12.

「くそ、何か、手は……」


 考える。

 私は、今確かに強くなっている。でも、カピターノに掴まれたり、殴られたらその時点で私はスクラップ→粗大ゴミだ。そしたら私は、もう二度と、人形を愛でることが出来なくなってしまう……!


「うぅー、どうしたら良いのよぉ!」

「クレハ……クレハ、なの? プリスの中に……君は……」

「テュコ!」


 不意に声がして視線を下ろすと、さっきまで意識を失っていたテュコの目が、私を捉えているのが見えた。私が名前を呼ぶと、テュコは仰向けになったまま、大きく、かは、げふけふと大きく咳き込むのだった。肺が、傷ついているのかもしれない。


「ちょ、大丈夫!? あんた、喋んない方が……」

「い、痛すぎだよぉ……でも、クレハ、ああ、君は僕よりもプリスを上手に使えるんだね……。でも、気づいてないかも知れないけど、プリスには……ぐあっ!!」

「どうしてこう言う時だけお喋りになるんだよぉ、テュコ。酷いじゃないか、ええ?」

「ぎあああ!!」

「テュコっ!!」


 何かを言いかけたテュコの胸を、カピターノのサドル・シューズが踏みにじる。テュコは暫く痛みに絶叫していたが、やがて完全に意識を飛ばして、声を無くしてしまう。もう息もしていない。ショック死の可能性すらあるかもしれない。

 くそ! 今すぐにでも駆けだして無気力無精髭クソ男の顔面張り倒してやりたいのに、そのクソ男の混ぜすぎた絵の具のように濁った目は私を捉えたままだ。このまま飛びかかれば、簡単に、本当に簡単に破壊されてしまう。

 ……待てよ。

 いま、テュコは何を言いさしたんだ?

 この身体に何かあるのか?


 落ち着け、落ち着け。

 テュコは今何と言った?

 “私はプリスを上手に使う”“でも”“プリスには”……。


 プリスには、“何か”がある?


 そして、私がこの身体のことを知りたいと思った瞬間。


――鑑定 LV.1を獲得しました。


 頭の中で、女神様の声がしたのだった。


「これだーっ!?」


 鑑定スキル!

 これだ、これが欲しかったんだ!

 私は、即座に自分に向けて鑑定を行う。

 瞬間、私の意識の表層に、情報が流れ込んで来た。



自動機械オートマタ“プリス”

HP53/53 MP2/2

スキル

<視力 LV.1><聴力 LV.1><触覚 LV.1><自律駆動 LV.1><発声 LV.1><鑑定 LV.1><こぶし LV.1><キック LV.1><勇気 LV.1><憎悪 LV.1><サーキュラソウ LV.3><硬質 LV.2><転魂 LV.EX>



「……来たーっ!」


 サーキュラソウ!

 思わず叫んでしまう。カピターノは、驚いた様子で私のことを見ていた。気にしていられるかい!

 それが何なのかは良くわからないけれど、私は念じる。そして、私はその身体の使い方を、きちんと知っていた。私が覚えていなくとも、スキルが覚えている。


 そうして、私はサーキュラソウを、出した。


「ちょ、おい、マジか、それは……」

「私は言ったはずだ、ただじゃ済ませないって……!」

「はは、おいおい、こりゃあ反則だろうが……!?」


 私は、背中に収納されていた回転鋸サーキュラソウを三つ、まるでUFOのように浮遊させる。

 もう、これ以上好き勝手は、させるものか。

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