002 自我を得たNPC
円卓の間にはギルド武器『スタッフ・オヴ・アインズ・ウール・ゴウン』という杖が飾られていた。
ギルドメンバー総出で製作に当たった出来事は今では良い想い出となっている。
七匹のヘビが絡み合った意匠で全体的に金色。
各ギルドにつき一つしかないギルド武器と呼ばれるアイテムだ。最後の記念だからとその杖を握る。するとモモンガの身体から禍々しい黒いオーラが発生した。
オーラエフェクトは色々と有り、その殆どは演出に過ぎない。
中には攻撃に使えるものがある。
「では、行こうか」
「第十階層に移動しま~す」
と、それぞれ移動を開始する。
各階層は転移するアイテム『
墳墓内限定の能力で普段は敵に奪われないように管理されているアイテムだ。
全百個ある内、メンバーの分を除いてまだ未使用が残っている。
いちいち徒歩で移動するのは面倒なのでこの指輪は意外と重宝される代物だ。それだけ墳墓内が広大だとも言える。
それぞれ最下層の第十階層に移動する頃、無表情の
彼らは拠点ポイントを消費して生み出すものと自動的に湧き出る墳墓特有のモンスターとに分かれる。
各階層には『階層守護者』と呼ばれる高レベルNPCとそれぞれの階層に存在する特別な領域を守る『領域守護者』が居る。
それらの守護者を統括する者もNPCであった。
NPC達は無表情が多く、特定の命令にしか反応を示さない。それは公式が複雑な表情のデータを与えていないからだ。代わりに表情アイコンを駆使してコミュニケーションを取る。時々、メンバーの顔の近くに様々なアイコンが浮かんでは消えていく。
一部のNPCは改造が出来る。
それも人気作
別売りの『クリエイトツール』を使って外装を自作し、NPCに与えるのも楽しみの一つだった。
更に拠点を守る者達にレベルを振り分け、独自の強さを与える事も出来る。
中にはプレイヤーを凌駕する者も居る。
そんなNPC達をやり過ごし、たどり着いた先がナザリック地下大墳墓の最下層にして執着、いや、終着地点。
数多の敵対プレイヤーでもたどり着けなかった場所だ。
悪のロールプレイを
一時期は傭兵を含めた1500人からなるプレイヤーの大連合に攻められたことがあり、その時の大戦争は今でもユグドラシルの伝説となっている。
もちろん、大規模部隊は四十一人のメンバーと第八階層の戦力で撃退した。
彼らが狙うのはユグドラシル最多の保有数を誇る『
既に制圧された拠点を再制圧しても恩恵は少ない。
アインズ・ウール・ゴウンが持つ
取得条件が不明。それはユグドラシルというゲーム自体、情報を秘匿していたからにほかならない。
どんなこともゲームプレイヤーがコツコツと情報を集めて解明していくようにしているからだ。
なのでゲーム終了時に関わらず、まだ多くの謎が残されたままだったりする。
玉座のすぐ近くには純白のドレスを着飾る美女が居た。
腰まで伸びた黒髪に宝石のような黄金の瞳は縦割れした虹彩。
大きく張り出した胸を飾るのは金色の蜘蛛の巣のようなアクセサリー。
側頭部から捻じ曲がった山羊や牛を思わせる角が前方に向かって突き出ており、腰の辺りからは黒くて大きな翼が生えていた。ただ、悪魔的な尻尾は無かった。
『
普段は玉座の横で待機するNPCなので彼女はずっとここに居る。
「タブラさん。アルベドに『
アルベドは丸くて黒い球体が少し浮かんだ杖のようなアイテムを携えていた。
「最後だから記念にと思っただけだよ」
『
『
本来はメンバーの半数以上の賛成がなければ駄目なのだが。
サービス終了時期にさしかかっているのでモモンガは不満ながらも黙認する事にした。
それからモモンガは玉座に座る。そして、それぞれのメンバーは自分の紋章が描かれている旗の下に待機した。
旗は天井近くにあり、各メンバーを現す紋章がデザインされていて、四十一本分あった。
半数とはいえ、多くの仲間と最後を迎えられるのは寂しくもあり、嬉しくもあった。
「今日まで色々とありましたね」
「たっちさんとウルベルトさんの仲の悪さとか」
「るし★ふぁーさんの悪ふざけとか」
「モンスターを狩りつくしたり」
「敵対ギルドに
「スパイギルドを攻め滅ぼしたりもしましたね」
一番はやはりナザリック地下大墳墓を攻略した事だろうか。
モモンガが座っている玉座。これも
墳墓攻略特典に含まれていた。
残り時間はとっくに過ぎている気がしたのでコンソールを呼び出す。
ゲーム終了時まで後六秒。だったら恐ろしい。
「二十三時五十六分……。ちょっとびっくりした」
「あと四分か」
「時間になったら強制ログアウトするのが一般的なんですよね?」
不穏な言葉をやまいこは言った。
「そのはずです」
「……ああ、昔
「そうそう。あれ私も好きだったな。チート過ぎるけど」
そんなことを話している間に一分が過ぎた。
それぞれ豊富な知識を持っているメンバーばかりなのでモモンガとしては羨ましい限りだ。
モモンガはユグドラシルのゲームにおける戦略の立て方や魔法の使い方には自信がある。
そればかりに知識を費やしたといっても良い。それ以外は得意ではない。
「皆さん、そろそろ最後です」
最後の時を外で花火大会して終わる案があったが、それは却下した。
思い出深いナザリック地下大墳墓で最後を迎えるのがアインズ・ウール・ゴウンらしい、という意見でまとまったからだ。
中には手に入れた
「最後の瞬間に叫ぶ言葉は覚えていますね?」
「もちろんです」
「あれですね」
「あれしかないですよ。アカウント削除はもはや上等」
不穏な空気が流れる。
それはモモンガも何を叫ぶのか知っているからだ。
ゲーム内だと運営に消されるレベルなのでメールでのやり取りで交わされた計画だ。
最後くらいバカな事を叫ぼうというメンバーの意見が多かった。
はっきり言えば卑猥な言葉だ。
社会人メンバーだからこそ平然と言える、のかもしれない。いい歳したおっさん、おばさん連中としては子供には聞かせられない。
「あと一分です」
「了解」
嬉しそうなメンバー。ほぼ全員が笑顔アイコンだった。
最後にアルベドが殴りかかってこないか、一応はタブラに尋ねた。
殴ってきたら仕返しするけれど。
「あれ? そういえばヘロヘロさんがログアウトしていない」
それは
ヘロヘロは円卓の間で何十、何百回も
そして、ペロロンチーノは幻視する。
一人なったモモンガが机を数百回も叩いて憤慨する姿を。
ふざけるな。
とてもはっきりしたイメージとリフレインされる怒号。
その後の『みんなで作ったナザリックじゃないか』という魂の叫び。だが、それはペロロンチーノだけではない。
他のメンバーも同時に見て、感じていた。
玉座に座るモモンガの孤独な姿を。
「……平行世界ネタかな?」
「……モモンガさんってネット中毒者だったっけ?」
「どうかしたんですか、皆さん?」
本人には見えていないし、聞こえていないようだと、それぞれ思った。
ヘロヘロがログアウトするのは仕方が無い。
過酷な労働で睡眠不足なのだから。それは自分たちも同じ事だ。
不穏な空気のまま残り時間は減っていく。
最後なので明るく叫ぼうと相談したわけでもないのに互いに気持ちが通じ合ったようだった。
「デスゲーム上等」
「デスルー●?」
「●に戻りもありかもね」
「不死性のキャラで、それはありえないっしょ」
と言いながら十秒を切った。
それぞれ何かを感じたようで、話し始めているのだがモモンガは時間の確認に集中していた。
明日は四時に起きて仕事の準備をしなければならない。と思ったところで残り三秒に差し掛かる。
「せーの。●●●●ペロペロ~!」
「……え、あ……ペ、ペロペロ~」
と、定番の叫び声がそこかしこで上がる。モモンガは時間に集中しすぎてタイミングを逃してしまった。内容がとても卑猥なので一緒に叫ぶのも本当は恥ずかしいのだが、後半だけ一緒だし、まあいいか、と思う事にした。というよりはいい大人が何を叫んでいるんだか。
今の言葉で大半のメンバーが即効抹消されるほど運営の対応は早くは無いと思うけれど、後が怖い。とはいえ、今さらアカウント停止は無意味に近いけれど。
翌日になり、周りの雰囲気は特に変わらない。
時間経過も正常のようだ。
「……最後くらいタイミングを合わせてください。もう一回やり直しますか?」
「そう……って、あれ? ログアウトされない!?」
「……いや、何となく分かってたんで、驚いていないだけですよ」
ため息が漏れ聞こえる。
何となくそうなんじゃないかと思ったメンバーが多かった。
「デスゲーム開始ですね」
「仲間で殺し合いはさすがにキツイっすよ」
「ほら~、定番のステータスウインドウが出ないってやつ。サービスが終わったから出せなくなったんじゃない?」
ワイワイガヤガヤとそれぞれ話し始めるメンバーたち。
確かにいつもなら簡単に出せたウインドウが出せなかった。
空中で手を振る間抜けな構図がそこかしこで見られる。
ログアウト出来ない。定番が現実になったということだ。
「表情アイコンも出せねー」
その後でボンと音がした。誰かが魔法を使ったらしい。
「ゲーム時代の感覚で、ある程度の能力は使えるようだ。アイテムボックスは正常に使える」
「お~、出来た」
「感覚に頼るしかないか」
装備の切り替えも出来るらしい。
ただ、モモンガは玉座に座ったまま驚いていた。
メンバーの状況を飲み込む速さに。
異常事態のはずなのにみんな落ち着いていた。
まるで、
暗示は提示されていた。だから多少は平気なのかもしれない。
「移動は出来るようですね」
移動というより転移だ。
アイテムの能力は失っていないようだ。
「やったぜっ! これで仕事に行かなくて済む!」
と、叫ぶのはヘロヘロだった。
「でも、収入は無いですよ。ゲームも無いと思いますが……」
「うちに置いてきた大量のエロゲーコレクションはどうしよう」
「映画や動画ファイルを持ち込めたらよかったのに」
「モモンガさん」
「はい?」
現実逃避しかけていたモモンガは我に返る。
「まずは現状把握から始めましょう」
燃える身体を持つ死獣天朱雀は言った。
元々ゲームなので多少の感触以外は感じないシステムになっている。つまりゲーム内で飲食しても現実の身体が満腹する事は無い。排泄行為も起きない。そうでなければ現実の方で漏らしているところだ。
「そうですね。では、皆さん。各階層のチェックをお願いします」
「了解」
「外に出ても良いですか?」
「一人では行動しないで下さい」
「は~い」
いやに落ち着いたメンバーにモモンガは胸を押さえる。だが、アンデッドモンスターに心臓は無いので何も感じない。
本来ならばドキドキと鼓動する心臓があるのだが、ゲームキャラクターたるアバターの身体にあるのは
モモンガが装備する事をメンバーから許された時に名前を変えて『スフィア・オブ・モモンガ』となっているが元々の名前は『イズンの
装備者に様々なステータスアップをもたらす強化アイテムなのだが、所持者登録を破棄しない限り、何者にも奪えない。普通ならば、と付く。
尚且つ、アイテムに攻撃を加えたり、無理に奪おうとする者が居れば膨大な経験値消費と引き換えに広範囲に存在する敵性体のレベルを強制的に半減させる能力を持つ。
普段は迂闊に攻撃されたり、盗まれたりしないないように高レベルの対防御スキル、窃盗スキル対策などは施している。
骨の手に体温は感じられず、分かるのは肋骨だけだ。
魔法の行使とアイテムの使用は把握した。次に確認すべき事は隣にたたずむNPCか。
特定の命令にしか反応を示さないので命令を忘れると素通りしたままになったり、延々とどこまでもついてきたりする。
アルベドに顔を向けると彼女はとても
それは決してあり得ない行動だ。今までの経験でも顔を向けてくることはあるが表情を変化させるところまでは出来なかったからだ。
ありえざる事態が起きている予感がした。
微動だにしない筈のNPCが色々と動いている。
本来は多少の瞬きはするのだが多くの場合は表情と言うものを形作れない。
いわゆる
喜怒哀楽の無い無表情。
「……もしかして、アルベドは自分の意思で動いているのか?」
つい言葉が出てしまった。それに対してアルベドは反応する。
「自分の意思とはどういうことなのでしょうか?」
と、聞き返してきた。
今までの経験からNPCの返答は大体が決まり文句だ。
指定されたメッセージ以外は喋らない。というか、喋れない。
プログラムした以上の事が出来ないからだ。
柔軟な対応が出来るほど多くの命令を与える事は常識的にも不可能だ。
「た、タブラさん!」
と、去り
「どうしました、モモンガさん」
カッ、カッ、と堅い音を響かせてタブラがモモンガの
メンバーはそれぞれ種族と装備品が違うので様々な音を響かせてくる。
「アルベドってこんなに表情豊かでしたっけ?」
化け物の顔でアルベドの頭から足下まで眺める創造主タブラ。
アルベドを拠点ポイントで作り上げたのは彼だ。他にも色々と作っているのはモモンガも承知している。
「急に自我に目覚めた、ということかもしれませんね」
「へっ?」
「まあまあ、モモンガさん。あまり慌てても仕方がありません。落ち着きましょう」
「……はい」
慌てても何も解決しないのは頭では分かっているのだが、見知らぬ事が起きると動揺してしまうようだ。
そして、それが限界に達すると『精神の沈静化』が起きる。これは元々ゲーム時代にあったアンデッドモンスター特有の精神作用無効の能力だと思われる。
外見はアンデッドだが中身はサラリーマンの『
タブラは色々とアルベドの周りを回りつつ観察していく。時には腕に触ったりする。
「電脳法による制約は解除されているようですね」
それはタブラがアルベドの尻を触って確認した。
恥らう表情のアルベドに側で見ていたモモンガは顔が赤くなるほど恥ずかしさを覚えたものだ。骸骨の顔だが。
「風営法も解除されているかもしれませんね」
「……それはつまり……」
「エロいことしまくっても怒られない」
言うと思った、とモモンガは呆れた。
確かにそれはそうなんだけど。
「ペロロンさんを縛り付けておかないとメイド達が危ない?」
「他のメンバーも居ますから全裸程度で留めるでしょう」
それはそれで不味い気もするけれど。
とにかく確認作業は大事なのでモモンガは移動を開始した。
既にサービス終了時間は過ぎているし、時計の確認も今は出来ないことは理解した。
◆ ● ◆
二時間ほどで一通りの確認作業を終えたメンバーは第九階層の円卓の間に集まった。
気がかりだったペロロンチーノは姉のぶくぶく茶釜の監視により妙なことは起きなかったようだ。
「表情アイコンが無いと
「何となくニュアンスで感じ取るとか、しかないんじゃないか」
「身体が燃えている人やヘロヘロさんはどうですか?」
「卓に触っても特に変化は無いようです。ただ、壊す意思を持つと椅子でも壊せる、というのは分かりました」
「普段どおりであれば特に燃やしたりは出来ないみたいですね。我々プレイヤーだけの問題かもしれないけれど」
それぞれ創造したNPC達は総じて表情が豊かになり、自発的に喋るようになった。それはつまりナザリック地下大墳墓に居る全てのNPCに自我が芽生えた、という意味になる。
「命令はちゃんと聞くようです」
忠誠心は損なわれておらず、創造主に対して一様に
「あと、外は何とびっくり平原でしたよ」
外の様子を見たメンバーが言った。
本来、ナザリック地下大墳墓は厚い雲に覆われた空で晴れたことは一度も無く、周りは毒の沼地となっている。尚且つ、ここに生息するモンスターは総じて80レベルを超えている。
高難易度のダンジョンとなっていた。
そもそもこのナザリック自体、発見する事も到達することも難しい場所にあり、モモンガ達が攻略するまでは未発見のところだった。
手に入れるまでは当然大変だったけれど。
それが今は平原で空は青空。沼地はなく、モンスターの姿も無いという。
「綺麗な青空でしたよ」
タブラがシモベに運ばせたアイテムを円卓に乗せる。
周りの風景を見るのに便利な『
「わお! 綺麗な風景じゃない」
「汚い世界とは雲泥の差だな」
舗装された道路はなく、緑豊かな平地が広がっていた。それも、どこまでも。
「これが有名なデスゲームの舞台かしら?」
「デスゲームと決め付けないで下さい。不安になります」
「●●●●●●ド?」
「たぶん、違いますね。●●●ス●だったら、少しワクワクしそうです」
「ス●●●●●の世界だったら魔族とか居て楽しそうですよね。厄介な魔王を倒せるか分かりませんが……」
「レ●●●●だったら●●●●●姫が召喚魔法を使うはずですが……」
と、メンバーは様々な創作物の知識を披露していた。
モモンガはあまり古い創作物の知識が無いのだが、黙って聞いている事にした。
実に楽しそうに会話するメンバーが居るのは心強いと同時に楽しくなってくる。
ゲームが終わったら皆と離れ離れになると思って暗い気持ちを抱いていた。それが今は半数とはいえ頼れる知識人のお陰で悩むことも少なくて済むかもしれない。
正直に言えばステータスウインドウが出ない時点で慌てた。アルベドが勝手にしゃべりだして驚いた。
それは事実だ。
だが、メンバーは少なくとも冷静に対処している。
「機動兵器が出てきたらどうします?」
「こっちは西洋ファンタジー色のプレイヤーだし。逃げるしかないんじゃない?」
「人間相手なら勝てる自信がありますよ」
とはいえ鏡に映る風景にメンバーは食い入るように見つめる。
ゲームの世界だから厚い雲に覆われた世界、ではない。
モモンガ達の現実の世界も厚い雲に覆われている。
マスクを着用しなければ外出も出来ないくらい大気が汚染されている。
水質汚染も甚だしく、風呂と言えばスチーム風呂だ。
過去の世界では自由に使える湯に身体を沈めてリラックスするのだが、それは今ではゲームの中でしか体験できない。もちろん、感覚がかなり遮断されているのでゲームの中の湯で温かみは殆ど感じない。
「外に出たいです~。モモンガさん、駄目ですか?」
「全てのチェックが終わり次第です。迂闊に出て何が起きるか分からないし。調査してからでも……」
「そうだな。無計画に飛び出して捕まる事態になっては色々と不味いかもしれない」
慎重派の意見に反論せず、メンバーは頷いていく。
アップデート後の新しいステージということは誰も想像していなかった。
普通ならテーブルなどのオブジェクトを叩けばダメージの数値が現れる。それが今は一切現れない。
一辺に外に出る事はせずチームを組んで対応する事にした。
外に出るのはいいのだが、メンバーは全て化け物。もし人間が居た場合は騒ぎになるような気がする。
「このアイテムでも近くの町とか生物は映さないところから、かなりのど田舎かもしれませんね」
映さないのではなく、まだ町などが見当たらないだけだ。
普段なら登録した町があれば一瞬で表示するのだが、今のところ登録されている町がないため、自力で探すしかないようだった。
「敵らしい姿も無いし」
外の様子については自分の目でも色々と確認したかった。あと、ギルド武器をいつまでも持っているのは不味そうだと思った。
◆ ● ◆
ギルド武器を円卓の間に安置した後、一般メイド達が居る食堂に向かった。
ナザリック地下大墳墓の中で第九、第十階層は安全地帯となっている。
悪の組織らしく、第八階層までは敵の迎撃に務め、残りの階層は勇敢な挑戦者を称える為に用意していた。ただし、最後の玉座の間には色々と悪質な迎撃用のモンスターが配置されているけれど。
モモンガが食堂に訪れると多くのメイド達がそれぞれ平伏していく。それはゲーム時代では絶対に起きなかった事態だ。
こちらから命令をしない限り、プレイヤーは存在していないかのように遠ざかっていく。
それが今は見掛けるだけで反応を示してくる。
特定の命令を必要とせず、言葉のニュアンスをかなり汲み取ってくれるところも驚くべき事だ。
普段なら正確な命令でなければ返事一つしてこないというのに。
あと、どのメイドも表情豊かに表現してくる。
メイド達の行動プログラムを担当した当人も驚いていた。
「皆の者……。楽にするがいい」
元々ゲームのNPCなので気軽に話すのは気恥ずかしかった。それに平伏している相手に友達感覚など出来はしない。
明らかに支配者か神に対する態度だ。
サラリーマン時代の自分でも上司に平伏などしなかったけれど。
見た目は人間の女性に見える彼女たちは
それぞれメンバーの寝室の清掃を担当している。
執事も居て、こちらは各施設の清掃に携わっている。
「皆は特に異常は無いか?」
メイド達の反応自体が異常ともいえるけれど。
「はっ。ふ、普段どおりでございます」
「それぞれ顔を上げてくれないか。どうして平伏した?」
「それは……。も、モモンガ様はナザリック地下大墳墓の支配者であらせられるからでございます」
支配者というか
責任者という意味にも取れる。
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