010 村の名は
急に新しい服は用意できないからメイド服を覆うローブなどを着せる事にした。
集落の服装からいってローブ服程度は問題なさそうだ。
問題はモモンガの
「……よし、頑張ろう」
サラリーマン時代を思い出せば飛び込み営業と一緒だ、と自分に言い聞かせる。
物売りではなく、道を尋ねに来た旅人。またはモンスターを追っていたらたどり着いただけ、というシチュエーションを浮かべる。
武器は大きなものでは怪しまれると思うからブロードソード程度に留めた。
いきなり派手な登場をするのはとても恥ずかしいので。
『いってらっしゃい』
『監視はこちらでも
『ルプー。ちゃんとモモンガさんの言う事を聞くんだよ』
『ルプー。アイテムはちゃんと持ったかい?』
後半はルプスレギナ宛だが、当人に聞こえているのかは不明だ。
音漏れしているのであれば聞こえている筈だ。
万能の魔法とて弱点がある。
一応『
「……連絡は俺にではなく、ルプスレギナにやってください」
と、一人ずつ伝える。
『……おほん。第一村人との交渉は任せました。モモンガさんが転移後は円卓の間にて情報集めを開始します』
「よろしくお願いします」
ルプスレギナもそれぞれに挨拶を交わし終える。
これではまるで『初めてのおつかい』みたいじゃないか、と思って顔が赤くなるような気持ちになった。
社会人のおっさんだぞ、と言い返したかったが飲み込んだ。
未知の世界は何事も手探りだ。だから、仕方がない。
気を取り直してシャルティアに命じる。
「
「畏まりんした」
白い肌の少女シャルティアは魔法を発動する。
第十位階『
設定では無限とも言われている。
解放維持にはMPを時間単位で消費するので長時間は開き続けられない。
その
ローブをまとったルプスレギナが後からやってきて
転移魔法の利点は『
一般の転移と違い、本来は大人数で移動する魔法だ。二人だけの場合に使うには少し勿体ない魔法かもしれない。
「……いかにも村って感じだ……」
とても静かな光景だった。
ナザリック周辺は草原だったが村の近くは
様々な植物ではなく、統一感のあるものに見える。何らかの作物かもしれない。
モモンガの記憶ではこれほど美しい光景は現実世界では見た事が無い。せいぜいオンラインゲームの中で何度かあったくらいだ。
一時間くらい眺めていたくなるが仕事を忘れてはいけない事を思い出す。
「……うむ。ルプスレギナ」
「はい」
「対応は私が
「畏まりました」
「……いきなり攻撃とかするなよ? よし、では行くか」
性格設定がまだ少し気になるけれど、意を決して敵陣に突き進まなければ話しが進まない。
モモンガは自分に気合を入れて足を前に踏み出す。
騒乱などのイベントが無く、ただ普通に集落に向かうのに神経を尖らせるのは臆病者のようで気恥ずかしい。
少し神経質なところがあるのは自覚しているけれど。
黄金の
序盤の村に屈強な戦士が待ち構えているのもおかしなものだが、敵対プレイヤーの気配は感じない。
居たところで戦う理由があるのか、疑問だ。
ユグドラシル時代の恨みを持ったプレイヤーならありえないこともないけれど。
「……悪い事ばかり浮かぶな……」
というより早く村に行け、と誰かに背中を蹴られる。
はい、すみません。すぐ行きます、と何者かに胸の内で言うモモンガ。
村の周りは低い木の柵がある程度で外側から丸見えの状態だった。
平和な村なんだろう。
遠くからでも村民と思われる人間の動きが確認出来るが、特に気がかりな動きは見えなかった。
門番が居ないので勝手に入っていい、のかもしれない。その時はその時理論で動けばいいと思うことにする。
ユグドラシルのルールが適用されているなら種族ペナルティに何か反応があるかもしれない。
そう思いながら一歩中に入る。特に警告音も無く、村人が怒りの形相で襲い掛かることも無く、順調に進む事ができた。
制御された
「まずは一つ目クリアだな」
建物はまばらで入り組んだ道というものは無い。中心部に井戸らしきものがあるくらいだ。
まずは第一村人と接触する。
見た目の感じでは物騒な装備品は見当たらない。
自分達の方が怪しい気がする。黒い
周りの反応では怖がられていないか、変な人だと思って近づかないようにしているのか。
色々と考えられるのだが、まずは村人との接触だ。
「こんにちは」
手を挙げて挨拶してみた。
今の言葉で村人が一斉に家の中に入ったら帰ろうと思った。
ゲーム時代なら何も気にせず進めるのだが、今は何故だが緊張する。
「我々は旅の者だが……、ここはなんという村というか……、集落なんだろうか?」
村民の人数は確認出来るだけで二十人ほど。広さから考えて数百人前後は居るかもしれない。
その中の一人、青年と思われる第一村人が近づいてきた。
畑仕事の帰りのような汚れた服を着用している。それは別に咎めるべき事ではない。
確認出来た人間達の顔つきは西欧風。黒髪と金髪、中間の栗色の髪の毛。肌は日に焼けてはいたが白人系が多かった。逆に黒人系は見当たらない。
瞳の色を遠くから確認するのは難しいが日本人のような東洋系も見当たらなかった。
「旅のお方ですか?」
金髪碧眼の西洋人風の青年が聞き返してきた。
「ええ。すみません、こんな物騒な格好で」
「
と、青年は答えた。日本語で。
言葉が通じる事に安堵するモモンガ。他の言語だったら対策を練り直す為に引き返すところだった。
「冒険者……が居るんですか? こんな格好ですが、この辺りの事に詳しくないもので……」
「そうですか。……それで村に来たのは……、宿泊でしょうか?」
「それには及びませんが……。この村は何とお呼びすればいいでしょうか?」
「●●●村と言います」
「……はっ?」
今、物凄い単語が飛び出してきた気がしたので、条件反射で聞き返した。
「●●●村です」
聞き違いではないようだ。
ふざけてんのか、と言いそうになった。
現地の言葉だと思えば納得出来るかもしれない。そうであっても酷い名前だなと思った。
「……昔からそんな名前なんですか?」
「はい。俺が生まれた時から●●●村でした。何か気になることでも?」
真顔で喋っているが、お前、それ意味分かって言ってんのか、と胸の内で叫ぶモモンガ。
お供のルプスレギナは口元に手を当ててクスクスと笑っていた。
「……●●●……村ですか……」
まだ『ペ●●●村』という名前の方が可愛い。
「遠くから旅を続けてきたのでこの辺りの地理に
「では、村長に聞くといいでしょう。向こうの大きな家に住んでいます」
案内役を青年は探したが自分が適任だと気付いたのか、そのままモモンガ達を連れて行く事にした。
青年の後姿を眺めている間に仲間に連絡を入れておく。案の定、笑われた。
青年の悪ふざけなのか、本当に●●●村という名前なのか。
悩んでいる内に村長の家にたどり着いた。
どの家も一階建。石と木材で出来た簡素なもので、しっかりした建築物という印象は無く、手作り感がいっぱいだった。
木製の扉を開けて中に入れば複数の部屋に通じる入り口が見えた。
古きよき中世ファンタジーというイメージそのものだった。
味わいのある光景に満足するモモンガ。
青年は家の主で村長と思われる男性にいくつか話し始めた。
会話の内容は実は良く聞こえている。数メートル程度だから、というより周りの気配を察知するスキルのせいかもしれない。
対抗策を施していないようなのでプレイヤーというわけではないようだ。
内容はモモンガという旅人がどういった目的で訪れたのか、という簡単なものだった。
あいつはあやしい、とか暗い言葉は出てこなかった。
「ようこそ旅の方。●●●村へ」
と、明るい笑顔で口走る村長。
白髪の目立つ老齢の男性で体格はがっしりとした労働者という印象を受ける。
奥の部屋には妻と思われる女性が
「では、俺は仕事がありますので」
青年は頭を下げて退出した。最後まで丁寧な対応にモモンガとしては満足していた。
「我々は旅人ですが……、こんなに格好で失礼させていただきます」
「いえ、いいんですよ。身を守る事は当たり前ですから」
「それで……、●●●村というのは……。どうしてそんな名前なんですか?」
「●●●という人が開拓したから、と聞いております」
人名で●●●というのは可哀相だ。
珍名はモモンガの世界にも昔から存在していたが酷い名前を付けたものだ。
「色々と聞きたいところですが……、もっと情報を得られる町などはありますか?」
「この辺りは広大な麦畑が広がっていますからね。どこも数日がかりの距離にあります。大きな都市なら……。今、地図を持ってきます」
村長が席を離れるのと同時に奥方がモモンガ達に白湯の入った陶器の器を置いていく。
「長旅でお疲れでしょう。どうぞ。この村にはあまりお客様にお出しできる大層なものはありませんが……」
「お気使い無く」
身体がアンデッドなので飲み物を飲んでも顎下から漏れ出る。それは幻術で作った顔だとしても飲食は出来ない。
代わりにルプスレギナにそれとなく渡しておく。
文明レベルは低い。それは見た感じで理解した。
高度な機械は無く、手作業の仕事が多い。
現代社会で暮らしていたモモンガから見ればブラック企業のような感じだが、原始的な作業に文句は言えない。最初は便利な道具などありはしないのだから。
数分後に村長は大きな巻物を持ってきた。それをテーブルの上に広げる。
古き宝地図のような年代物に見えた。
鑑定すれば『羊皮紙』と出るかもしれない。
「……味わい深い地図ですね」
「古い地図なので今は色々と変わっているかもしれません。ここが●●●村です」
と、印をつけた位置に村長は指を置く。
現在地は地図上では中心に近い。だが、この地図は世界の全てを表しているわけではない。
近隣地域程度だ。
村から右斜め上に一番近い都市がある。
「ここが『城砦都市●●・ランテル』です」
一瞬、変な単語に聞こえたが無視する事にした。
特に問題は無さそうな気もするのだが、
「我々の住む地域は『オ・●ー●●王国』の中にあります」
今、なんて言ったこのジジィ、とモモンガは兜の中から相手を睨むような感じで思った。
「右隣は王国と戦争をしている『●●●ロ帝国』があります」
「●●●ロ……帝国?」
「はい。南方には『●ー●●ー法国』があります。ここより外の国は我々にはうかがい知れません」
真面目な顔で説明しているけれど酷い国に囲まれたものだと呆れてしまう。
本当に●●●ロ帝国とかいう名前なのか。
「近くにある森は『●●●の大森林』と呼ばれていて薬草などを取りに向かう事があります」
本当に薬草か、と聞き返しそうになったが言葉は飲み込んだ。
おそらく現地の言葉なので変だと思われていない。
自分達の住む世界でも色々と珍名は存在する。たまたまこの世界でも変な名前が普通に使われているのかもしれない。そうだとしても酷い名前だなと呆れ果てる。
何の疑問も持たなかったか。
自分達の言葉では変だと思っているだけ、という事もありえる。
現地の人達にとっては神聖な名前かもしれない。それを否定する権利は無い。
「で、では。この辺りでは冒険者というのはありふれた職業なのでしょうか?」
「はい。この●●・ランテルには冒険者組合がありまして、モンスター退治から荷物運びまで仕事を請け負っていると聞いた事があります」
モンスター、という言葉が普通に使われていることに驚く。
それはつまりモンスターが存在するということだ。
「……魔法はどうでしょうか?」
「こんな村では満足な情報はありませんが……、
村長の言葉ではあるが、魔法を使う事に疑問を抱かれない事になる。
それ以上は都市に行かなければならないかもしれない。
そもそも農村で一通りの情報を全部得ることなど不可能だ。
「我々は持ち合わせが無いのですが……。武器の売買とかできるものでしょうか? 剣とか鎧とか」
「都市に行けば出来るかもしれません」
冒険者が居るくらいだから武具の売買が出来ないと困るかもしれない。
この
「……申し訳ないが……、我々はこの国のお金を持っておりません。参考までに見せていただけたらと思います」
「はぁ……。銅貨しかございませんが、それで良ければ……」
村長は席を立って移動し、すぐに戻ってきた。
テーブルというか地図の上に置かれた硬貨は見慣れないものだった。
平たい円形というわけではなく、立体感のある波打った形をしていた。
「この国の銅貨です。この他に銀貨と金貨がございます」
「ありがとうございます」
自分達が持っているのは『ユグドラシル』の金貨だ。目の前にある銅貨の様子から全く違うものだということが分かった。
元々ゲーム内の通貨なので通用するとは思っていない。
武具に関してはゴミみたいなもので充分だろう。売る前にまず都市に行かなければならないけれど。
「もし、●●・ランテルに行かれるのでしたら村の者に案内させますよ」
「それはありがたい。……ところで一つ気になったのですが……。モンスターが出てくるんですか?」
「はい。●●●の大森林からたまに……」
モンスター名も変なのだったら嫌だなと思った。
現地の言葉は色々と怪しいかもしれない。ルプスレギナがずっと笑いをこらえているのが気になってきた。
「ちなみに……。どのようなモンスターなのでしょうか?」
「強敵というほどではありませんが……。よく現れるのは
知った名称でモモンガは安心した。
肉体があれば大きく息を吐き出しているところだ。
モンスター名が普通で地名が壊滅状態とは何なんだ。
「ごくたまに
「んっ!?
レベル帯で言えば43もある中位モンスターだ。
レベル52の
「昔、出て来たらしいです。今はずっと北の方に行ってしまったとか」
序盤の村でも危険なモンスターが出てくる可能性があるようだとモモンガは警戒感を強める。
ギルドにとっては取るに足りないかもしれないが、集落を危険にさらすモンスターは何となく撃退したい気持ちになってくる。
自分たちで村を制圧しよう、という意見があれば逆の立場になってしまうかもしれないけれど。
モンスターの存在が確定しているのならば実際に確認したくなるのはゲーマー魂というやつなのか。
モンスター退治は二の次で今は情報収集が大事だという事を思い出し、得られる事柄はルプスレギナに書き留めるように命令しておく。
村や都市の文化は最低限知っておいた方がいいだろう。
ルプスレギナは特に問題は無さそうだ。
検問などがあった場合、
現地の人間の強さは分からないが、いずれ確認する必要がある。
ユグドラシルでは最強を誇った『アインズ・ウール・ゴウン』もここでは単なる雑魚キャラという可能性もある。
村長のレベルが125とかもあり得ない話しではない。
◆ ● ◆
時間的に近隣の都市に向かうのは本来は危険なのだが、モンスター退治が出来るのであれば馬車を出してもらえる事になった。
距離は日数で数えられているようで、片道一日がかりとなっている。
転移の関係で現場に着けば往復は楽になる。
「今の季節だと
「腕には自身があります」
それはもちろん事実だ。
戦士というよりは魔法に自信があるといってもいい。
モンスターは一律的な強さを持っているわけではない。
ゲーム時代そのままならそれほど気にはならないが、こちらの世界でも同一とは限らない。
未知の強者が居る可能性は否定できないから。後、モンスターの名前が●●●とか●●●とかじゃなくて良かった。
人名に使われるところから他にも商品名などに使われている可能性が高い気がする。
日本人だから笑ったり、変な名前と思ってしまうのかもしれない。
現地の人からすれば神の名前かもしれないし、由緒正しい名前をバカにしているモモンガの方が頭がおかしいと言われるかもしれない。
そうであっても酷い名前だ、と思ってしまう。
逆に自分のモモンガという名前はこちらの世界では排泄物や●●●の名称だったら、顔を
村長に一礼して外に出て、教えられた家に向かう。
最初に訪れる村で一通りの説明を受けるのは『チュートリアル』のようでおかしかった。だが、基本は大事だ。
これから冒険の始まりだ、という気分にしてくれる。
「それはそれでいいのだが、酷い世界に来たものだ」
誰に聞いても●●●村と連呼される。
当人達はそれでいいのかもしれないけれど。いや、気にしたところで自分達は異邦人だ。こちらのルールを押し付けてはいけない。
色々と悩んでいるうちに馬車のある家にたどり着いた。
●●●●家。
聞いた瞬間に村長を殴り飛ばすかと思った。
そんな感じの家、というか家名だった。
世の中には色んな不思議な事があるものだと思った。
こんな世界なんか滅びてしまえ、と思わないでもない。
口に出して言いたくない。万年童貞と言われてもいい。
苗字にしては酷すぎる。
「……俺が行くしかないよな」
ルプスレギナはずっと笑いをこらえているし、女性なので口に出してもらいたくない気持ちがある。
喜んでいるので連呼しそうだが。
開き直るにはまだ勇気が足りないのだが、名前以外は至って普通の人間。それがこの世界の原住民に対する印象だ。
確かに異世界の集落がまともな名前であるのは創作者やゲーム制作会社の裁量だから気にしないで済んだ。それらの干渉を受けない世界では常識を疑うようなこともありえないわけではない。
伝説の剣の名称が●●●だってありえる。
モモンガの本名である『
『ルプスレギナ』はこの世界では●●の名称なんですよ、と言われる可能性だってある。
日本人としての常識では卑猥かもしれないけれど、この世界ではありふれた単語ならば直せ、とは言えない。
下手に単語の意味を知っているとこの先、苦労するかもしれない。確実にルプスレギナは知識として持っているのは理解した。
この歳になって人前で●●●●を口走る事になるとは夢にも思わない。普通なら警察に事情聴取されてもおかしくない。というか、たっち・みーは許さないタイプのはずだ。
家に入る前に仲間に連絡してみると色々な反応があった。
自分で名付けたわけではないが、たっち・みーは唸りっぱなしになった。
『行ってみたいですね、●●●ロ帝国』
『……そうきましたか……』
『凄い名前の国々ですね』
『……村の名前は大真面目なの?』
笑い声が聞こえてくる。女性陣は苦笑なのか。罵声を浴びせられる事は無かった。
説明するのも恥ずかしいが村の名称なのでぼかせない。
「……帰りたいです」
『気持ちは分かります』
『モモンガさん、頑張って』
慰めと応援が多かったのは嬉しかった。
みんなの許可を得たならいつでも村を焼き払うつもりではいた。最終的には国ごとになる可能性もあるけれど。
「村人の格好は普通なんですよね」
『全裸がデフォルトだったら困りますよね』
『性質の悪いキラキラネームみたい』
『●●●●が苗字か……。そういうの好きかも知れない』
メンバーが全員社会人で良かったと今は思う。
女性陣の中に未成年が居ればモモンガとしては聞かせないように努力したかもしれない。
連続で『
ルプスレギナはだいぶ落ち着いてきたが、そろそろ声に出して笑い転げそうな予感がする。
冷静なナーベラルの方が良かったか。それとアウラとマーレを連れて来なくて良かったと今は思った。
見た目は十二歳くらいの子供だが設定では七十代だ。
とある条件を満たせば上位種となり、不老不死の存在になるらしい。
仲間との連絡を切り、問題の家に入る。
扉があったが鍵がかかっていなかった。一応、ノックして声はかけた。
小さな農村は住民全てが家族ぐるみの付き合いがあり、戸締りはあまりしないものだ。
それだけ外部の人間を入れていないとも言える。
モモンガの声で奥から現れたのは苗字は酷いが至って普通の村人その一のおじさん。
「村長から馬車を借りるように言われたモモンガと申します」
「ようこそ、●●●村へ」
決まり文句のような挨拶だが、村人はにこやかに対応してくれた。
黒い
「馬車移動と申しますと……、どちらまで向かう予定ですか?」
「ここから一番近い……、●●・ランテルという都市まで」
●●・ランテル以外の都市は数日がかりとなる。
村人は滅多に遠出をしない。それだけ近隣都市には物が豊富に取り揃えられているからとも言える。
●●●ロ帝国との戦争を控えているせいか、王国から物資と戦力が集められていた。その兵士達の物資と食料を供給する利益で村は潤っているらしい。
両国の戦争は随分前から
「お急ぎでなければ夕方からとなりますが……」
「ご無理を言って申し訳ありません。我々はのんびりと旅が出来ればいいので。それと……、色々と教えていただきたい。その……、●●・ランテルの様子とか」
「分かりました」
家の入り口での立ち話しを切り上げ、居間に通される。
土間とも言うが、貧乏人の家。それがモモンガの印象だ。
文明レベルが低いのだから仕方が無いが、
日本人ならばしっかりとした床板などが張られているけれど、ここはそういう文化が根付いていないようだ。
さすがに地面に直に眠りはしないと思うけれど、寝室と風呂場が用意されているので不衛生ではないようだ。
水源は●●●の大森林。
一日の日課は水汲みからと言われている。
無秩序に水は使えないので色々と節約しているのだとか。
水質汚染の酷い自分達の世界とは違うが水のありがたみを知る村人に感動を覚える。
ナザリック地下大墳墓には豊富な水が存在する。今はその水の
村民の多少の汚れにケチはつけない。ルプスレギナにも言い含めておいた。
小一時間、都市について話しを聞き、必要事項をメモさせていく。
名前以外は至って普通。取り立てて異常な風習も無いようだ。
村の外にある
他にも野菜などを育て、家畜の飼育も
定期的に大森林に向かい、薬草採取で生計を立てている。
「そういう村が他にもあるんですね」
「はい」
広大な土地を持つ王国を小さな村が支えている。
労働は過酷かもしれないがモモンガ達に比べれば幸せな方かもしれない。
西洋ファンタジーお決まりの貴族が存在し、土地を借りているのだが、税金徴収は年に一度だけ。
この村は充分な利益を上げているので未払いになったことはないという。
土地を持っている貴族が優しい人という所は意外だと思った。大抵は嫌な上司のような貴族が圧政を敷いたりするものだから。だが、それはゲーム的展開ではあるけれど。
「モンスターが出没し易い地域に住んでいると税金が少し安くなるんですよ」
大抵は村にモンスターが来る前に冒険者に討伐されるので滅多に危険はないらしい。
農作業で鍛えた身体が役に立っている証拠だ。
意外と
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