自殺

@INGLASS

①僕

「難病です。」

僕は医者からそう言われた。

その瞬間、僕は自分が死ぬのだと思った。

事態はいつも、突然である。


僕は某県の某大学に通っている大学生だ。

大学進学を機に上京し、今に至る。

医者に病気を宣告されたのは大学入学してちょうど1年目の冬だった。


クローン病

消化器官(食道、胃、小腸、大腸、肛門)に潰瘍が生まれる病気だ。

原因は未だに分かっておらず、完治する治療法は未だ見つかっていない。


と言うと、なんだかかわいそうに思えてくる。

しかし、僕の場合、軽度だったためさして目にあらわれる変化はなかった。


唯一、僕を悩ませたことがある。

それは食事制限だ。

食事制限というとそうでもないように思えるが、1日あたりの脂質量を30g未満、食物繊維は10g、酒・タバコは控えるようにしなければならない。

分かりやすくすると、焼き肉、ラーメン、カレー、トンカツ、すき焼き、納豆、硬い繊維のある野菜、キムチ鍋、たこ焼きetc・・の類が食べられない。食べてしまうと症状が悪化し、突然の下痢・腹痛、発熱、肛門痛、口内炎、節々の痛み…が発生する。今では慣れてしまったが、健常者から見たら驚くと思う。


発病して1ヶ月間は毎日食べられない物を食べたい欲に苛まれたが、その後は特に食べたい欲求はなかった。人間は慣れる生き物だなと実感した。しかし、僕は一種の差別を感じていた。


健常者 対 難病。

僕は他の、いわゆる「難病」の方々とは違う。好きなように動けるし、固形物を食べられるし、学校、バイト、サークル、恋愛もできる。余命も少なくとも後40年はあるだろう。だが、僕はクローン病を患ったことで一種健常者と線を引いてしまった。


端から見れば健常者。しかし、僕の内面は難病持ちの異常者。共に食事をするのだって食べ物を選ばないといけないから一苦労だ。彼女ができても手料理を前に考えてしまうのは食べた後の自分の体調である。僕は自然と人に本音を言う事から遠ざかっていた。


一度、病気になりたての頃、知人に自分の病気の事を打ち明けたことがあった。自分としては自分の食事制限を知ってもらいたいのみで打ち明けたのだが、知人の反応は「かわいそう。大変だね。自分だったら死ぬわ。」という感じだった。その後、知人と食事に行ったが、店を選ぶのも一苦労で30分程練り歩いた後、学生にとっては少し高めの蕎麦屋に行く羽目になった。以来、僕は滅多なことがない限り病気を打ち明けることはしなくなった。


「かわいそう」

この言葉。この言葉は健常者と異常者の線引きをする言葉だと思っている。アフリカの子供達が餓死している、かわいそう、だけど、自分達の生活とは関係がないから言葉だけ添えておく。同じことだ。お肉食べられないんだ、揚げ物食べられないんだ、かわいそう。同じことだ。僕は一生線引きされたまま生きていく。


僕は人が嫌いだ。自分と異質なものを無意識に差別するから嫌いだ。そのくせ、自分は君の事を理解しているよ、と変に気を使うから嫌いだ。ない偽善より、やる偽善。よく言ったものだ。所詮、人は社会を形成する生き物なのだから、排除する本能には抗えない。


僕はこの先、ずっと生きていく。

24時間TVみたいに、美談もないし、人に注目されることもなく、永遠に差別されながら生きていく。


肉を食べれない。


僕はそれだけの理由で死ぬことにした。

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