第200話 土下座のその先へ
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「はぁああああああああああああああああああああ!」
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「――エイミング、ドライブ、ナインス!!」
「久々に本気出させてもらうぞ」
会長とそのパートナーの飛竜のソラ、そしてそれに相対する灰谷先輩と、どこから現れたのか来道先輩が激突する。
激突しているのだろうけど…………うん、速過ぎて何が起きてるのか全然わかんないや。
英里佳や詩織さんたちの動きを見て早い動きには見慣れたはずだったんだけど……なんというか……桁が違う。
二人の実力もトップクラスなんだろうけど……そのトップクラスの中でもさらにトップを走ってる三人と一匹の本気の激突を目の当たりにして、僕は開いた口がふさがらなかった。
「――大地くん、大地くん……!」
「泣く、なよ……はは、たくっ……仕方ない奴だな」
そんな声がして振り返ると、なんかいつの間にか出来上がっていたクレーターの真ん中でボロボロの下村先輩を抱きしめている瑠璃先輩の姿が見えた。
またなんか重要な場面を見逃した気がする!
まぁ、でもあれかな?
1 魔法を放つ瑠璃先輩に構わず特攻をかます下村先輩
2 接近されて焦る瑠璃先輩
3 攻撃されるかと思ったら下村先輩に抱きしめられる
4 下村先輩が気持ちを伝えて誤解が解ける。
5 満身創痍で倒れ、そんな下村先輩を心配する瑠璃先輩
……まぁ、こんなところかな。
いや、焚きつけたのは僕だし、下村先輩が精いっぱいやったのは今の姿を見ればわかるわけなんだけど……
………………うん、この場で下手に声をかけるのは無粋というものだろう。
別に、面倒になったとかそういうことではない。
ないったらない。
だから僕はできるだけ音を立てず、静かに、静かーにスキルを発動させて地面を掘って土壁の向こう側を目指すのであった。
■
「くぅ……!」
「強い……!」
「おらおらどうした?
もうへばったのか?」
氷川明依と栗原浩美
二年でもトップクラスの二人の実力者を相手に、身の丈よりも巨大なハンマーを担いだ会津清松が相手をしていた。
「二人掛かりでも、押し切れないなんて……!」
「格上であることはわかっていたはずなんですけど……まさか、ここまで強いなんて」
明依の弓による遠距離攻撃、浩美の剣での接近攻撃。
お互いに不足を補う形で最低限ではあっても連撃をしているにも関わらず、すべてをパワーによってねじ伏せられていた。
「お前らは確かに強い。頭一つ抜けてるよ。
けどよぉ、それってつまり三年クラスってことであって、それを加味すれば特別強いわけじゃねぇぞ。
MIYABIのライブ効果が無ければとっくにお前らは負けてたな」
そんな清松の言葉に、明依も浩美も顔をしかめた。
「ちょっと、まずいんじゃないの……?」
「あの二人でも押し切れないなんて……」
自分たちの代表が押されている様子に、女子陣営の士気が下がる。
その一方で男子のボルテージは上がっていく。
「よしいいぞ!」
「清松最高ぉ!」
「最高キヨマツ!」
「流石はキヨマツだ!」
「流石キヨマツ!」
「サスキヨ」「サスキヨ」「サスキヨ」
「キモマツ!」「キヨマツ」「キヨマツ」
「サスキヨ」「キヨマツ!!」
「おい誰だ今キモマツって言ったやつ!?」
テンションが高くなっていまいち統制が取れていない。
一方で、清松は内心で冷や汗をかいていた。
(勢いで押してはいるが……まずいな、流石にしんどくなってきた)
目の前の二人の攻撃を一人で受けきること、それに加えて普段とは比較にならないほどに巨大な武器を振り回し続ける状況は、確実に清松に疲労を蓄積させていた。
一方で、相手をしている明依も栗原はMIYABIのライブの恩恵で常に回復されている。
最初に不意打ちで与えたダメージはすでに抜けており、栗原も一度は握れなくなった剣を今は両手で構えている。
(あと何度凌げるか……どうにかしねぇとな……)
自分が崩れたらこの場は確実に押し切られる。
今はそれをさせないために虚勢を張っている。
まさに薄氷の上を進むがごとく危うい状況だったのだ。
――そんなとき、清松と、そして距離を開けて向き合っている明依と浩美の間の中央当たりに、手が生えてきた。
「は?」
「「え」」
突然地面から生えてきた手に驚く三人
周囲にいた者たちも、地面から生えた手に動きが止まる。
「ぷはぁ……あー、苦しかった」
そんなことを言いながら地面から顔を出したのは、歌丸連理であった。
「………………ふむ」
前を見て、横を見て、後ろを見て、そして一周して前を見て…………
「間違えましたー」
何事もなかったかのように再び地面に潜ろうとする。
「いやちょっと待ちなさい歌丸連理!?
貴方何をやってるの!」
「――――」
「無言で掘り進むな!!」
「う、歌丸くん何やってるの?」
「見ての通り地面を掘ってます」
明依の言葉は素で無視したのだが、浩美からの質問には手を止めて再び地面から首を出して答える。
「う、歌丸連理ぃ……!
兎といい貴方といいどこまで私たちを馬鹿にすれば気が済むのですかねぇ……!!」
「あれ、ファッションメガネ、本体はどこに落とした?」
「殺す」
連理目掛けて弓を連射。
連理は素早く地面に潜って回避。
「っ! 氷川さん!」
そしてその行動は明確な隙を生んだ。
「よそ見とか学ばないな、お前」
「っ!」
振るわれたハンマーをギリギリで回避した明依。
体勢を崩して追撃される直前に、浩美が襟を引っ張ってそれを回避した。
「ちっ……で、歌丸、お前がここにいるってことはマーナガルムとか他の連中はどうした?」
「マーナガルムは僕が完封してきました。
会長は灰谷先輩と来道先輩が対応してます。
瑠璃先輩の方は下村先輩が口説き落としました」
「何があった。
いや、本当に、何があった」
簡易の説明では何があったのかよくわからず思わず聞き返してしまう清松
特に最初と最後がまったくわからない。
「じゃ、僕先に行くんで頑張ってください」
「いや、ちょっと待て歌丸」
「はい?」
「特性共有って奴、今空きはあるか?」
「まぁ……ありますよ。
万が一を想定して英里佳は残しますけど、他は解いていいって聞いてますので」
「それ頼む。
ちょっと腕が重くなってきたんだ」
「了解です」
醤油取ってくれ、的な気軽さで清松に対して特性共有を発動させる連理。
結果、清松は今まで蓄積されていた疲労が一瞬で改善された。
「まさか………………しまった、騙された!」
清松の発言に、実は自分たちの優位があったことを今さらながら悟る明依。
しかしもう手遅れである。
「――ほぉ……これはスゲぇな」
肩をぐるぐると回しながら、清松はそう感想をこぼす。
そしてそのまま学生証を操作し、今度は大剣を出す。
それを片手で握り、右手にハンマー、左手に大剣を構える。
「これなら後先気にせず振り回せるぜ」
「じゃ、この場お願いしまーす」
さらりと凶悪な補助をした歌丸連理は、この状況をわかっているのかいないのか、また地面に潜ってしまった。
「歌丸連理……やっぱり先に仕留めておくべきでした……!」
「あ、あははははは……なんかあの子、味方の時は地味に見えるのに、敵に回るとどうしてここまで厄介なんだろう」
顔を引きつらせる明依と浩美
そんな二人を見ながら、虚勢ではなくなった自分の優位を清松は噛み締める。
「さて……こっからはガンガン飛ばしていくぜ!」
二つの巨大な武器を振り回す。
その際に感じた風圧により生じた風に、その場にいた者たち全員が嵐の出現を理解したのであった。
■
「ぎゅぎゅう!」
「きゅるぅ!」
「甘い」
二匹の兎が素早い動きでドライアドが鞭のように振り回す根を回避しながら戦っていた。
そんな時だ。
「――ひゃぅ!?」
ドライアドのララが急な奇声を上げた。
「ぎゅ?」
「きゅ?」
「ひ、ぁ、や、やめ、そこ、だめ……!」
ララはその場で身もだえしており、攻撃の手が止まった。
チャンスと言えばチャンスなのだが、二匹の兎――ギンシャリとワサビは何がおきたのかわからずに首を傾げている。
そんな時だった。
「ぁ、だ、だめ、そんな、無理矢理、ダメダメ、ぁ、ああ……だめぇぇぇ~~~~!」
今まで聞いたことのないような艶やかな声をあげるララ。
それと同時に、地面から手が生えたきた。
「ぎゅ!?」
「きゅる!?」
その手に驚くギンシャリとワサビであった……
「――なんでここ木の根張り巡らされてんだよ掘りづらいなぁ!!」
そこから出てきた自分たちの主である歌丸連理の姿を見てさらに驚く。
「ん、あれ、なんでお前らがここに……って、なんでララそんなところで座り込んでるんだ?」
土の汚れを払いながら地面から出てくる連理は周囲の状況を見ながら首を傾げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「…………お前ら、ララに何やってんだ?」
「ぎゅう」
「きゅる」
「え? お前が言うなってなんで?」
久々に兎語スキル(初級)を使ってみたが、状況が良くわからずに首を傾げる連理である。
「えっと……とりあえずこの場任せて先に進んでいいのかな……?」
「ぎゅぅ……」
「きゅるるぅ……」
「なんでそんなお前らテンション下がってんだよ?
え、何、僕何かした?
ただ地面を掘ってここに来ただけなのに……」
「……もぅ……お嫁にいけない」
「なんでだよ!?
え、マジでなんで!?
――ああもう、とにかく僕は先に進むからな!!」
「ぎゅぅう……」
「きゅるぅ……」
「…………やり逃げ」
「お前らどこでそんな言葉覚えた!?
というかなんもやってねぇし!!
とにかく僕は先に進むからなぁ!!」
そんなことを叫びながら、連理は走って先へと進むのであった。
後日、こんなうわさがまことしやかに囁かれる。
曰、歌丸連理はドライアドフェチ
曰、歌丸連理はロリコン
曰、歌丸連理は鬼畜野郎
真実はどうなのか知らないが……この模擬戦の後の打ち上げで、歌丸連理は終始正座させられていたことを、ここで先に述べて置く。
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