文字数 800 ジャンル『現代ドラマ』 タイトル『回転頭師(かいてんずし)』





 ~回転するのは、お寿司だけじゃない~




「へい、お待ち」


 そういって最後に現れたのは締めの穴子だ。


 肉厚の穴子が口の中で一杯に広がり、特製ダレが余韻を残す。


「実はね大将、今日でここのお寿司を食べるのは最後になりそうなんだ。転勤で東京に行かないといけなくてね」


「そうだったんですね……実はうちもこの回転寿司を止めることになったんです」

 

 大将は寂しそうにいった。前歯の一本である銀歯の光もどことなく薄い。


「時代の流れかねぇ……この機械もガタが来ていてね、うちのような個人店は廃れていく一方なんですよ」



 ◆◆◆


「旨い、やっぱり旨いねぇ」


 最後の穴子が今まで味わってきた寿司達を蘇らせていく。全てが一連の流れで繋がっており、親父さんとの思い出まで浮かんでいく。


 修行中、嫌がらせで寿司の米粒まで数えさせられたこと。


 ラーメンを食べ過ぎて糖尿病になってしまったこと。


 不良の息子を修行に出したら、フランスに留学してしまったこと。


 たくさんの思い出が特製ダレと共に余韻を残していく。


「ありがとう、親父さん。今日も美味しかったよ」


「こちらこそ、ありがとうございます。またどこかでお会いできたら嬉しいね」


 ◆◆◆


 5年後、久々の帰郷にふらっと店の近くを立ち寄ると、新しい寿司屋が出来ていた。


「へい、いらっしゃい」


 中に入ると、色の黒い若い男がカウンターを背に寿司を握っていた。


 彼の創作寿司を食べていく。洋風な寿司に驚きながらも、大将のものには及ばないなと感じてしまう。


 最後の締めに出てきたのは特上の穴子だった。タレの味に驚愕し、彼を見るとどことなく面影があった。


「お兄さん、もしかして……」


 カウンターの裏から出てきたのはあの親父さんだった。


「久しぶりだね。実はね、息子が店をやるっていってね、カウンターにしたんですよ」


 そういって親父さんは輝く銀歯を見せて笑った。


 ……回転するのは寿司だけじゃないな。


 隣の息子まで金歯を出して笑っているのを見て、私は腹だけでなく胸も一杯になっていた。

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