第1話 ハルカゼ

雲ひとつない晴天の空の下に青いベンチに座っておとっりと空を眺める女性と無糖の缶コーヒーを少しづつ飲む僕。


「イリちゃ〜ん、どうして春は暖かくてすぐ眠くなっちゃうんだろうね〜」


「そんなのいきなり言われても僕にはわかりませんよ」



ーーーその通りだ、始まって早々登場人物に置いていかれる感…

今読んでくれてるそこの「あなた」はきっと意味わかんなくて読むのをやめようと戻るボタンを押そうとしてるでしょ?


ちょっと待った!!!


あっえっと…自己紹介がまだでしたね!私はこの物語の作者文野ねむです(よろしくっ!)

さてさて、なんでわざわざ話をぶった切ったかと申しますと…プロローグって読まれましたか?

あれ読まないとこの先意味わかんなくなっちゃうんですよねー。

なのでお手数ですがプロローグを読んできてからもう一度ここに戻って来てきださい!!(お願いしますっ)


「それならプロローグと1話を一緒にしろよ!」


って思われますよね。ごめんなさい…


では、プロローグを見ていただいた前提で続きをお楽しみください!



ーーー当たり前の質問を僕に出し “イリちゃ〜ん” と弟のように僕を呼ぶ彼女の名は藤原あかね。

僕が働いている瀧田市総合病院の精神科の医師で僕の先輩。


心理士は医師免許を持っていないためうちの病院では心理士と精神科医が二人三脚で患者の診察を行うようにしている。

だから彼女は僕のパートナーでもある。


「ところでイリちゃん、前来た内枝さんの感じはどうよ?」


「比較的軽めなうつだったのでそこまでお薬を使ったような処置をしなくても大丈夫かと」


「相変わらず可愛いらしい言葉使いね〜本当に男の子? 実は手術とかしてたりして?」


「男です!それに切ってませんから!」


藤原さんは毎回僕のことを男の「娘」扱いしてくる…


確かに名前も女子っぽいし顔も二十歳を超えた男には見えない童顔だから言われるのも仕方ない。


決定付けたのは病院であった去年のハロウィン仮装パーティ。


周りは人気のキャラクターや血に染まった御乱心ポリスとかのカオスな状況の中で1人だけ僕はアイドルの衣装をカワイイからと藤原さんに着せられ…


もう周りからの僕のイメージは男の「娘」に書き換えられてセーブされただろう。


嫌な思い出ってのは自分にも周りからにも消えてはくれないものだ。


だけどそれがある時には過ちや決して忘れてはいけない事を僕たちに人生の教訓として伝えてくれる…


人生ってのは哲学的で終わりがくて大変だなぁ。


と、一人黄昏ていると僕の隣で座っていた藤原さんは春の暖かさに包まれて心地よい寝息をたてスヤスヤと眠っていた。


フワッとしたショートボブの髪の毛からは柔らかく心落ち着くシャンプーの香りが漂ってくる。


起きている時とは真逆なギャップの藤原さんに僕は心が揺さぶれたが別に変なことなんてしない。


気を戻そうと母から就職祝いに貰った洒落た北欧の腕時計を見てみると針は1時半を指していた。


午後の診察は2時からだが準備や医師と看護師との打ち合わせもあるのでそろそろ中に戻らなければならない。


眠り姫の藤原さんを起こそうと立ち上がり缶コーヒーを地面に置いて顔を上げた時ーーー


手すりに手をかけてどこか彼方の景色を眺める一人の女性がいた。


すらっとした体型に清楚な白いワンピース、黒く光る美しい長い髪の毛は桜の花びらと共に春風に吹かれて靡く。


それは美しいを超えて鮮やかに映る一枚の絵のようだった。


そんな彼女を僕は無意識にただ見つめる。


まるで周りの景色がスローモーションのようにゆっくりと流れていた時だった。


遠い彼方の景色を眺めていた彼女が突然こっちを振り向いて放心な僕の目と目があったのだ。


その姿は鮮やかに春色と共に美しく咲いていた彼女ではない。


モノトーンのように白く透き通り先ほどの鮮やかさがなかったかのように無色パレットのごとく何色にも染まらないその姿。


一体、本当の彼女の姿は何なのだろうか。


鮮やかに咲いていた姿とは一変し無色に孤独に生える彼女を同一人物とは見え難い。


気がつけば僕は彼女を呼んでいた。


女性経験の少ない僕が名前もわからない女性を呼ぶなんて普段の僕では絶対にできないが今日の僕は違った。


だが、勇気を振り絞り呼び止めた声は彼女には不発だった。



僕の声は聞こえずドアノブに手をかける彼女、


呼び止めたいのにあともう一歩が踏み出せない僕、


二人の意思が相違するこの屋上、



「勇気は一瞬、後悔は一生」



母から貰った言葉だ。


諦めかけていた僕はその言葉を心に唱え階段を降りる彼女を呼び止めに走った。


走れ!


もう彼女は屋上のドアを開けて階段を降りている。


走れ!


何でだろう、別に好きでも嫌いでもないのに彼女が僕の心に引っかかる。


着いた!


息を切らしながらも重いドアのドアノブに手をかけ思いっきり回して開けた。


彼女の姿を探す。


辺りを見渡し下も覗く。


しかし姿どころか階段を降りる音もしない。


風の音が響く階段。


そこにはもう彼女はいなかった。














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