やがてきたる日々
PART:1
魔法界の研究部門所属の魔法少女、ハイペリカムは人事部門所属のシャーベットからの報告に驚愕していた。
「あれが発見されただと?」
「ええ、調査隊が研究所の奥で……」
「だがあれは遠い昔に全て破棄されたと報告があるが?」
「そう思われていたのですが、確かに見つかったのです。それも6体も」
「こちらに持ってくることは?」
「人材と、大型輸送機を用意してくれれば」
「解った。新人でよろしければ、戦隊一チームと魔法少女一名を送り込む」
「ええ。できれば早急に」
電話を切ると、ハイペリカムは上司のラヴィアン・ローズを呼び出した。
「チェリーブロッサム、付いてきてるか?」
「うん、大丈夫だよ……わっ!」
言っている傍から近くの岩場に足を引っかけ、落っこちかけたチェリーブロッサムの近くを大型母艦「ザウルスファイター」が飛来し、チェリーブロッサムはその上に尻もちをついた。
「まったく言ってる傍から…」
「大丈夫?チェリーちゃん」
「だ、大丈夫です。ドジですみません」
「気にしなくていいよ。俺達だって任務は初めてなんだからさ」
ザウルスファイターは上にチェリーブロッサムを乗せたまま飛行する。
「でも周囲にはなるべく気を配るように。もう少しで目的地よ」
ザウルスファイターの行く先には、大きな穴が広がっていた。
桜野友菜が魔法少女に、矢口修二らが強竜戦隊ザウレンジャーになってから二週間ほどが経過したある日の事。
その日もチェリーブロッサムとザウレンジャーは、先輩たち指導のもと訓練を受けていた。休憩中に昨日オキザリスとグリーンベンジャーが変身を解いて一緒に遊びに行ったという話題が出た。
あれは一体どういうことだとブルードラゴンが問い詰める。
たまたま帰り道が一緒だっただけだと赤面して答えるオキザリス。
それにしては手をつないでいたよと言うサンフラワー。
ノーコメントっすとグリーンベンジャー。
素直に付き合ってるって言っちゃいましょうぜというザウルブラック。
興味ないふりをして聞き耳を立てるザウルピンク。
ザウレッドがそれぞれの反応を眺めていた時ザウレンジャーとチェリーブロッサムのスマートフォンに呼び出しが鳴った。
それは魔法界と戦隊協会からで、これからみんなに初めての任務を与える。その説明をするからこの間歓迎会を行った講堂に来るようにというクマからのメッセージだった。
彼らを出迎えたのはクマと、ドレスを身に纏ったお姫様のような魔法少女だった。ラヴィアン・ローズと名乗った魔法少女は、人に仕事を依頼したいと言った。
「仕事、ですか」
「そこまで難しいものではありません。貴方達にはあるものを取ってきて欲しいのです」
ラヴィアン・ローズは6人に一枚の写真を見せた。それは森の中にぽっかりと広がる巨大な穴の写真だった。
「先日起こった地震によって開いた穴なのですが、魔法界の調査隊が調査した結果、放棄された研究施設だったことが解りました」
「その中にあるものを取って来ればいいんですか?」
「あまりに大きかったので、その時の調査隊の装備では輸送が不可能だったのです。だからあなた達の初仕事として依頼した、というわけです」
「しかし初仕事がおつかいって、なんかそれっぽくないよなあ。あ、レッドもうちょっと右によって」
「まあそういうなって。先輩方も上の方から依頼が来るなんて誇るべきことだって言ってたじゃんか」
ザウルスファイターを穴の近くに着陸させ、穴の底にむかってロープをつたって渡る。途中ザウレッドがザウルイエローに衝突しそうになったため、右のほうに避けていった。単独で飛行が可能なチェリーブロッサムは先に穴の底に降りて、5人の到着を待っていた。
やがて5人を穴の底の暗く深い闇が出迎えた。サーチライトを付けると、長い通路が見えて来た。通路はところどころ瓦礫で塞がっていたり、湧き水によって水たまりが出来ていたりしてかなり進みにくかったが、ラヴィアン・ローズが渡した見取り図を頼りに、目的の部屋まで到着した。
「ここか。目的の部屋は」
「何があるか解らないから、みんな油断するな」
ザウルピンクが銃で鍵を壊し、ザウルブルーとザウルブラックが扉を開ける。しかしザウレッドの言葉は現実となった。扉を開けた途端、部屋の中にあった戦車のような装置に光が灯り、6人にビームを発射してきたのだった。
突然の攻撃に対処出来なかった6人は蜘蛛の子を散らすように散り散りとなった。しかし戦車は先端にビーム砲が備わった長いコードを伸ばしてビームを放つ。
「どうなってるんだ!あんなのがいるなんて聞いてないぞ!!」
「みんな落ち着け!やみくもに攻撃しても駄目だ、一旦引き返そう!」
ザウレッドは撤退を告げ、手持ち武器のティラノアームズを銃形態リボルバーモードに変えると戦車に発射する。狙い通りに戦車の砲塔がザウレッドの方を向き、その隙にザウルブラック達は扉から外へ出ていく。
そしてチェリーブロッサムが機械にも有効な「目をくらませる魔法」を使った事で戦車は方向感覚を見失い、その隙にザウレッドとチェリーブロッサムも脱出。「扉を封じる魔法」で扉を封じた。
「一体あれは何なんだ?突然攻撃してきたけど……」
「恐らく生きている防衛システム。私達は侵入者だと思われたみたい」
「あれを壊さないと、中に入れないなあ……」
ザウレッドは扉の隙間から中を覗く。戦車は目くらましから回復したらしく、またザウレンジャー達を捜し回っているようだった。
「リーダー、どうすんだ?」
ザウルブルーが尋ねた。ザウレッドは少し考えたが、ドリームホワイトが言っていた「仲間を信じる」の言葉の通り、全員の武器とチェリーブロッサムの魔法を使った作戦を思いついた。
「チェリーブロッサム、さっきの光の魔法はもう一度使えたりする?」
「うん。さっきのは少ない魔力で済むから使えるよ」
「よし、じゃあ皆、チェリーブロッサムが魔法を使ったらみんなの武器を使う。それで倒しきれなかったら、武器を合体させて一気に倒す!これでいいか?」
ザウレッドの作戦に誰も異議を唱えなかった。ザウレッドはリボルバーモードのティラノアームズ、ザウルブラックはボクシンググローブ型のパキケファロヘッダー、ザウルブルーは槍型のホーンランサー、ザウルイエローは長剣型のステゴブレード、ザウルピンクは拳銃型のアンキロボンバーをそれぞれ手にし、レッドが指示した場所に付く。。
「いい?じゃあ行くよ……えいっ!」
チェリーブロッサムは魔法を解除しすると同時にに再び目をくらませる魔法を使う。突然放たれた強烈な光に戦車は再び方向感覚を失った。
「今だ!」
ザウレッドの掛け声を合図にまずザウルブラックが強烈なパンチをお見舞いし、続いてザウルイエローとザウルブルーがステゴソードとホーンランサーで触手を切断。次に入ってきたザウルピンクがアンキロボンバーを正確に戦車の砲塔の中に発砲して誘爆させ戦力を奪い、そこにすかさずティラノアームズでクローラー部分を破壊する。しかしそれでも戦車はこちらに向かってくるのを止めなかった。
「よし、こうなったら合体武器だ!チェリーブロッサム、手伝ってくれ!」
「うん!」
「アクティブラスター・シューティングフォーメーション!」
レッドの声を合図に、ティラノアームズの上部分にステゴソードとアンキロボンバー、左右の側に二分割されたホーンランサー、銃口部分にパキケファロヘッダーが挟み込むように合体する。
チェリーブロッサムも今自分が憶えている最強の魔法を使うために意識を集中させる。アクティブラスターを持ったザウレッドと、その後ろにいる4人とチェリーブロッサムの周りを桜吹雪が包み込んだ。
「アクティブラスター、シュート!!」
「花びら満開!サクラ・ハリケーン!!」
アクティブラスターのトリガーを引いて放つ大出力ビームと、魔法の花吹雪サクラ・ハリケーンこと「強い光線を発射する魔法」が戦車の体を貫通し、大爆発を起こした。その爆発は天井にまで届き、壁を一瞬で吹き飛ばした。
「やった!!倒したぞ!!」
「これぞ特訓の成果かな」
「うんうん、皆よかったぞ!チェリーちゃんもお疲れ!」
「お、お役に立てたらなによりです~疲れた~」
その場にへたり込みそうになったチェリーブロッサムの腕を支えて立たせるザウレッド。彼もまた緊張から解放されて倒れそうだったが、彼の肩をピンクとブルーが叩いて言った。
「よくやれてたよ、リーダー」
「お疲れさまね」
「俺はみんなを信じただけさ。さてと、さっさと回収しちまおうぜ」
思わぬ邪魔が入ったが、気を取り直して依頼を続行する。チェリーブロッサムの魔法で出した水で爆発痕を消火すると、6人は部屋の中央を目指す。お目当てのものはそこにあった。
「しかしこれは一体何なんだ?大きなカプセルみたいだが……」
「解るのはどう見てもまともな神経持った奴が作った訳じゃないって事だね」
6人が回収しようとしているものは、巨大な6本の円筒状の水槽だった。水槽は台座に固定され、円を描いて並んでいた。
異様だったのは、そのすべての水槽に人間の形をした何かが入っている事だった。水の色が濃すぎてよく見えないが、体格からすると少女の様に見えた。
「まあとりあえず、さっさと運んじゃおう。ザウルスファイターを呼ばなきゃな」
ザウルスファイターはすぐに飛んできた。上から輸送用のケーブルを垂らして台座に固定すると、それぞれケーブルに掴まり、ザウルスファイターに引き上げられていった。
こうして強竜戦隊ザウレンジャーと魔法少女チェリーブロッサムの初任務は無事成功した。
だがそのころ、とある場所では大きな騒動が巻き起こっていた事を彼らは知らなかった。
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