053 疑心暗鬼の対話
たっち・みーから見た
話しぶりも特別な事は無いし、普通にいい女だった。
得られた情報は多少は驚いたが国としてまだ発展途上にあるのは分かった。
長い歴史は無く、建国して日も浅い。
だからこそ魔導国が実験的に干渉しているともいえる。
仮にモモンガをアインズと仮定しても人間であるエンリの何処に興味を持ったのか。それとも国王の方に何かあるのか。
折角敵地に来たのに収穫がないのは面白くない。
「この国の住民は人間だけですか?」
真っ直ぐ案内されたので町並みについてはまだ分からない。
「様々な種族の方が居ますよ。出口附近は人間が多く、奥に行くほど亜人や異形種の方が固まります。日光に弱いとか、木々が近いとか関係があるみたいなんですが……。それぞれ自分に合った場所に落ち着いています」
「確か
「はい。森の奥に行けば彼らの集落に行き当たります。そこでは淡水魚の養殖を
「部族だと聞きましたが……、争いは無いんですか?」
「私が頭ごなしに支配しているわけではありませんよ。彼らとは良いお付き合いをさせていただいております」
国を作ったバレアレというより魔導国が彼らに国を与えたのか。
確かにエンリの人柄の印象では支配者という感じはしない。
亜人などは好戦的な生き物で人間に従うような存在とは思えない。何者かに支配されて彼女に任された、と考える方が自然だ。
「異種族と共存する事はとても難しいはずです。それと彼らの食生活はそれぞれで違う。それはどう解決しているのですか?」
人間が人間を食べないけれど亜人からは人間を食べるようになる。例え草食動物が居たとしても避けられない問題がある。
「代替食料の生産を彼らと共に
至極簡単に答える王妃。
普通ならば答えにくい問題の筈だし、ファンタジーの世界では解答が出にくいものの一つだ。本来ならば。
それをいとも簡単に答えるのは常識の枠組みを超えてはいないか。
「そもそも彼らの側に敵が居て、それを食べるのが基本の文化……。新たな食料を作り上げれば、彼らとてそちらを食します。血を吸う
ビーストマン、という新たな種族にたっち・みーは人間であれば眉根を寄せる気持ちになった。
名前から獣系のモンスターでおそらく人間を食べる種族と、脳裏にデータを走らせる。
「基本的な文化は人間と差ほど変わりません。その辺りを改善すれば仲良くなる可能性は決してゼロではありません」
「そうですね。ですが、さすがに食の文化はすんなりとはいかないでしょう」
生物にとって食べる事は生きる事だ。
それを短期間で覆す事は人間社会でも出来はしない。
明日から肉を食べてはいけない、という法律が施行されたとして、それを守れるのか。
「多種族との交流はゴウン様の夢ですから……」
ゴウン様。それはつまりカルネ国は魔導国の夢の実験場という位置づけなのか。
確かに理想を実現するには実証実験が必要だ。
つまり国として実験できる施設を魔導国は作り上げた事になる。他国に文句を言わせないために。
ただの実験場ならば定期的に監査が入る筈だし、国営ならば迂闊に他国が干渉する事は出来ない。
王国と帝国が共同で作ったと聞いていたが南方のスレイン法国対策なのか、と。
人間以外は敵だという国が素直に協力するとも思えない。
そういう点から試行錯誤して現在のカルネ国があるのかもしれない。
ここに至るまで長い時間をかけたのは想像に
たっち・みー達の敵は一朝一夕の雑魚ではない、ということだ。
「聞いた話しだとマグヌム・オプスなどは非合法の実験施設に聞こえます。人間は仕方ないとして他の種族は黙っていないのでは?」
「……確かに……。その辺りは私も関知したくないのですが……。人間に敵対するモンスターが存在し、会話が成立しない者を捕らえるようにしております。そこはゴウン様も了承……というか頭を痛められておりましたが……。えっと、直接見学した方が早いと思います」
苦笑しながらエンリは言った。つまり、その施設の説明はしたくない、ということだ。
管理しているのではないのか。それとも彼女でも口にするのが
国王やアインズなるものが作った施設だと思っていたのだが、実は違うとか。
もし、違うのであれば誰が作り上げたのか。
聞いている分にはモンスターの生態を研究するところのようだが。
少し話しが混乱してきた。
「モンスター園は夫が管理しているので安全ですよ。標本をいくつか移動させて研究している施設だと思ってください」
「分かりました」
つまり元凶は『マグヌム・オプス』という事になる。
対象が少ないと行動もしやすい。
「ちなみに王妃様は空に浮かぶ施設の事もご存知でしょうか?」
「それは
「海沿いと……、月ですね」
エンリは軽く唸った。これは聞かれると不味い事なのか。
相手の仕草を敏感に察知できるのは歴戦のプレイヤーだからか。それとも勘が鋭いステータスが高いとか。
どちらにせよ、仕事柄必要なスキルは時に失礼を働いている気にさせてしまう。
「ああ、いえ……。この国とは関係がない話しでしたね」
エンリはカルネ国の統治者であって王国の統治者ではない。
知らない事くらいはあると思う。それと言いたくない事も同様に。
それを根掘り葉掘り聞くのは控えた方がいいと判断する。
いくら魔導国が背後に居たとしても。
「話しを地上に戻して……。まず、この建物に居るアンデッドモンスターについて教えてください」
カルネ国の中の範囲ならばエンリはおそらく教えてくれると思った。
そもそも黙々とメモをしている
他にも何か居るのか、こちらはただの興味からだ。
珍しいモンスターは会ってみたい。
◆ ● ◆
始終、大人しくしていたルプスレギナだが何か質問は無いのかと、顔を彼女に向けるとテーブルに突っ伏して眠っていた。
完全に『話しに興味がありませんアピール』にただただ苦笑するたっち・みー。
何の為に着いて来たのか疑問だ。
彼女の手を確認すると指輪が一つもなかった。
外出する時は飲食不要の
とにかく、疲労で眠ってしまったのなら無理に起こさずにおくのもいいかと思わないでもない。
折角来たんだからメモでもしてくれればいいのに、と。
敵地で平然と眠る度胸には驚いたが。
出された料理も綺麗に平らげたようだし、満足したと思っていいのか。
現地の料理の味付けに関して気にはなるけれど。
「……話しを聞かせていただいて申し訳ないけれど、こちらからお話しできるようなものがありません」
本来ならばナザリックの情報を引き換えにすべきだ。それをしないのは卑怯ではある。
言えないというよりは意味が無い、気がした。
たっち・みーよりもエンリは恐らくナザリック地下大墳墓に詳しいのではないかと思ったからだ。
魔導国の後ろ盾を持っていて知らない、という事はありえるのか。
ただの同盟だけならばありえなくはないかとすぐに思い至る。
「旅人なのに?」
と、苦笑気味にエンリは言う。
当たり前のようだが旅人なのに話題が無い、というのは不審人物そのものだ。
少なくとも自分達がどのように冒険し、街や村にたどり着いたのか。その辺りは最低限言える筈だ。
それが無いのは自分から怪しい人と言っているようなものだ。
「……お恥ずかしい事に……」
それと同時にたっち・みーは部屋の天井附近に意識を向ける。
確実に不可視化した何者かが潜伏している。
ルプスレギナの様子から彼女よりも高位のモンスターが待機している可能性がある。
それに気付いたのは使用人が最後に扉から出て行った時だ。
「本来なら貴方達から色々とお話しを聞かないと困るんですけどね」
会話の流れ的にエンリの主張は正しい。
ほぼ一方的にエンリとカルネ国の事ばかり聞いているだけで自分達は何も提示出来ていない。
エンリとしても魔導国から相手の情報を引き出すように言われているかもしれない。だからこそ、強引な手も用意されている。
そういう流れならたっち・みーも頷くところだ。
「まだ序盤の街に行ったばかりですので……」
「……次はお話しを聞かせてくださいね」
「……何とか用意します」
互いに小声でやり取りし、了承する。
会話の流れを続けるには双方それなりの情報を用意しなければならない。それが無い状態では長続きしない。
エンリは控えている
「ところで……、国王様は……何をしていらっしゃるのですか?」
「夫は新薬の研究でバレアレモンスター園に居ると思います」
さすがにその
◆ ● ◆
書き終わった羊皮紙を
そしてそれをたっち・みーに渡す。
「マグヌム・オプスの地下に居る白いローブを身につけた方に渡してください。それで後はその方の指示に従うように願います」
「はっ。ご丁寧にどうも」
「モンスター園は今は忙しいと思うので……。二ヶ月くらいはお相手が出来ないと思いますよ」
「そうなんですか」
「回復ポーション以外にも研究と製作と講義をしますので。国の運営はほぼ私と秘書達で
大部分が農民なので政治活動はあまりしていない。
各国から優秀な宰相や秘書が派遣されているからこそ出来る仕事かもしれない、とエンリは言う。
「国と言っても大都市に当たる街は首都だけですから。外遊とかは滅多にしません」
各村は一年をかけて巡るけれど領土を持たない国だからこそ、全てを周る義務は発生していない。
困っているところがあれば赴く程度。
「他に知りたい事はありますか?」
「あえて言えば魔導国とは何か、と。浮遊建築物についてでしょうか」
「魔導国は直接、行かれた方がいいですよ。様々な種族が平和的に暮らせる国を目指しているところ、というところです。浮かんでいる建物は……、土地の有効利用とかです。すごく高い場所にあるのは……、それはマグヌム・オプスで聞いた方がいいです。私、農業以外はそんなに詳しくないので」
「分かりました」
詳しい話しは現地に行って自分たちで調べるしか無い、というのは理解した。
確かに他人の言葉から把握するのは難しいし、変に誇張されている場合もある。
それよりも完全に眠っているルプスレギナをどうやって連れ帰るかが問題だ。
敵地で寝る戦闘メイド。
普通ならばありえないし、料理を食べて眠るほど満足するような種族、というか戦闘メイドの
これがるし★ふぁーならまだ理解出来るが、犬科である彼女が何の危機感も無く無防備に眠るのは信じられない。
「……アインズ・ウール・ゴウンとはどういう存在ですか? おそらく……、アンデッドモンスターだと思うのですが……」
あえて真理を突くような言葉を言ってみた。
それにより、不可視化している何者かが襲撃してくるかと予想していたが、何も反応が無い。
「……そうですね……。世話焼きで……、世界を愛している方ですかね。もちろん、人間種だけを贔屓しているわけではないので、種族によっては敵対されるかもしれません。それでも異種族の架け橋になれないか、真剣に研究されている方ですよ。……あと、とても愉快な方です」
と、人差し指を唇に当ててエンリは言った。つまり最後の言葉は当人には内緒、という意味合いがある事をたっち・みーは察した。
その仕草一つ取ってもエンリはやはり『いい女』だと思った。
自分の奥さんと比べるような失礼な事は
仮に自分のところに居るモモンガが出会えば恋でも発展するのか、というと王が居るから浮気になるけれど、それを抜きとして考えてみれば良くて『伴侶』クラス。
立場的には『友人』レベルは行くかもしれない。
魔導国にアルベドが居れば修羅場が生まれる可能性が高くなりそうだが。
「王様はいい男ですか?」
と、言った後で失礼な質問だと思い、たっち・みーは苦笑する。
「そうですね……。頼りなくて放っておけない冴えない男です」
と、にこやかに答えるエンリ。
それはつまり『私が居ないと困る』という典型的な付き合いで結ばれた、と。
姿は確認していないけれど大体の冴えなさは予想できる。
研究者という事だから興味の無い事には一切振り向かないタイプ。そのクセ、女性には奥手で告白するのに何年もかかるような幼馴染み。
きっと想像通りの男性だと思った。
「そういえば……、
「一応、そうなっています。身寄りの無い子供を引き取るのはどの家庭でもある事だと思いますので」
「……ああ、なるほど」
養子として引き取ったのか、と納得する騎士。
「……キリイは私が生んだ息子なのは確かですよ……」
と、小声で伝える王妃エンリ。
本当にエンリの子供であれば父親はどんな化け物だ、と興味が出てくるところだ。
養子であればきっと普通の人間、かもしれない。
期待を裏切って見た事も無い化け物であれば、それはそれで面白いかもしれないけれど。
「……ンフィーはれっきとした人間です」
更に補足してくれたエンリに対し、たっち・みーは申し訳なく思い頭を下げた。
「生まれた命を大切にする上で彼らを引き取りました。私は皆で協力して幸せを掴む生き方が好きです。貴族的な暮らしは今も理解は出来ませんが……。周りに居る人達くらいは笑顔にしたいと思って頑張ってきました。そこに種族は関係ありません」
理想論を口にしているけれど、それを口だけではなく実践しているところは共感できる。
カルネ国はまだ発展途上の国だから色々と壁が待ち構えている筈だ。
だからこそ魔導国が利用するには打ってつけともいえる。
互いの利益を考えれば双方にデメリットはきっと少ない。
「……しかし、魔導国側は疑心暗鬼になっていると思います。王妃のお話しはとても興味深いのですが……。私と彼らはどうすれば卓を囲めますか?」
「う~ん。それは私の一存では決められない事です。報告を伝える事は出来ますけれど……」
検討時間が長引いている、という事は少しおかしい。
前回のナーベラルの報告を受けている筈だし、何らかの報告が出ていてもいいはずだ。
「キリイ君は……今もご存命ですよね?」
失礼な質問だとは分かって尋ねるとエンリは苦笑した。
「はい。……魔導国にうちの息子を殺すような理由は無い筈です。生まれた時から面倒を見てくれたのですから……。
「……そうですよね。すみません、バカな事を聞いてしまって」
キリイは生まれた時からナザリックと関係していた。それは素直に驚くべき事だ。
仮に自分達のモモンガならギルドメンバー以外と接点を持つのは物凄く面倒くさい事になるし、世話を焼くのも簡単ではない。
ましてギルドマスターとしての責任を一番感じている男だ。
「キリイは識者の方と勉学に励んでいる筈です。地質や植物学でまだまだ学ぶ事が多いので」
「しかし……、かの国に報告が行き渡っているなら何らかの返答がそろそろあるはずなんですけどね……。一ヶ月以上も検討するような事だとは……」
「……それはナーベラルさんの事ですか?」
「はい」
エンリは口元に指を置き、それから部屋の天井に顔を向ける。
「……お届けする筈だったナーベラルさんは五人とも消滅したんですよ」
と、エンリが言うと側に居た
普通の人間にアンデッドモンスターを制する事が出来るのかと言えばたっち・みー達のような上位者でもない限りは無理そうだ、と答える。それが普通のような気がした。
それが出来るという事はエンリは見た目よりも強い女性と言える、かもしれない。それもステータス的に。
「……それを報告していないという事は……、ゴウン様は何か交渉ごとで失敗すると思い、引き上げてしまったのではないでしょうか」
「……優位に立とうとすれば……、それは順当な判断でしょうね」
タダで遺体は渡さない、という算段でもしていたのか。
自分達も多少の交渉には応じるけれど、少なくとも何らかの報告はしてほしかった。
「消滅に関してこちらに覚えがありますので……。検討は切り上げて交渉に思考を切り替えてほしいですね。……できればアイテムのやりとりは無しで」
「原因を知っているのですか?」
「ええ、まあ……。ただ、魔導国側ごととは思っていませんでした。報告が来ないところを見ると魔導国のナーベラルも不在なんですね? 六人目が居たりは?」
「いいえ。不在だそうです」
エンリには正直に言ったのか。それとも
雰囲気的に彼女に嘘をつく気がしないけれど。
たっち・みーはエンリに頼んで寝ているルプスレギナをソファに移動させた。
使用人に毛布と枕を運んでもらい、好きなだけ寝ていてもらう事にした。
起きていても役に立ちそうにないし。
「双方のナーベラルが居ないと分かったし、それはそれとして何か報告とか欲しいですね」
「明日あたり使者を送っておきましょう」
周りに敵が多いと交渉一つ時間がかかる。
手探りなのは理解出来るけれど、慎重派の人間の気持ちはよく分からないところがある。
それとも国としての責任があり、迂闊な行動はしないものだと思っているのか。
自分達のモモンガを想像するとゴウンという人物も面倒臭い人のようで微笑ましい。
「せっかくカルネ国に来たので、見学させてもらいたいのですが……。奥はやはり危険地帯なんですか?」
「湖より先が未知の領域となっております。トブの大森林は本当に広大ですから。モンスター達が住む地下の洞窟とかたくさんあるらしいです。
「……さすがに一人で無謀に突っ込んで行ったりはしませんよ」
「好奇心旺盛な方は行ってしまうかもしれませんよ?」
微笑むエンリ。
危険地帯があるという事はまだ冒険していない場所があるということ。
一般プレイヤーとしては興味がある。
今のところユグドラシル由来のモンスターばかりが出て来ているけれど、この世界特有のモンスターも居るのか知りたいところだ。
居たとしても倒してしまえば居なくなる。当たり前の事かもしれないけれど。
あと、この世界に『ドロップアイテム』という概念があるのか、それは確認したかった。
もっと色々と聞きたいところだが、そろそろ引き下がらないと魔導国側が取り囲んでくるかもしれないし、明日の楽しみが無くなる。
情報はゆっくりと集める方が冒険を楽しむ上では退屈しないものだ。
「本来ならば私から貴方達は何者なのか、聞くべきなのかもしれません。なにやら込み入った事情がおありのようですし……」
と、ルプスレギナを見ながらエンリは言った。
キリイ青年の母ならばルプスレギナの存在を知っていても不思議は無い、かもしれない。
偽装といっても兜くらい。
声などで看破している可能性は高い。
「魔導国が我々の敵かどうか……。この見極めが続いている、という状況です」
という事をモモンガはきっと言えない。
とことん隠す。
正義の番人であるたっち・みーは基本的に嘘は嫌いだ。
誠心誠意の対応が正しい道だと思っている。もちろん、自分達ナザリックに不利にならない範囲は考えている。
そもそも相手は自分達と同じナザリック。というか『アインズ・ウール・ゴウン』だ。
行く前から全てを知っていると言ってもいいくらいだ。
だからこそわざわざ敵対する必要があるのか。共に協力体制が取れないのかが気になる。
モモンガの性格ならばすんなりとはいかない、というところがとても面倒臭い。
他のギルドならまた違う対応になると思うけれど。
「……でも、分からない事があります」
と、エンリはとても真面目な顔で言う。
「貴方達はどうしてナーベラルさんを必要とするのですか? あの方はそもそも……」
ナーベラルは元々は魔導国の人間。という認識が判断を鈍らせている。
エンリが疑問に思う事を推察する。
キリイ青年もあまり言及していないが、同じ存在が居る、という部分を現地の人間は実は理解していないのではないか、と。
何となく偽者が居る。それに今頃になってエンリはおかしいと気付き始めた。
まさか、そんな状態ではないのかとたっち・みーは疑問に思う。
またルプスレギナの悪ふざけ、という意識を持たれていれば
鈍感なモモンガであればスルーする部分だ。
相手の機微に気付かないようでは
「こちらも分からない事が多いのです。今のところはぶつからないように互いに情報戦をしているところです。すんなりと交流するには時間はかかると思いますが……。魔導国側はそろそろ気付く頃合かと思います」
「……そうですか……。……ゴウン様のお仲間……という線は薄いのですね」
小声で呟くエンリの言葉はたっち・みーの耳にしっかり届いている。
「……確証がない今の時点で接触を図るのは早計……。統治者ならば適切な対応だと思いますよ」
本来ならすぐにでも交渉したいところだ。だが、相手は魔導国の統治者。
いくらたっち・みーでも『すぐこい』とは言えない。
ただし、何らかの報告は欲しい。それがシモベであっても構わない。
それが無いからエンリに直接聞いている。
仮に仲間だと言って、ぜひ会いたい。という雰囲気になるのか、というとモモンガの性格では予備アイテムが来たぞ、一気に囲んで奪おう、くらいの事が起きても不思議ではない。
なにせ、こちらはまだ相手の戦力が分からないのだから。
すんなり事が運ぶようなギルドマスターなら苦労はしない。
もし、監視しているのならば姿を見せに来るはずだ。それが無いのは敵か味方かを分析しているのか。他の仕事で不在か、だ。
雰囲気的には後者のような気がするけれど。事前にアポイントメントを取っていないので。
相手のナーベラルを人質に取っている。どんな奴らなんだと疑っている事もありえる。
「我々だけだと時間がかかりそうです。ここは王妃にもご協力願いたい」
「……まだよく分かりませんが……。私に出来る事ならば……」
「我々も黙って殺されたくないので。魔導国とすんなり交流はできないかもしれません。ですが……、敵対もしたいとは思っておりません」
ただし、敵対する理由として『
それとおそらくギルド武器も、だ。
独占欲のあるアインズ・ウール・ゴウンならば入手の案は避けられない。
それを防ぐには相手のNPCやエンリを確保しておく必要がある。
平和な国を作ろうとしているのならば平和的に相対したい。
「こちらの情報については現段階ではキリイ君頼みとなっています」
「……そうですね。双方向のやりとりは必要でしょう」
とはいえ、魔導国が警戒するようにナザリックも警戒する。
中立的立場の存在が互いに必要だと判断する。
たっち・みーの希望としてはキリイだが、他に誰か居ればそちらでも構わない。
最初の階段で全てが納まる事は
こういう交渉ごとは何度も
今は互いの信用を積み重ねるのが大事だから。
「この度は有意義なお話しを聞かせていただき感謝します。そう何度も押しかけては迷惑かと思いますが……」
「いいえ。こちらこそ。私は毎日この国に居るわけではないので……、キリイに出来るだけ都合がつくように言っておきますわ」
そう言った後で
「キリイは担当地区が決まっていますので、村の者に
「それはこちらでも検討しますので。一人で来い、とか失礼な事は言わせません」
モモンガは難色を示すかもしれない。だが、時間ばかりかけては何も進展しない。
言うべき事は他に無い筈だが、無事に国から出られるのかは未知数だ。
エンリ王妃が優しい人だとしても魔導国側がどう出るのか、それはそれで興味があるけれど。
自分達のモモンガならレベル80台のシモベを五体以上は配置しそうだ。
部屋に居るシモベもおそらく高レベルの傭兵モンスター。
もし、仮に『たっち・みー』を知る者ならばすぐさま平伏しそうだが、それが無いのは魔導国側が情報を伝えていない者か、新規の傭兵や召喚物かもしれない。
もちろん、以前からナザリックに配置されていたシモベやNPCならまず声で気付きそうなものだが。
明らかに大して偽装していないルプスレギナが寝転がっているので。
それを無視しているのは魔導国側が監視していない時間帯に訪れてしまったから、とも言える。
毎日、誰かの監視をしているようなストーカーみたいなモモンガは嫌だな、と。
セバスも来ないようだし。何処かには居ると思われる。
簡単に死ぬようなNPCではない筈だ。
「では、私は失礼させていただきます」
「街を見学するのは構いませんが……。奥に進むのはお勧めいたしません」
「お心遣い感謝します」
寝ているルプスレギナことター●●を起こし、肩にでも担ごうかと思ったが自分で歩けるようなので、食事の礼だけさせて先に部屋から出した。
「またいずれお会いできる事を望みます」
「こちらこそです、旅人さん」
笑顔で見送られ、たっち・みーは最後に一礼して部屋を出る。
廊下に並んでいる
背後に不可視化したモンスターが一定距離を保ったまま待機している事は分かったが、こちらも襲っては来なかった。
外に出ると不可視化したモンスターは外には出ずに奥に消えて行った。
深追いする命令を受けていないから、ともいえる。
警備は甘くない事は分かったが、接触を図らないのはやはり自分の考えすぎかもしれない。
そうそう都合よく事態が進展するわけはない、という事だと思っておく事にした。
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