第3話

錆びついた階段を、音を立てて登る。

廊下からの景色を眺めながら歩いていると、006号室にたどり着いた。

なかなか想定通りの挨拶ができていない。次くらいはしっかりと話をしてコミュニケーションを取りたいものだ。

深呼吸をしてからブザーを鳴らす。ようやく思った通りの返事が来た。それも男性。今度は大丈夫だろう。

ドアが開いて現れたのは色黒で長身、一言で表すならスポーツマン風の男だった。薄い眉毛とつり上がった目から放たれる眼光に一瞬たじろいでしまったが、ぐっと堪えて用意していたセリフを喋る。

「今年から001号室に住むことになりました合田ですよろしくお願いします」

とにかく間違えないで言い切ることに必死だった。

健太の言葉を聞いた男性は笑顔になり、女性かと間違うような高い済んだ声で返してきた。

「はじめまして!東京体育大学の田宮 誠です。大学はどこなんですか?」

「え、えっと大正大学です経済学部です」

驚きを隠せず声が裏返ってしまった。田宮は眩しいほどの笑みで続ける。

「じゃあうちの大学の近くだね!学校行くもしかしたらあっちの駅でも会うかもね!」

心を落ち着かせて、よろしくお願いしますと挨拶をし、006号室を後にした。

住人に渡す菓子は、一気に全部は持てないと考え4つだけ用意していた。次の部屋に行く前に一度戻らなければならない。

鍵を開けて自宅に入る。まだ自分の家という実感がなく、地に足がついていない気分だ。残りの5つの包みの方に向かう時、ふと時計が目に入った。

時刻は12時5分。時間を見た途端、お腹が鳴った。

お昼を食べてからでも問題はないだろう。歩いて5分くらいのコンビニで、昼食を買うことにした。

靴を履いてドアを開け、出発しようとしたその時、後ろから声をかけられた。

そこには002号室の柏木と、006号室の田宮がいた。

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