


「まあ、見てて下さいよ専務。ほら、早速コメントが」



 コメント: KAGUYA


 素敵な短歌ですね、病室に行ってもいいですか?


 

 常務の作戦が功を奏し、会長は気が気ではありません。何と部屋に夢にまで見たかぐや姫が来ることになったのです。


 それをお伝えすると、会長は一気に元気を取り戻しました。


「あわわ、かぐや君が! かぐや君が来るぞ!」


「会長、お気を確かに! 点滴とおしっこが零れてしまいますぞ」


 大慌てで部屋の準備を進めていく役員五人衆は二人の行方を見守ります。


 なんとそこに現れたのはIカップを超えたKカップのかぐや姫が現れたのです。


 

「君がかぐや君か、死ぬ前に会えてよかったよ」


 目が見えなくてもオーラを頼りに会長は言葉を添えてかぐや姫と握手を交わします。


「うん、実に綺麗な心の持ち主だとわかる。このぬくもりが何よりの証拠だ」


「か、会長!? それ、胸です胸。おっぱい掴んでますよ!?」


「おっと、これは失敬。でもかぐや君なら、おっけい包茎だろう?」


「何いってんですか、会長。拗らせ過ぎて問題発言のオンパレードですよ」


 気をよくしている会長には常務のお叱りの言葉も効きません。


「悶々発言のオチン〇パレードだって? おいおい、君も中々飛ばすじゃないか。まだ枯れてないようだね」


「かぐや君、気を悪くしないでくれ。会長はちょっと今、精神が錯乱しているだけだ。じきに収まるだろうから、少しだけ我慢してくれ」


「大丈夫ですよ、専務。わたくし、会長様の元気なお姿を見に来ましたの」


 そうなのです。かぐや姫の目的はあれなのです。


「会長、早くズボンをお脱ぎになって……」


「ああ……」


 会長の言葉を待たずにかぐや姫はズボンを脱がします。するとそこには当社比で1.5倍に膨れ上がった逸物(6センチ)があるではありませんか!



「ありがたや、ありがたや。それでは失礼致します」


 

 そういってかぐや姫が取り出したのは立派なチェーンソーでした。



「かぐや君!? どうしたのかね?」


「わたくし、これが大好物ですの。こちらを生で頂くのが何よりのごちそうでして」


「ひぃい!! かぐや君、一体、どうしたのかね!? 正気に戻るんだ」



 役員の五人衆は身を震わせながら、かぐや姫に抗議をします。



 ですが、かぐや姫は止まりません。



「あら、わたくし正気ですわよ」


「何をいっている。そんなものを振り回すことが日常であるはずがないだろう」



「わたくし、実は生まれた時にはこちらのものがついておりましたの。それでもうちのおじい様に見つかってしまった時に切断されてしまったのです」



「ってことは……まさか……君は……」



「そうなのです。わたくし、こちらのものが欲しくて入社を決めたのです。でも中々生えてこなくて困っているのです」



「は、生える訳がないだろう! 誰がそんなことを君にいったんだ?」


「おじい様です」


 かぐや姫はチェーンソーのスロットルを全力で引きながら答えました。



「おじい様はわたくしのために毎晩のようにこちらを食べさせて下さいましたが、結局生えてきませんでした。それでもおじい様よりもお年を召した方のものであれば、生えてくる可能性があるかもしれません。それ以外の年齢の方は全て試しましたから」



「…………」



「大丈夫です。痛みは快楽に変えることができるのです。それではおひとりずつ、生のものをお試しになってもいいでしょうか」



「ひぃぃ、た、助け……」


 

 かぐや姫は一言漏らしながら、恍惚とした表情でチェーンソーを振り下ろしました。




「さあ……月に替わって、ご奉仕致しますよ」

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