15.

「テュコの部屋か……」


 気を取り直して、辺りを見渡す。時間は、きっと深夜なのだろう。と言うことは、私は少なくとも24時間以上は寝てしまったんだと思う。


「酷い目にあったな」


 独りごちて、座り込む。


 トラックに撥ねられ、

 テディ・ベアにされて、

 テュコと出会って、

 強盗と戦って、

 ピエロ人形になったりした。


「……第一話に詰め込みすぎなのよ」


 私が小説家だったら、原稿用紙を丸めて捨てている展開だ。

 テュコに聞きたいことは山ほどあるが、少し、考える時間が欲しい。私は、溜息をついて、ベッドから降りるのだった。

 半開きのドアから部屋を出て、真っ暗な廊下に辿りつく。

 ちょっと見難いな……と目を凝らすと。


――視力 LV.2に成長しました。


 おっ! ちょっと良く見えるようになった!

 どのタイミングでスキルが強くなるかは分からないけれど、レベルが上がると嬉しいな。

 さて、少し歩くと、そこは、瓦礫の散乱する、店舗スペースだ。……カピターノとその一味が暴れに暴れた現場。


「こりゃ、酷い……」


 やっぱり、夢でも何でも無かったのだ。

 薙ぎ倒された棚、割れたショーウィンドウ、散らばる人形の破片。

 “鉄の手”カピターノ。両腕が機械仕掛けの、『蒸気機関師ジョウキキカンシ』とかいう男。……そういえば、テュコも『傀儡師クグツシ』と呼ばれていたっけ。彼らの職業のことだろうか。確かに、テュコは人形“プリス”を操って戦っていたな。


 私にも、職業みたいな何かあるのだろうか?

 自分自身に“鑑定”を使ってみる。頭の中に情報が入り込んでくる。



小型自動機械リトル・オートマタ“クレハ”

HP8/8 MP2/2

スキル

<視力 LV.2><聴力 LV.1><触覚 LV.1><自律駆動 LV.1><発声 LV.1><鑑定 LV.1><こぶし LV.1><キック LV.1><サーキュラソウ LV.1><綿 LV.1><転魂 LV.EX>



「……あれえ!?」


 <サーキュラソウ LV.1>!?

 これは、回転鋸サーキュラソウを、自在に飛ばす能力。確かプリスに備え付けられていた能力だったはずだ。この、もふもふぷりちーなテディ・ベアの姿に、回転鋸が装着されていたとは考えにくい。つまり……。


「スキルを、引き継いでる!?」


 うおー、マジかー。

 これはありがたい。ビューティフル私ゴッド熊パンチにダメージが見込めないことを考えると、こんなに心強い戦闘技能は無い。


「サーキュラソウ! ……おお、出るじゃん……」


 スキルを叫んでみると、私の掌(指は無い)から小さな光が出て、一回り小さな回転鋸が一枚現れる。プリスの時と比べると、弱体化している感は否めないが、あれはレベル3だったからな……。そういえば、プリスは<硬質 LV.2>とか言うスキルを持ってたはずだ。でも、今は代わりに<綿 LV.1>があるな。と言うか、何だ綿って……。


 私の“転魂”は、おそらく他の人形に魂を移す能力だ。そして、その魂はまた元のこのテディ・ベアに戻ってくる。その時に、スキルを持ち越してくるのだろう。


 つまり、私は転魂を使えば使うほど、強くなる!


「おっしゃー、これで光が見えてきたぞ……ん?」


 サーキュラソウをしまって、ふと目を落とすと、そこはぐしゃぐしゃに壊されたレジカウンター。確か、カピターノの攻撃によって破壊された場所だ。そのレジカウンターの瓦礫の間から、ドアノブが見える。


「何これ……床に、ドアがある?」

「そこはお爺ちゃんの工房、“コッペリア”が居たところだよ」


 声がして振り返る。

 テュコ・オスカリウス。包帯をぐるぐる巻きにされたパジャマ姿の少年が、眠たげな目を擦りながら、私を見下ろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る