第18話
私にとって、晟は世話の焼ける弟だった。小さくて、頼りなくて、だから私が守ってあげなきゃと、小さい頃の私はいつも晟のそばにいた。実は晟と血が繋がっていないということを知ったのは、私が中学に上がる頃。その頃から段々とどうやって晟と接したら良いのかが分からなくなってきて次第に距離を置いていったけど、その間にすくすくと成長していった晟は、変わらずに私のことを慕ってくれていた。
高校二年の時に、とうとう晟に身長を抜かれた。思えばこれが初めて晟を異性として認識した瞬間だったかもしれない。その頃から晟は私の助けなんか必要なく――というか、むしろ身体能力の面でよく私が助けてもらうようになっていった。小さい頃の立場が逆転したようで、私はどうにも晟に対していつも通りの態度を取ることが出来なかった。
ちょっとしたハプニングで晟にお風呂を覗かれたことがあった。お互いに裸で、それ以外の詳しいことは気が動転していて覚えていない。でもその夜、川の字になった布団で私とお父さんと晟が眠る中、私は晟の布団から伸びた手に自分の手を握られた、そのことだけは覚えていた。その日から、私たちの間にはいつも手を繋いで眠るという暗黙の約束が出来上がった。
無事大学に合格して、一人暮らしを始める前日。仕事でお父さんのいない寝室の中で、晟は私の布団の中に侵入してきた。晟は硬い体で私を抱きしめる。強ばっていた私の体も、抱きしめられる内に徐々に落ち着きを取り戻していた。
私の弟が男に変わった瞬間だった。
それから二人で色々な日々を過ごして、そしてとうとう晟から結婚を申し込まれたのは、晟の就職が決まった日のことだった。最初に考えたことは、結婚しても名字が変わらなくてラッキーという、本当にどうでも良いことだった。でも、よくよく考えてみると私だって小さい頃は、お嫁さんになると名字が変わるという、そんなおそらく一生に一度だろう経験を心のどこかで楽しみにしていたはずで、数時間後にはやっぱり後悔した自分も少なからずいたのだった。
それから実家を離れて私と晟の二人だけで生活することになって、でも数年後にそれが三人になることが分かって……だから、私たちはとても幸せで、これからも多分そんな幸せ一杯の未来が待っているんだと……私は……そう、信じていたんだけどなあ。
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