2話 妹とのキスは留学生の味
学校から帰り、居間のソファーにだらしなく寝転がり、テレビを見る。
しかし夕方前のこの時間はこれといって面白いものをやっていない。
むやみにチャンネルをかえていくと、HKD180が出ていた。
一通り見渡し、よさそうな娘を探してみる。
ふむぅ、やはりこれといった感想が出ない。というか人数が多すぎてほとんど流して映している状態だからじっくり見れない。
そういえば昔にも似たようなアイドルグループがいて、親父に疑問をぶつけたことがあったな。
確かそれは、なんでアイドルってそんなに綺麗な人がいないの? という内容だった。それに対して親父はこんなことを言った。
『昔のアイドルは綺麗だったんだけど時代の違いってやつだ。今のアイドルっていうのはな、欠点が必要なんだ。欠点があると人は親近感を覚えて、愛着が湧くんだ』
子供の頃にはちょっと理解できない言葉だったけど、最近なんとなくわかってきた。身近な存在のほうが気持ちが落ち着く、みたいな感じだ。
僕は別に完璧を求めているわけではない。
だけど一度、本当にかわいい子というのを見てみたいだけなんだ。
それを彼女に求めようとなんて全く思っていない。
やっぱり女の子は性格だよな。
そりゃかわいくて性格が良ければ言うことないが、もしいたとしても希少価値がありすぎるし、なによりも既に誰かと出会い付き合っているだろう。
幼馴染最強説というのもあながち間違っていない気がする。
しかし幼馴染も結局家族に近いものがあり、ずっと一緒にいたらその良さがわからないでいるのかもしれない。
そもそも智羽は本当にかわいいのか。
彼氏ができたとか告白されたなんて話は聞いたことがないし、モテているという情報も知らない。かわいいと言われているのも志郎からだけだ。
「たっだいまぁー」
そして相も変わらず元気に智羽が帰って来た。
「おー」
軽く返事をすると、智羽はそのままリビングへ小走りで入って来た。
さて、やるか。
後々まで引っ張ってもしょうがないし、さっさと済ませたほうがいい。
「なぁ智羽」
「んー、なぁに?」
智羽が寝転がっている僕の顔を覗き込む。そのまま何も言わずにいると、
「何? 何?」
と言ってさらに顔を近付けてくる。昔から智羽はこんな感じだ。
そのタイミングで少し顔をあげるとどうなるか……。
軽くお互いの唇が触れる。
キスと言えなくもない、不思議な行為。
「どうしたの、突然」
「あー? えっと、挨拶かな」
「なんで西洋スタイルよー。それにあれは口じゃなくて頬にするもんじゃない?」
それくらいは僕だって知ってる。
さて言い訳の時間だ。
「そろそろあれだ、海外から留学生が来る予感があってさ」
自分で言っておいてアレだが、どんな予感だよ。僕はエスパーの類じゃない。
酷い言い訳をしてしまった。でもなんとかなるだろう。
「予感ってどんなのよ、全くもう」
ほんとだよ。
「それでな、国際色豊かな連中を相手するならば、それなりに準備が必要だろ」
「んー、確かに突然挨拶ですって言ってキスされたら驚くよねぇ」
「そうそう、だから今のうちに慣れてみようかなと」
「でも日本に来るっていうんだから、日本のしきたりくらいはわかってるんじゃない?」
「いやいや。ほらよくあることでさ、海外へ旅行する友達とかに嘘の情報を教えたりする奴がいるだろ? 例えばアメリカのレストランにはマイフォークとマイナイフ持参がマナーだとか」
「あはは、聞いたこと無い。でもそういうの確かにあるね」
「だろ? だから日本を勘違いされている可能性があるわけだ」
「うーん……、あるのかなぁ」
「あるんじゃないか? シンクロニシティってやつだよ」
我ながら苦しい言い訳だが、智羽は大抵のことに納得してくれる。
ちょっとしたいたずらや、からかった程度で智羽は憤慨したりしない。それに対して言い訳しているのも気付いているだろう。でも昔からこんな感じだ。必要以上に突っ込むこともしない。
「それでどうするの?」
「どうするって?」
「慣れるまで暫く続けるのかなって」
続ける気なんて全く無い。何が悲しくて妹と毎日キスしないといけないんだ。
「あー……いいや。お前とじゃ練習にならないってわかった」
「そりゃ兄妹と他人じゃ全く違うでしょ」
「だよなぁ」
「じゃあお兄ちゃんが彼女作ってちゅっちゅしてればいいじゃない」
「あのなぁ──」
「あはは、じゃあねー」
智羽はカバンを持ち、リビングを出て行った。
ふむ。
やはり妹とするものではないな。
自分の指で唇をなぞるのと大差なかった。今のがキスの感触とするにはちょっと無理がありそうな気がする。
本当のキスってやつはもっと違うんだろうな。一体どんなのだろう。
知るためにはやはり早いところ彼女を作る必要がありそうだ。
だけどどうやれば作れるんだ? そういえば今更だけど僕には彼女がいたことはない。いわゆる年齢イコール彼女いない歴だ。
困ったぞ。これではいざという時対処できない。
……ん? ちょっとまて、おかしいぞ。
そうだ、本当に海外から留学生が来るわけじゃないんだから、練習なんてする必要ないじゃないか。
ならばそんな慌てて彼女を作る必要ないな。
というか慌てたからって作れるものじゃない。
ま、それはおいおいってことでいいか。今重要なのは、志郎に明日きちんと報告できることだ。これでもうホモだなんて言わせないぞ。
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