バージニアと桑の実
繭蜂ナズナ
第1話
体調を崩したあなたにはきっとお粥を作ってくれる奥さんがいて、パパ大丈夫?うるせえなあ大丈夫だよ、なんて言ったりして、私はお大事にしてください、とメールを送る。
彼が「俺のものって印を入れてよ」と言うから入れたあの人のイニシャルのタトゥーがじくじくと痛んでくる気がして、ああ神様、私はなんと惨めでしょうか。
バージンじゃないのにバージニア。忘れられるのにワスレナグサ。せめてもの抵抗にこっそりと入れた桑の身が私の内腿で光るから、そこを私はゆるりと撫でる。
「一緒に死んで」
その感情は何処にも届かず、私と桑の実だけを結び付け、一緒に死んであげるからね、と私は私を抱きしめた。
私にお粥は作れないし、あの人の布団に潜り込んで、背中をさすることも途方もないこと。
具合どうですか?
少しよくなったよ、お前に会いたい。
会いたい会いたい会いたい会いたい、ああ彼女を消してしまいたい。でも私は彼の子供なんて産みたくないし、保育園に送り迎えもしたくない。私たちは最善の出会い方をした。未来なんていう幸福が絶望と隣り合わせでひんやりと首筋を撫でていて、やっぱり彼のイニシャルがじくじくとする。あなたは私のものではないけど、私はあなたのものなのです。シャワーを浴びて煙草に火を付ける。バージンじゃないのにバージニア。女の子みたいな香りがして、笑ってしまった。がさりとシガーケースからあれを出して、揉み消したバージニアの代わりに火を付けた。
仕事へ行くまで1時間。クソみたいな現実を掻き消して。
私のハイライトは今日も美味しい。あの人の香りも掻き消してくれる。
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