第43話 歌丸誘拐自演事件!

こんにちは、いや、こんばんは?


ついさっき拉致された歌丸連理です。


僕は目隠しをされたまま、車でしばらく移動した後に下ろされ、後ろから押される形でどこかを歩かされ、現在はエレベーターに乗っている。


「で、ぶっちゃけ東学区の生徒会関係者の人が一体僕に何の用なんですか?」


「…………鎌掛けしてるつもりか?」



僕に薬物をかがせた男が落ち着いた声で答えた。



「いやだって、他にこんなことできるような組織とか思い当たりませんし。


人数もそうだし、車もってなれば単なる学生の集団とは考えにくい。


仮にいたとして、こんな風に僕を誘拐するメリットとデメリットを考えて無さ過ぎるように思えますし。


僕、一応北学区の生徒会関係者ですし、そんな僕を誘拐とかしたら今後の学園での生活がかなり難しくなりますし。


あと――」


「まだなんかあるのか?」


「僕が皆さんの立場なら人質を利用して三上さんにエロいことを要求しますね。


あの状況で見逃すとか常識的に考えてありえないことですよ」



「「「…………」」」



おや、なんだか空気が変だぞ?


まぁ、気にせず話を続けよう。



「あんな絶好の機会を逃すとか、EDかホモくらいです。


両方違うなら、もうそれは貴方達がならず者じゃないってくらいしか可能性がないかと。


まぁ、天文学的にあの場にいた全員がホモかEDだとしたら爆笑ものか僕の貞操の危機なわけなんですが………………あれ、僕危ないっ!?」


「そんなわけないだろっ!!」


「あ、じゃあやっぱり生徒会の人? あ~よかった」


「勝手なこというんじゃない」


「えっ……やっぱりホモ……!? 助けておまわりさーーーーーん!!!!」


「ああもう、うるさいな! そうだよ、東学区の生徒会直属ギルドだよ! だから静かにしろ!!」


「そんなこと言って、僕を安心させてから酷いことするんだろ! 薄い本みたいに!!」


「ふざけんじゃねぇよ! 正真正銘の生徒会直属ギルド“コール”だ!!


そんな不穏な噂が流れて今後の活動に支障をきたしたらどうするつもりだ!!」


「お、落ち着けガイ、こいつただお前をからかってるだけだ」



バレたか。


というか薬物の人の名前“ガイ”って言うのか。なんか“ゲイ”と語感が似ててやだな。



「じゃあとりあえずコレ外していいですか?」


「切り替え早すぎるだろこいつ……はぁ……もういいよ、バレたんならわざわざ隠す必要もないしな」



許しても出たので目隠しを外すと、案の定エレベーターに乗っていた。


そして周囲を見回すと、とても長めの良い夜景が見えた。



「へぇ……東学区って高層の建物がたくさんありますけど、ここはその中でも特別高いんですね」


「お前マイペース過ぎるだろ」


「よく言われます。


で、結局のところどうして僕を? もしかして僕だけまた再試験ですか?」


「……いや、お前ではない」



そこでようやくエレベーターが止まり、扉が開いた。



「――試験を受けるのは、あなたのパートナーですわ」



今までと違う女性の声。


エレベーターが開き、そこには一人のきらびやかな扇子で口元を隠した女性が立っていた。



「……あ、どうぞ」



とりあえず僕はその場から少し下がって人が乗れるくらいのスペースを作った。



「ありがとう。しかし別にエレベーターを待っていたわけではありませんわよ」


「あ、下へ行くんですか。じゃあ閉めますね」


「おいお前これ以上ふざけ倒すならぶん殴るぞ?」


「え? 何がですか?」



どういうことなのかよくわからず首を傾げると、扇子の女性が嘆息する。



「……聞いていた話よりかなり天然入ってますわね」



あ、もしかしてここで僕たち降りるのか?


ってことはこの人はエレベーターじゃなくて僕たちを待っていたということかな?



「あ~……すいません、どうもなんかさっきから頭がぼぅっとしてまして……


鎮静剤ってやつの影響ですかね?」


「なるほど……耐性はあっても完全に効かないというわけではないのですね」


「うっす。さっきから眠かったり意識がハッキリしたというのを繰り返していていまいちテンションが定まってない前後不覚の酩酊状態。つまり僕は悪くない」


「酔っぱらいかよ」


「元はと言えばあなたが薬嗅がせるからですよ。普通に声かければいいのに」


「それじゃ誘拐の演出ができないだろ。


お前のパートナーの試験だって言っただろ?」



パートナー……そんなことを言われて真っ先に僕の脳裏に浮かんだのは英里佳だった。


僕じゃなくて、英里佳の試験?


どうにも解せない。僕はともかく、英里佳のどこにこれ以上試験をする要素があるというのだろうか?



「とにかく、バレた以上は貴方にも協力してもらいます。こちらに来ていただけますか?」


「どうでもいいですけどあなた戎斗となんとなく目元似てますね」


「本当にどうでもいいことですわね。一応あれは弟ですので多少似てるのは当然です」


「へぇ」


「…………それだけですの?」


「はい」


「もっとこう……普通…………その、リアクションとかありませんの? あなたのパーティメンバーの姉が、別学区の生徒会関係者なのですよ?」


「いやだって、前置きで“どうでもいいですけど”って言ったじゃないですか」



なんか扇子の人、もとい戎斗のお姉さんは額に手を当ててうつむく。


頭痛だろうか? 疲れているのかな?



「もの凄く調子を狂わされますわね、あなた」


「すいません、全部この人が悪いんです」


「俺のせい!?」



だって薬物とか嗅がせるから、どうも本調子になれないんだよなぁ……



「こほんっ……とにかく、ついていらっしゃい」


「あ、弟さんお姉さんがいない間に語尾が“~~何々ッス”っていう三下口調になってました」


「ちょっとその話、詳しくお聞かせしてもらってもよろしいかしら」


「良いですよ」



僕は歩きながら戎斗のここ最近の反応をお姉さんに詳細に説明をし始める。



「弟スゲーとばっちり受けてるな」



なんか後ろでゲイの人がなんか言ってたけど、僕の耳には届かなかった。





――トントントントントンッ



「…………」

「きゅうぅ……」



圧迫感の強い空気に、三上詩織みかみしおりは喉の奥が乾いていくのを感じていた。


そしてその空気に怯え、普段はあまり懐かないシャチホコが自分の脚にしがみついてきている。



そしてそんな空気を醸し出しているのは、他でもない。



現在、まだ若干の人通りのある東学区の駅前の広場のど真ん中でナイフと残り少ない弾薬の入った拳銃を武装した榎並英里佳えなみえりかその人であった。



「まだ」



幽鬼を思わせるようなゆったりとした動作で、しかしどうして、迂闊に近づけば身を斬り裂かれるかのような鋭利さを連想させる雰囲気で首を傾げる英里佳



「まだ、二人は来ないの?」


「……さ、さっきも言ったでしょ、次の電車で二人とも来るって」


「……そう」



トントントンと、一定のリズムでその場で小さくリズミカルに地団太を踏む英里佳


決して子供のように無茶苦茶に、節操もないように暴れてはいないが、隠しても隠し切れない怒気からか、彼女の背後には炎すら幻視する。


しかも服装ベルセルク用のものに変化しており、誰も彼女に近づかないので広場には大きな空間ができていた。



歌丸連理がさらわれたと聞いて真っ先に駆け付けた彼女だったが、その後も状況は芳しくはなかった。


すぐに助けに行こうと言い出すも、まず現状では歌丸を助け出すだけの戦力もないということで生徒会、及び教員へ連絡を入れようと試みたがどちらもうまくいかなかった。


生徒会はまず姿が見当たらない、というのもあるのだが教師の方に至っては生徒同士の諍いには極力干渉しないと門前払いであったそうだ。


最初はなんともいい加減な、と憤慨したのだが流石にここまで連絡がつかないと詩織も冷静になる。



(もしかしてこれって……生徒会が関係してるのかしら?)



そもそも詩織だって馬鹿ではない。ちょっと冷静さにかけるが、一度冷えれば頭の回転は歌丸以上なのだ。


相手の連中の誤算はまず、歌丸が薬物で意識を失わなかったことだろう。


あのまま歌丸が意識を失ってそのまま連れていかれれば、ここまで冷静には考えられなかったはずだ。


あの時、決して少なくない数の人目に自分たちは晒されていたのだ。


なのに、東学区の掲示板を検索してもそれらしい情報が見つからない。


明らかに情報に規制が敷かれている。


一瞬で終わったならそれも納得なのだが、ああして歌丸と覆面の男との会話をしていて、あれだけの人数の覆面が現れて一切反応が無いのは作為的にしか思えない。


生徒会に連絡がつかないのも、教師たちの反応が芳しくないのも、これが生徒会関係が仕組んだ一環ならば納得もいく。



(だけど……)



あくまでも、これは冷静になればこそ導き出せる推論だ。


歌丸が攫われたと聞いた時点で冷静になれなくなっている英里佳は、今にも触れれば切れる刃物のように怒っており、今の詩織とは別に、純粋にこの状況で役に立たない生徒会と教師たちに対して腹を立てている。



伝えるべきか、否か迷う。



冷静にさせるなら伝えた方がいいのかもしれないが、その場合この一環の意図が台無しになる。


それにもしかしたら本当に歌丸を生徒会とは無関係のところが拉致した場合、油断が生まれて大怪我をする可能性もある。



(不安だけど、今はまだ伝えない方がいいわね)



それが詩織の結論だった。


せめて何か一つでも確証がない限りは、下手な推論は返って邪魔になる。



「ごめん、遅くなって」

「今来たッス」



そしてようやく駅から走って出てきた紗々芽と戎斗の姿に、詩織は安堵した。



「それじゃあ早く歌丸くんのところに行こう」



英里佳は二人の顔も見ず、シャチホコの方を見た。


さっさと自分たちを案内しろよ、とその眼で語っていた。



「きゅきゅう!!」


「わわっ」



英里佳の眼光に怯え、シャチホコはすぐさまその場から飛び跳ねて紗々芽の胸へと飛び込む。


そのまま顔を紗々芽の胸の中に埋め、身を隠そうとしているつもりらしい。



「なにしてるの、早く歌丸くんの居場所に案内して」


「え、英里佳、落ち着いて」


「そうよ、あんた少しは……ん? 英里佳?」



いつの間にか呼び方が変わっていることに首を傾げる



「あ、うん、今日迷宮出た後にお互いに名前で呼ぼうって話になって」


「そうなの?」


「そんなことより、シャチホコをこっちに渡して紗々芽ちゃん」



苛立った様子で紗々芽の方に手を伸ばす。



「きゅぅう……」



シャチホコは心底今の英里佳に怯えた様子で潤んだ瞳で紗々芽の方を見上げる。



「英里佳、歌丸くんのことが心配なのはわかるけど、せかすようなことしたらシャチホコちゃんも案内できないよ。


今はこの子しか歌丸くんの居場所わからないんだから無理させちゃ駄目」


「でもっ、早くしないと歌丸くんが……!」



その英里佳の言葉に、詩織は表情を曇らせる。


状況が状況だけに、仕方がないということで何も言われてないが、やはり自分が一緒にいて歌丸を連れていかれたことを気にしているのだ。


仮に英里佳が一緒ならば、歌丸一人くらい抱えて逃げ切ることは可能だったはずなのだ。


英里佳も自分が一緒ならと、お互いに言葉にしないが、考えていることは一緒なのだ。



「いいから、英里佳少しシャチホコちゃんから離れて。


どっちにしろ、英里佳は普段みたいに強化した状態で戦えないから前にはあんまり出ないで」


「……わかった」



渋々ながらも頷き、シャチホコから離れる英里佳。



「で、ぶっちゃけた話なんスけど、榎並さんの今の状態だと強化した時と比べてどの程度戦えるんスか?」


今まで黙っていた戎斗だが、これから挑む相手の規模を考えるとそれを確認せずにはいられなかった。



「…………銃があるから囲まれない限りは相手が上級生でも対応はできるけど、歌丸くんの治療費で弾薬が補充できてないから、たぶん白兵戦が得意な人には苦戦は確実。


強化していれば、問題はないんだけど……」


「ああ……やっぱりッスか。普段から使ってて忘れてるッスけど、やっぱりベルセルクの能力ってチート染みてるッス……年季の差はやっぱり簡単には覆せないッスよね」



能力値は迷宮生物との戦いで伸びていき、ポイントでさらに強化できる。


ならば当然、一年生より二年生、二年生より三年生が強いというのは常識だ。


それを覆せる能力など、現状の英里佳たちにはベルセルクの戦闘能力以外にはない。


しかしその能力ですら、歌丸がいなければ諸刃の剣となり、自分たちを傷つける。


英里佳だけでなく、普段自分たちがどれだけ迷宮攻略や戦闘で歌丸を頼りにしているのかを実感させられる。



「とにかく、急いで歌丸のいるところに行くわよ」


『――その必要はない』



唐突に聞こえてきた妙な声。


人の声というには、あまりに無機質なその声に詩織たちは驚きながら周囲を見回すと、いつの間にか自分たちの近くに映像が投映されたのだ



「っ、歌丸くんっ!」



その映像には、目隠しとヘッドフォンをされた状態で全身を拘束されている歌丸の姿が映し出される。



『歌丸連理の身柄はこちらが預かった。


返して欲しいなら、現金5000万用意しろ』


「5000万っ!? 吹っ掛け過ぎにもほどがあるッス!!」


『歌丸連理の能力を考えれば妥当だろ。


生徒会から引き出せばその程度は用意できるはずだ』



――歌丸の能力についてバレている。


その事実に詩織は焦りを感じた。


もしかしたら、本当に歌丸の能力目的で誘拐されたのではないのかと、先ほど生徒会関係のレクリエーションの一環だと思っていた自分の考えが一気に揺らいだのだ。


確かに、歌丸の持つ能力の真価がわかればそれくらいの身代金を要求されても不自然ではないと詩織は考えた。


そしてその時、詩織の学生証に着信が入る。



「もしもし?」


『しーたん、レンりん攫われたってどういうことっ!?』



その相手は焦った様子で喋る金剛瑠璃であった。



「瑠璃先輩、今までどうして」


『どーしてもこうも、ゴールデンウィーク中の活動の打ち合わせに参加してて北学区の生徒会とギルド幹部はみんな西学区に集まってたの!


そしたら生徒会に身代金の要求が来て、もうこっちはてんやわんやだよ!』



背中を冷たいものが伝っていく。


これは、本当にマズイ状況なのではないだろうか?



『とにかくしーたんとさめっちだけでも急いで西学区に来て!』


「わ、わたしもですかっ!」


自分も呼ばれたことに驚く紗々芽



『相手が引き渡しの相手にさめっち指定したの!』



確かに、紗々芽はエンチャンターであり、純粋な戦闘力は多くの者に劣っている。


引き渡しの相手として指定するのならば生徒会関係者の中でもっともリスクが少ない。



「え、でも」



今この場を離れることに抵抗を感じた詩織だが、瑠璃はそんなことお構いなしと捲し立てる。



『現金用意しないといけないし、状況の確認もしないといけないんだから早くして、待ってるから!』



そういって、一方的に通話が切れた。


茫然とした表情を見せる詩織に追い打ちをかけるように、まだ投映されている歌丸が突然苦しみだしたよに身をよじらせた。


「歌丸くんっ!」



声は届かないとわかっていても、英里佳は歌丸を呼ばずにはいられなかった。



『歌丸連理には毒薬を投与した。


指定した時間までに金を渡さなければ……死ぬぞ』



犯人からのその言葉に全員が顔面蒼白になる。



「そんなっ……!」


「ちょっとこれ、マジで洒落になってないッスよ……!」


『教師はもちろん、他の大人にこのことを伝えてもこいつは殺す。


いくらスキルの能力で耐性を得られると言っても、学生証を操作できなければ無意味だろ。


では、賢明な判断を期待する』



映像と音声はそこで途絶え、広場には静寂が流れる。



「……紗々芽、ひとまず言う通りにするわよ」


「で、でも……!」


「今は考えてる時間が無いの! 歌丸の命がかかってるのよ!」



そういって、詩織は踵を返して駅へと入っていく。



「……わかった。


日暮くん、シャチホコちゃんをお願い」


「え? 俺ッスか?」



自分が指名されたことに驚く戎斗だが、紗々芽はひとまず抱き上げているシャチホコを優しく戎斗の方に渡す。



「シャチホコちゃん、日暮くんのことあんまり警戒してないし……今は、英里佳のこと怖がってるから」


「わ、わかったッス」


「きゅぅ……」



手渡される際に悲し気に鳴いたシャチホコだったが、すぐさま紗々芽は詩織の後についていって駅に戻っていく。



「えっと……どうするッスか?」


「……決まってる」



英里佳は冷たい声を発して、その眼に鈍い光を宿して淡々と告げる。



「歌丸くんを……助ける」






「はいカーット」



合図が聞こえてきたので、僕は簡単に外れる拘束具を身をよじって外して、自分の手でヘッドフォンと目隠しを外した。



「どうでした?」


「お前の予想通りにうまく行ったが…………」



薬物の人、もとい東学生徒会の書記の比渡世ひわたせ がい先輩はなんとも言えない表情をしている。



「やりすぎだろ」


「いやいや、これくらいしないと絶対勘づかれますって。


現に僕の誘拐の時に三上さんへの仕打ちが手ぬるかったから生徒会の仕込みだってバレかけてたっぽいじゃないですか」


「それはそうだが……いやしかしな」



なんとも歯切れの悪いガイ先輩だったが、そこへビシッと一喝が入った。



「――しつこいですわよ比渡世


私たちが、あのビッチの二の舞のようなことをするなんて断じて許されないことなのよ」



この東学区の副会長を務めている戎斗の実の姉である日暮亜理紗ひぐらしありさ先輩であった。


あ、ちなみに“ビッチ”ってのは瑠璃先輩のことらしい。なんか知らんが、とても敵視しているようだ。



「あんな女と同じように、こちらの思惑筒抜けでグダグダな試験をした連中とちがい、私たちは完璧にあのベルセルクと、ついでに愚弟を試すのですわ」


「やべぇよこれ、絶対にやり過ぎてるよ……」



頭を抱えるガイ先輩の頭を、最初に話しかけてきた覆面先輩が慰めるように手を置いていた。



「しかし……流石に悪乗りしすぎではないか?」



覆面先輩もとい、東学区生徒会で会計を務める福田倫ふくだみつる先輩は気乗りしてない様子だ。


ちなみに、さっきの音声変換ソフトを通して三上さんたちに話しかけていたのはこの人です。



「でも、協力しろって言ったのはそちらでしょ」


「確かに言ったが……いくらなんでもお前の提案はやり過ぎだと思うぞ」



あ、ちなみにここまでの流れの構想の7割は僕です。


やっぱりこちらも相手も学生ってことで相手に対しての遠慮みたいのがあるせいでどうにも手ぬるい感じがあったのでその辺りまとめて取っ払いました。



「いやでも、日暮先輩も許可だしましたよ?」


「それはそうだが……出させたのはお前だろ。あんなこと言うから……」


「あんなことって……」



実は僕の提案、他の先輩方だけでなくこの場の全体指揮している日暮先輩も渋っていたのだ。


そこで僕は、『風紀委員(笑)かっこわらいでの試験の時みたいにこのままじゃグダグダに終わりますよー』っと進言した結果……



「私たちはあのビッチと違って完璧に試験をやり切りますわよー!」



なんか今にも「おーっほっほっほっ!」と笑いだしそうなくらいに意気込んでいらっしゃる。


でも実際、英里佳と、あとついでに戎斗を試すならこれくらいしないと駄目だと思うんだよね。


三上さんは頭が回るし、苅澤さんも自己主張はあまりしないけどその分いつも冷静で、何かきっかけがあれば絶対にこれが試験だと気づく。


他の二人も決して馬鹿ではないし、三上さんと苅澤さんの反応からこちらの意図を汲まれる可能性もあるから、分断する口実が必要だったのだ。



「お前はいいのか? これがバレたらお前の方でもしこりが残るかもしれないぞ」


「まぁ、その可能性はあるんでしょうけど……」



僕は監視カメラに移っているシャチホコを先頭に歩く戎斗と、そして英里佳を見た。



「なんか、困ってるみんな見てたら楽しくなってきちゃって!」


「……………」



なんか福田先輩が顔を手で覆って天井を仰いでいる。頭痛かな?



「そういえば今のお前正常な判断ができない状態だったな……」


「え、全然問題ないですよ! ちょっとぼうっとするくらいですよ!」


「まともじゃない連中はみんなそう言うんだ」



そんな人を酔っぱらいみたいに言わないでもらいたいな、ぷんぷんっ!



「おいどうすんだよ、結局金剛もなんかノリノリで演技してたしよ……」


「こいつ、一見まともに見えて本質は奴と同じなのかもな」


「刹那的快楽主義者か……北学区の連中ってそういうの多いよな」


「いや、単に後先考えないだけだろ……」



なんかガイ先輩と福田先輩が小声で話し合ってる。ホモかな?



「さぁ歌丸連理! ここから先はあなたの演技の見せ場ですわよ!」


「はいっ! がんばります!! 滅茶苦茶苦しむ振りをして英里佳を心配させればいいんですよね!」


「ええ、その通り! そして私は慌てふためく愚弟の様を楽しむといたしましょう!」


「えーっ、僕も英里佳の困ってるところ見たいです」


「ご安心なさい。録画しておきますわ!!」


「じゃあ安心ですねっ!!」


「おーっほっほっほっほっ!」

「あーっはっはっはっはっ!」



さぁ、た・の・し・く・な・っ・て・き・た!!



「俺もう知ーらね……」

「ああ……もう俺たちは試験に集中していよう」

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