第4話

「あれ、買い物?」

淡白な表情で柏木が訪ねる。いるとは思わなかった二人に若干驚いたが、落ち着いて言葉を返す。

「お昼ご飯を買おうと思って。ここら辺って、コンビニありましたよね?」

すると田宮が即座に、

「あるよ!僕たちもこれからコンビニにお昼を買いに行こうと思ってたんだ。一緒に行こう!」

と先ほどの輝かしい笑みで答えた。

一人でも良かったが、話もできるしありがたい。二人について行く事にした。

一軒家が多く建ち並ぶ通りを歩きながらきょろきょろと辺りを見回す。改めて見ると、静かで綺麗な街である。ぼーっとしているところで話を振られ、他愛もない会話に参加していると、目当てのコンビニに到着した。

店内に入り陳列棚を見つめる。何を買おうか悩んでいると、田宮と柏木の二人はあらかじめ決めていたようにカップラーメンと惣菜パンを買って早々にレジに並んだ。健太は慌てて同じようにラーメンとカレーパンを買い、同じようにレジに向かう。買い物を終えてコンビニの外で待っている二人の元へ向かうと、見知らぬ女性と話をしていた。

きれいに切り揃えた金色のボブヘアー、大きくて滑らかな角の黒縁メガネと、一目で印象に残る。田宮がこちらに気づいて手を振ると、女性も健太の方を向いた。

「合田くん挨拶した?2階の一番奥に住んでる、有吉さん。」

なんと、つぼみ荘の住人だった。不意の対面だったために焦ったが、気を取り直して軽く会釈をする。

「001号室に引っ越しました、合田 健太です。すみません、本当はお菓子持って挨拶しようと思ったんですけど。」

「有吉 奈津子です!いえいえ!こんなところでごめんだけど、よろしくお願いしまーす!」

とても社交的な印象の人である。チェックのシャツにベージュのスカートと、この近くに用があるにしては余念のない服装の彼女は、男3人にこの後のことを尋ねた。

「アパートに戻るんだね、私はこの後合わせがあるからさ、また今度頼むよ!じゃあね!」

流れで見送ってしまったが、合わせってなんだろう。疑問を抱いたまま、帰路を歩く。

「有吉さんって、何をやってる人なんですか?合わせって言ってましたけど。」

健太が何気なく聞くと柏木がさっと返した。

「有吉さんは音大生だよ。ライブとかあるらしいから合わせってそのことじゃないかな。」

音大がこの近くにあるとは知らなかった。自分とあまり歳が変わらないだろうというのに、もうやりたいことを決めて大学に行くのはすごい。

アパートについて部屋に戻ろうとすると、田宮が口を開いた。

「今日はうちくる?この前柏木くんちにいったもんね!」

すると柏木も

「そうっすね。田宮さんちいいんなら行きます。」

と気の抜けた声で応える。

会話の意味がわからず立ち尽くしていると柏木が続ける。

「みんなの部屋で一緒にご飯食べるんだよ。よければ合田くんもいこ。あ、強制じゃないよ。」

有吉さんの「また今度頼むよ」が脳内で再生される。このことだったのだろう。

健太は誘われるままにコンビニの袋を片手に田宮の部屋にお邪魔することにした。

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