第4話 王さまのナデポン……延びしろですね!
さて、王さまのお胸で大泣きしちゃってからこちら、親子の関係はそこそこ良いようです。
王さまのナデポン(頭を撫でて優しくポンポン叩くこと)の技術は瞬く間に上昇。
今ではお膝にナジィカを乗せて、絵本を読む子煩悩なお父さんに進化しました。
親父さん、デレッデレです。
そーいやー、ナジィカは王さまが心底惚れて側室に迎えた平民の母親に瓜二つなんだよな。
因みに彼女はナジィカとナジィカの双子の弟を生んで程なく亡くなっている。
ナジィカの双子の弟は父親に似たから、愛した女の面影を残す子どもはナジィカひとり。
神託のせいとは言え、塔に幽閉した負い目からか、ナジィカに憎まれていないと分かった今、親バカって言葉じゃ足りないくらい息子を溺愛する父親にジョブチェンジしましたですよ、はい。
「お父さん、ここでお仕事しようかな」
ああ。塔通いでは飽きたらず、ついにそんなことまで言い出したよ、王さまってば。
側近その2の大男にお馬さんごっこで遊んで貰っている俺を見ながら、簡素な椅子に座るおとーさんは、ガチな声音でそー言いました。
「はははっ。面白い冗談ですね、陛下」
側近その1の美丈夫さんが、後ろに回した手を組み、爽やかな笑顔に不穏な色を混ぜながら王さまを遠回しに
「うむ。やはりダメか」
「当たり前です」
「じゃあ此処で暮らそうかな」
「毎朝、政務をしに行きたくないとごねる姿が目に浮かぶので、本気で止めてください」
「どーしてもダメか?アルバート」
「ぶん殴られたいですか、陛下」
「腹心のまさかの反乱っ!」
あれ。なんか俺の親父って威厳ねぇの?
腹心にぞんざいな口調で脅されてるんだけど、なぁ、デュッセンさんあの二人止めなくて大丈夫?
「はっ、はっ、はっ!殿下、まだまだ速くなりますよ!暴れ馬を御する立派な男にお育ち下され!!」
「きゃぁう!きゃははははっ!」
暴れ馬って自分で言っちゃうの!
デュッセンさんパネェ!
親子の和解シーンで男泣きしちゃった陛下の腹心その2こと、気の良い大男デュッセンさんの背中にのって、服を掴みながら落ちないようにバランスをとる。
落ちそうで落ちないギリギリの傾き加減で攻めてくるデュッセンさん、遣り手です。
遊びながら王子のバランス感覚を鍛え中。
一石二鳥でやはり遣り手です。
5歳児がお馬さんごっこで遊ぶかどーかは知らねぇですが、生まれてからこちら乳母のメアリーしか遊び相手がいなかったナジィカは、今がとっても楽しくて幸せみたいです。
無邪気な子どもの笑顔に坂谷くんは、涙ちょちょ切れそーですよ。まぁ、自分の顔だからどんな風に笑ってるのか見えないわけですけど!
鏡はありませんよ、武器になるから。
毎日が楽しくて忘れそうになるけれど、此処は俺を閉じ込める為の牢獄だからね。
そーいえば、親子の和解をこっそり目撃しちゃった門番の兵士さん二人も、俺を気に掛けてくれます。
たまーにお菓子とかを、ドアに付いている小窓から差し入れしてくれたりする。
勝手にドアを開けることは出来ないので、こっそりドア越しに話したりもする。
今までの門番には、忌み子、呪い子として恐れられ憎まれていたので、かなりの進歩ではないだろうか。
メアリーの事件で、彼女と結託した門番の兵士がいたため、門番はそう取っ替えになった。
十名くらいの兵が交代で門の前に立つので、俺に良くしてくれる彼ら二人とは5日~7日に一度くらいしか話せないけど、今までに比べたら十分ですよ。
メアリーの変わりの世話役は与えられなかったから、ナジィカは今、ガチでロンリネスなんだよね。
王さまもそんなに毎日来れないから。
むしろ、いま来すぎたから。
王さまの塔通いは殆ど毎日のように続き、アルバートさんの笑顔が日を追うごとに険しくなっていくので、俺は心底申し訳なくなり、ある日王さまに言いました。
「王さま、民の血税を無駄にしないで下さいね(仕事しろやおっさん)」
それを聞いた王さまはいたく感動されたらしい。
大袈裟に肩を震わせながら、腹心の二人にすがり付き「息子が良い子過ぎてつらい」と泣いてました。
今まで色々ありましたからね。
気持ちは分からないでもないですが、それにしても、王さまオーバー過ぎっすよ。
此方まで照れるっすよ。
デュッセンのおっさんが貰い泣きしてて大変暑苦しいし、仕事が片付かないってアルバートさんが困っているからマジでそろそろ王さま仕事しろ。
「はいはい、こんな劣悪な環境でも良い子が育つと解って良かったですね。さ、陛下。王子で十分癒されましたね。四日分の書類が片付くまで、眠れると思わないで下さいね」
「え?そんな横暴な」とかなんとか騒ぐ王さまを完全シカトしたアルバートさんが「それでは王子、失礼いたします」と頭を下げて出ていった。
王さまの首根っこを引っ張って、仕事場に連行することも勿論忘れておりません。
ありがとう、アルバートさん。
「パパ、また直ぐに来るからね!寂しくなったら門番に伝えてパパを呼ぶんだよ!」
ついに自分をパパと呼び始めた王さまにひらひらと手を振って見送った。
すまない王さま。
父親として貴方を愛しているが、四六時中ベッタリ一緒だとか今までと環境が変わり過ぎだから。
孤独に慣れているナジィカの精神じゃとても堪えられない。
それに、俺にはデッドエンドを打破するという、大きな使命があるんだよ!
ひとりの時間も必要なんだ。
正確にはひとりではないんだけどね。と、俺は王さまたちを見送った後、暖炉に近づいた。
この鳥籠のような世界で、ナジィカは乳母と二人っきりで生きてきたけれど、実はこの部屋にはもうひとり住民がいる。
ひとり、という数え方は、肉体を持たない彼には相応しく無いかも知れないが、彼はナジィカが生まれる前から側に寄り添い、幼い少年を見守り続けていた。
小説の中のナジィカは時折何かの気配を感じることはあっても、その存在を瞳に映すことも、声を聞くことも出来なかった。
でも、俺には予感がした。
いまならば。
乳母に命を奪われかけたあの夜。
幼い命が永遠に失われようとしていたあの夜。
空気を切り裂く怒声と共に、ナジィカを救ったその存在は―。
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