桜と恐竜

PART:1

 最近になって再開発が始まった地方都市「漣市」にて、一人の魔法少女と一組の戦隊ヒーローが誕生した。


 桜野友菜にとって、魔法少女は憧れの存在だった。元々学校でもあまり目立たない彼女にとって、幼い頃から親しんできたアニメや漫画の魔法少女の姿は何者よりも輝いて見えた。

 今日もまた憂鬱な学校生活を終え、家に帰ると部屋に籠り、魔法少女のアニメのDVDを見る。一通り見ると今度はインターネットで魔法少女の情報を探る。どうやらこのところ、空想の話だと思われていた魔法少女が各地で目撃されているというのだ。嘘か本当かはネットでも議論されているが、かなり信憑性の高い情報や合成とは思えない写真が数多く寄せられていた。

 

 いいな。私もこんな風に活躍したいな。そう思っていた矢先、スマートフォンにメールが届いた。


 「おめでとうございます!あなたは新しい魔法少女へと選ばれました!」


 次の瞬間、友菜の姿は桜の花のような衣装を身に纏った魔法少女の姿となった。

 友菜は一瞬何が起こったのかよく解らず、自分の衣装が変わったことに驚愕していた。鏡を覗いてみると腰まで届く長い髪をお嬢様結びにし、親戚から優しそうと言われる眼のついた自分の顔と、桜の衣装が施されたセーラー服のような衣装が映った。

 自分の両手をじっと眺めたり、服装をじっくりと観察したりしていると、メールからまた声がした。


 「魔法界があなたを新しい魔法少女に選択しました。貴方は魔法少女チェリーブロッサムなのです!」

 「嘘、わ、私が魔法少女?」

 「はいその通り」

 「ま、魔法少女って本当にいたの?」

 「はいその通り。魔法少女は現実にいますよ」


 このメールも決して悪戯ではない本物です。と聞いた友菜は心の奥底から喜びが沸きあがってくるのを感じた。憧れの存在に自分がなれた。多分今鏡を見たらかなりだらしない顔になっていることだろう。もう背中に翼が生えて空高く何処までも飛びあがってしまいそうだ。

 一刻も早くこのことを伝えたい。でも両親に言っても信じてもらえなさそうなので、友菜は唯一友達と言える人物へと電話することにした。いつもはあまり気にならない呼び出し音すら今の友菜にはもどかしかった。

 やがて、その人物が電話に出た。


 『はい』

 「もしもし修ちゃん?あのね、あのね、私ね」

 『まあ落ち着けよ』

 「うん落ち着く。あのね、私ね、魔法少女になったんだよ!」

 『……へー、そりゃすげえや。俺は丁度戦隊レッドになった所さ』

 「そうなんだ……って、えー!!」




 友菜の電話の相手である矢口修二は、つい数分前に戦隊レッドへと変身していた。

 魔法少女と並んでテレビや漫画といった媒体で親しまれ、そして実際の目撃例があるのが「戦隊」である。単独で動くことの多い魔法少女と違い、数人での目撃例が数多く報告されている。数人というのは基本的に5人で目撃されることが多いのだが「俺が見たのは3人だった」「10人はいた」と人数がバラバラであることがあるためだった。

 修二もまた幼い頃に戦隊ヒーローに憧れ、彼らの活躍を必死で応援してきた少年たちの一人なのだが、時がたつにつれてその熱意にも陰りが生じ、周りが卒業していくことも相まって、情熱は少しずつ冷めていった。

 ネットのニュースで見た魔法少女や戦隊の目撃情報にもさほど興味を持たなかったが、その日送られて来たメールを開いたことで彼の人生は一変した。


 「おめでとうございます!あなたは今年度の戦隊ヒーローに選ばれました!」


 届いたメールを開いた次の瞬間、謎の声と共に頭に何かがかぶさり修二の視界がV字型になった。驚いて顔に触れてみると、プラスチックのような金属のような不思議な感触がし、白いグローブが視界に入った。

 鏡で全身を見てみると、恐竜を彷彿とさせるマスクをかぶり、体には同じく赤い色のライダースーツ状のスーツが装着されている自分の姿が写った。


 「驚きましたか?」

 「…うん、実際かなり驚いてる」

 「でもこれは嘘や冗談ではありませんよ、貴方は今年度の戦隊ヒーロー『強竜戦隊ザウレンジャー』のレッドとなったのです」

 「へ、へー。そりゃすげえな……ところでこれどうやったら元に戻るんだ?」

 「ヘルメットを外していただければ自動的に戻ります。変身アイテム等は後日行われる新人歓迎式にてお渡しします」


 そこまで言った時、電話が鳴った。相手は彼の幼馴染に当たる桜野友菜からだった。何とかヘルメットを外すとスーツも自動的に消滅して元の部屋着へと戻った。

 電話に出てみると、友菜が興奮した声で話してきた。


 『もしもし修ちゃん?あのね、あのね、私ね』

 「まあ落ち着けよ」

 『うん、落ち着く。あのね、私ね、魔法少女になったんだよ!』

 「……へー、そりゃすげえな。俺は丁度戦隊レッドになった所さ」

 『そうなんだ……って、えー!!』

 

 

 かくして、漣市に魔法少女と戦隊が誕生した。

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