第2話 お父様との相互理解は生き延びる道ですよね?
ちゅんちゅん。と鳥が
ベッドは柔らかくてサイコーですが、俺の気分はサイテーです。
おっす。俺、
谷底の木の枝の最後の一枚の葉っぱの名前に負けないように、努力と根性を友だちに頑張って生きてきました。
ぼっちじゃねぇ。
ちゃんとダチはいた。
能天気ー、脳たりんー、と、じゃれ合うダチがおりました、いじめられてねぇよ。
あと彼女っぽいのも一応いた。
あいつが脳みそを腐らせてる事を知ったときはかなりの衝撃だったけれど、幼馴染みの友情つか愛情つか絆ってやつは微塵も揺るがなかったです、はい。俺の密かな自慢でした。
見上げる天井は始めて見る割りに見慣れている。
三角の天井は、ここが塔の一番上だからだ。
暫くソレを見上げていると、忘れていた記憶が浮上するように、それが良く慣れ親しんだモノになる。
そろりと、頭だけを動かして、部屋の中に視線を巡らせた。
そして二つの人格が、ゆっくりと統合されていく。
部屋にあるのはドアがひとつと窓がひとつ。
子どもがひとりで暮らすには十分な広さだけれど、物は少ないと思う。
日本で見慣れたおもちゃの類いはひとつもない。
家具はベッドと机と椅子が一組と、暖炉だけ。
あとは本。
子ども向けの絵本が、いくつか部屋の中に転がっている。
まだ5歳の幼子がひとりで暮らす部屋。
なんとも寂しい部屋じゃないか。
「そうか…………メアリーは、もういないのか」
ぽつりと溢れ落ちた声は悲しみに満ちていた。
俺を殺そうとした頭のおかしなおばちゃんだと思うが、同時に、僕を愛してくれた唯一の存在だと知ってもいる。
どうやら死に直面して思い出した前世と思われる
生きてきた年数の違いか、はたまた
メアリーが世界の全てだった僕のままだと、彼女に裏切られたショックで気が狂っていただろうから。
まぁ、それでも、悲しいことに違いはないのだけれど。
ベッドに寝転んだまま、ぱたぱたと枕を涙の滴で濡らした。
僕の名前はナジィカ。
サウザンバルド王国の現王の13番目の子どもで8番目の王子だ。
そして、生まれた時に下された神託によって、王の庭の白亜の塔に幽閉されている。
国を滅ぼす呪われし子ども。
それが今の俺の現実だった。
メアリーの死を
俺が答えなくてもドアは勝手に開かれる。
ここは俺の部屋だけれど、自由に出来ることはあまりに少なかった。
当然、幽閉の身では、外に出ることも出来ない。
「ナジィカ……目が覚めたかい」
入ってきたのは兵士を連れた一人の男。
男の服装は簡素だが実に質の良いものだ。
ぽたぽたと涙を流す幼子の側に男は近寄って、質素な椅子をベッドの近くに引き寄せ腰を下ろした。
その椅子が似合うところか逆に違和感ありまくりだなと、痛ましげな表情を浮かべる男を見上げる。
流れ落ちる涙を拭うために、男の掌がこっちに伸びてきて。
「触らないで」
幼子の拒絶の言葉に、ぴくりっと男の手が震え、そろそろと引っ込んだ。
「すまない……お前を恐がらせるつもりは、無かった」
力無い声で男が言った。
空気が徐々に張りつめる中、俺は内心『あれ?』と首を傾げる。
これってアレじゃね。
王さまとの溝が深まる勘違いシーンじゃね?
そう、いま俺の前に座っているのは、この国の王さま。つまりナジィカの父親だ。
塔に幽閉された王子が、世話係の乳母に殺されかけた夜、王さまは我が子を案じてナジィカのもとを訪ねたのだが、息子に拒絶されてしまう。
我が子を閉じ込めるような父親だ。
憎まれても当然だと、王さまはナジィカとの距離を図りかね、徐々に二人の距離は離れていく。
因みに、ナジィカは乳母の言葉が心に刺さり、父である王も自分を疎んじて憎んで死を望んでいるのかと疑い、真実を追求するのを恐れるあまり、父親を拒絶した。
最終的に色々あって、ナジィカ王子は予言の通り、国を転覆させる道を進むのだが、王さまとの間の誤解から生まれた確執が全ての歪みの始まりだ。
まぁ、理由は他にも沢山あったのだが、それは兎も角これってさ……このまま小説通りに進むと俺ってば死んじゃうじゃん?
うん。
全力回避してぇぇぇ!
「やはり、父が憎いか……」
ぽつりと呟くように王さまが言った。
小説のナジィカは何も答えず、無言は肯定ととられた。
おいこら、ナジィカは5歳の子どもだぞ!
憎まれてると思ったんなら、愛されるように努力しろよ!と小説を読みながら前世の俺は思ったものだが……この場に流れるリアルな重くて痛い空気に、そんな第三者の楽観的発言は無責任であったと知りました。
無意識に我が子に伸ばしかけた手を止めて、指を折る。
ぎゅっと震えるほどに拳を握りしめた王さまが、ゆっくりと立ち上がった。
「今日は恐ろしい思いをしたね……お前のせいではないよ」
ゆっくりとお休みと言い残し、彼はナジィカに背を向けた。
それを拒絶だと思い込んだのは小説の中の幼いナジィカ。
乳母のくれる愛情しか知らない、小さな王子。
最愛の人が残した呪いの言葉を、永遠に胸に刻み付けた、孤独な王子さま。
「王さまも僕が憎いですか?」
違います王さまー!
ナジィカは貴方を憎んでなんかいませんよー!
そんな事を言おうとして思いとどまり、ナジィカとしておかしくない言葉で問いかけた。
5歳のナジィカが、信じていた人に裏切られたナジィカが、本当に知りたかったことを王さまに尋ねた。
王さまが振り返り、俺は知らずにごくりと喉を鳴らした。
失敗したら、バッドエンドへの道が開かれるとか、冗談じゃねえ。
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