歴代最強勇者が新米魔王(オレ)を倒せないポンコツな理由

霞羅(しあら)

プロローグ ある魔王城の1日。

 何十代か前の勇者に俺の父親、前魔王ゾルダー・ライノルトが討伐されてから170年。

 当時、10歳で魔族としてはまだまだ赤ん坊だった俺、アスター・ライノルトも180歳になり、立派な成年魔族として、そして、新魔王として認められた。

 側近のベリアルやアスタロト、ベルゼバブそれに城内のメイドであるサキュバス達も祝福してくれた。

 新米の魔王である俺には、色々とやることが多い。

 各地の魔物達に村を襲わせたり、勇者が出たときのために伝説の武具を封印して使えないようにしておいたりと、雑事から重要な案件まで山のように積み重なっている。

「事務仕事嫌いなんだよなぁ…」

 魔王の仕事の大半は事務仕事だ、前線に出て指揮をするのなんて滅多に有ることじゃない。

 書類に手形を押していく作業が延々と続くのだ。

 ただ、中には魔王の仕事に紛れて他の魔族の女性からのラブレター、果ては婚姻届なんかも入ってたりする。

 無論、まだそういうつもりはないので目を通すだけ通して、焼却している。

「全く…魔王をなんだと思ってるんだか…」

 欠伸を噛み殺しつつ、今日もまたそんな作業を繰り返していた時だった。

 執務室の外から慌てたような荒々しい足音が聞こえた。

「魔王様!一大事にございます!」

「どうした、ベリアル騒々しいぞ」

「はっ、申し訳ありません。ですが、火急にお耳に入れたいことが……」

 普段の冷静なベリアルからは考えられないほどの焦り方だ、これは本当に大変な何かがあったんじゃないか?

「して、なにがあった」

「実は、勇者が現れたらしく」

「……勇者が?」

「ええ、それも歴代最強との呼び声も高いらしく、この城の近くエディンバラ大平原にまで迫っているとのことです」

「……その勇者が現れたのはいつ頃だ?」

「ベルゼバブの調べによると二月ほど前とのことです」

「おいおいおい!いくらなんでも早すぎるだろう!?」

 流石の俺でも魔王としての語調を崩す羽目になるような、そんな異例の早さだった。

「仕方ない、急ぎ城の守りを固めろ、直に勇者が城に到達するぞ」

「御意に」

 そんな訳で俺の退屈過ぎる日常は終わりを告げそうだったんだが……その歴代最強の勇者は、強いは強いんだが……何て言うか、ポンコツだった。

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