第42話 選択
「リストラねぇ。そんなことを心配していたのか」
そんなことって、僕にとっては重大なことなのに……。
笑っていた彼の表情が、すぐさま平常に戻った。
「心配するな。そういうことではない。次のステップに進むのだ」
神様が言うには、この先の僕の生き方は、三種類から選べるそうだ。
一、変わらず天使のままで、街を移りながら「玉」を集める。
「僕が天使のままなら、この黒チ……いえ、天使はどうなるのですか?」
「別にどうにもならん。どこか別の街に降ろすだけだ」
黒チビは、僕と同じ仕事をするわけだ……。
二、神となって天界から下界を見守り、天使を創る。
「僕が神になったら、神様はどうなるのですか?」
「一つ上の階級の神になる」
なるほど……。
「あんたの下で働くのはちょっとな……」
黒チビが言った。
お互い様……。
三、人間になる。
「僕が人間になったら……」
え? 人間になる……?
「俺はそれがいいな」
すかさず黒チビが言った。
「一人でも天使が増えたらその分、任される街が小さくなるってことだろ? 俺は広い街に行きたい。っていうかさ、にいちゃん、その黒チビってやめてよ」
神様が黒チビをにらみつけた。チビはそっぽを向いてふてくされた。しかたがない、僕は『黒羽』と呼ぶことにしてやった。
「一年の間に決断しろ」
僕の行く末の重要な選択にも関わらず、神はいともさらりと
神になるとは、この長椅子の主となること。椅子の背もたれの動きと、下界の様子を見守り、でんぐり返しを二回させて天使を呼ぶ。百メートル先にいる天使から「玉」を取り出す。天使に不安や疑問があったなら対処や答えを飛ばし、またでんぐり返しを二回させて帰らせる。下界での生活に支障がないよう都合をつけて、集まった「玉」で天使を創る。これが、神の仕事。
人間になるとは、人として生まれ変わること。これまでの天使としての記憶は鍵を掛けてしまわれるどころではなく、本当にすべてが消えてしまう。誰かの赤ん坊として生まれ、学習して仕事をして、結婚して子供を育て、いずれは寿命が尽きる。これが、人間の一生。
天使のままでいるとは、これまでとなんら変わらない毎日を送ること。一日五千キロカロリーの食事を摂り、街を巡回して気配を集め「玉」の成長を見守る。しかしこれから先は、その仕事にさえ苦労すると思われる。
一年で決めろと、彼は言っている。
「このチビのことは気にするな。お前がどうだからこうなったということではない。口が悪いのは俺の影響だし、姿形にしても、この先の人間界が黒ずくめのこいつを望んでいるということだ」
彼は黒羽の頭を押さえつけ、にやけ顔で言った。黒羽はさらに口を尖らせた。ふてくされながら悪態をついた。
「にいちゃんがどうなろうが俺には関係ないさ。神様になられたらやりにくいだろうけど、俺は俺の仕事をするだけさ。あんたがどれを選ぼうが、どうでもいい。」
「DJ天使は口は悪いが、いい仕事をする。この黒チビもそんな天使になるだろうよ。お前もいい天使だったぞ。激動の人間界で、よく働いてくれた。お前がいなければ、世界はとっくに破滅していたかもしれないのだから」
神様は僕を労ってくれた。
「万能ではないにしろ、見守ることで世界を守っているのだから」
さらに、片瞳と同じことを言った。彼は僕に命令するのではなく、僕自身の意志で決めさせてくれるんだ。
「一年後にまた会おう。こいつと一緒に、ここで待ってる」
さっきまで押さえつけていた彼の手は、今は黒羽の頭を優しく撫でている。黒羽はふてくされから、照れくさい顔になっている。その顔で、僕にウインクをした。
「またな、にいちゃん。神様がこれ持ってけって」
黒羽が持っているのは五つの「玉」だった。それぞれ紫、藍、青、緑、黄色をしている。成長した「玉」よりかなり小さいが、それぞれの色を主張するかのように光り輝いてる。
「とげとげを浄化したやつだって。さっき神様があんたから取り出したって」
黒羽から「玉」を受け取ると、僕はでんぐり返しを二回した。
五つの「玉」はズボンのポケットの中にある。白い生地を透して、五色のやさしい光を放っている。今僕は、同じ街の海の上を翔んでいる。羽は、僕の部屋へと向かっている。
彼女のとげとげも浄化されたかな……。
部屋に戻ると、橙色に輝く「玉」が模型の上で浮いていた。それを手に取り、ポケットから五色の「玉」を取り出して仲間に入れてやった。僕の手の中で、六色のやさしい光を放っている。
バラバラにポケットに入れておくのは落ち着かない。お互いにぶつかり合って、傷ついてはかわいそうだ。ひとまとめにしておくのに良いものはないかと、部屋を見回した。適当なものが見つからない。
最後に目についたのが、ライトグリーンのカーテンだった。
ま、いいか……。
僕はカーテンの裾のほうを、四角に切り抜いた。ただの布になったその真ん中に、六つの「玉」を置き、四隅を一つにまとめて輪ゴムでしっかりと閉じた。ポケットほどではないが、かすかに布を透して、光っているのがわかる。
作業が終わると、背中が疼いた。羽がまた、翔びたがっている。ライトグリーンの袋をポケットにしまい、僕は次の街へと移動する。
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