1-2)「上手」という言葉について

 言葉って、自由です。同じ日本語でも、話す人によって意味が変わったりすることもあります。経験、知識、思い出。それらが言葉に込められた意味を少しずつ変えるのです。


 だからこそ、非常に広範囲を示すような言葉を使う時はまず考えてください。

 貴方の使う「上手」は、なにを示していますか? それがわかっていなければ、直しようがないです。そして書き上げようがないです。だって上手って、意味が多すぎるんですよ。


 「上手」と言う時に、その言葉を補うように「完璧」と言う人が居ます。けれどそれって、補えていません。もしその「完璧」を基準とするのでしたら、誰も書き上げられないでしょう。プロもアマチュアも関係有りません。だって完璧なんて、創作で存在する訳ないのですから。


 考えてみてください。創作って、小説って誰が読みますか? 誰が書きますか?

 書き手と読み手が同一でしたら書き手だけでいいでしょう。もし読み手を重視するのでしたら、その読み手は誰かを考える必要がでてきます。

 そしてそう言うとき、忘れてはいけないことがあります。人の感性って非常に広い。


 地の文章が多すぎると、目が滑ると言う人が居ます。逆に台詞だけだと稚拙と言う人も居ます。幸せな話が好きな人、泥臭い話が好きな人、内側にしこりが残るような話が好きな人、すっきり爽快な話が好きな人、血の匂いのする話が好きな人、日溜まりのような話が好きな人、小難しい話が好きな人、わかりやすい話が好きな人。

 貴方が目指す上手、は、そういうたくさんの人たちにとっての読みやすさとか心地よさを考えた上でのものでしょうか? 貴方の今の文章は、貴方の目指す文章とどう違いますか?

 貴方は何を書きたいですか。何を伝えるために、「上手」を求めましたか?


 こんな文章が好きで、書きたい。明確な意志で目指すのでしたら、その書き手の作品をたくさん読んで、その人がきっと好んでいるだろう世界を見て、なにがおもしろいのか徹底的に分析するのも手です。そういう形で追い求める人たちはきっといます。

 でも、筆を止める人の「上手に書きたい」の「上手」。曖昧な事が多いんじゃないかな、って私は勝手に思っています。曖昧だと、直せません。曖昧だと、どんな結果でも満足できなくなります。書けば結果が付いてきます。けれどもその結果の前に手を止めてしまう。そういう人の理由が漠然とした「上手に書かないと」といったプレッシャーだったら、とっても勿体ないです。

 貴方の物語が読みたいのに、そんな理由で筆を置くなんてとても悲しいと思います。


 書き上げなければ、貴方の言う「上手じゃない」という現実からは逃げられるかも知れません。理想が高くて、きっとそういう中書き上げた作品は質の高い物になるのでしょう。

 でも物語が好きな個人としては、「貴方の好きを読みたかったな」という思いが有ります。

 それにですね、一個怖いことがあります。上手じゃないと感じてペンを置いてしまうと、結局書く事自体をやめてしまう、完成させない癖が付いてしまうことです。好きなシーンだけでも書いてしまえばいいのに。「上手」に「完璧」に、「最初から最後まで」にこだわって、結局書かないまま、物語が完成しない癖。完成したらもしかするとどこを直すべきかとか考えられるかも知れません。苦しんだ結果、稚拙と感じた物が意外とおもしろいじゃん! となるかもしれません。

 そういう可能性を失わせるから、「上手」だけは怖いです。だから考えてください。もし「上手」を追いかけるなら、貴方にとっての「上手」がなんなのか。

 個人的には、上手に書くなんて考えないで、好きを形にするだけでも強いと思いますけどね。技術はきっとあとから付いてくる。書かなければ、ついて行く場所すらなくなってしまうのですから。


(2016/12/20)

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