恋愛自由の少年教師

祀木あかね

第1話 赴任した教師

「えー、俺がさっき理事長から紹介のあった新任教師の井尾いお和人だ。今日からこの茶海さかい女学院高等部の教員となる。歳は十五歳。お前たちは全員俺の彼女候補だ」


 多少面倒くさそうに、和人は新任の挨拶を始める。

 四月、始業式の今日、行動には一年から三年までの全校生徒が詰め込まれている。

 一般校では四月の始業式に一年生がいることはないのだが、この女学院は小学から大学までの一貫校であり、特に中高は六年制であるため、本来はこれが正しい姿ではある。


 とはいえ、高校からの入学生が半数を超えるため、一応昨日には入学式はやったらしい。

 正式には編入式ではあるが、誰もそう呼んではいない。

 ともかく今、ここには昨日編入した生徒も含め、全校生徒が詰め込まれている。

 広いはずの講堂も狭く感じるほどの詰め込まれ具合だ。


 学校生活の大半をアメリカで過ごした和人にとってはこれは虐待にならないのか心配になる。

 和人はその壇上で、同じ色の服を着た数百人に向かい、一言目にそう告げた。

 名乗った年齢の通り、彼はまだ幼さも残る少年であり、壇上に見える表情は、年齢相応で、同年、もしくは歳上ともなりうる生徒たちからすると、少し生意気にも見える。


 ざわめき。


 生徒たちから戸惑いのざわめきが漏れる。

 見た目はモデルやアイドルにも見える美形の少年が、今日から教師だと偉そうに告げているのだ。


 しかも自分たち生徒が、彼女候補であると。

 歴史も古いこの茶海女学院にはそのようなことはありえないことは、在校生なら誰もが分かっている。

 もしかすると、自分が知らないアイドルがサプライズで訪問したのではないか? との疑問が隠せない彼女たちは、周囲の友達に聞いてみるが、誰も彼を知らなかった。


「俺は飛び級でアメリカのルーイズ大学の理工学部大学院ドクターコースを卒業している。だから、物理以外の全てを教えられる。正直、物理を平易に教えることは俺には出来ない。最初に学んだ時には既に、大学レベルだったからな」


 まるで、答えを待っているかのように、一言言っては言葉を止める和人、と名乗る少年。


 最初に言いたいことを出来るだけ気を引きつけるように言い、あとは誰もが疑問に思うことをを分かりやすく解説していく。

 アメリカでは当たり前に習得するディベートの初歩だ。


 講堂内には、戸惑いの中に、きゃーきゃーというはしゃぎ声も混じる。

 いち早く言葉を理解して、嬉しいと思ったのだろう。

 そして、教師に窘められ、静かになる。


「えー、赴任するに当たって、理事長から、許可を得た」


 静まったのを見計らい、和人が言葉を続ける。


「お前らは全員、俺に惚れても構わない。そして、俺はそれに応えても構わない」


 その言葉の意味を、生徒たちが理解するまで和人は十秒だけ待った。

 もちろんその言葉の意味を理解すれば、ざわめきだすのは承知の上だ。


「俺は生徒との恋愛を自由に行ってもいいことになっている。彼女を何人持っても構わない。だから、お前ら全員俺に惚れていいし、俺の彼女になる権利がある、俺もそれに応えることが可能だ」


 同じことを、今度は具体的に説明する和人。

 先ほどには理解出来なかった生徒もこれではっきりと理解し、どれだけ教師が叱責しても、ざわめきは収まらなくなった。


「ただし! 俺はいい女でなきゃ惚れたりはしない。お前らが惚れるのは勝手だが、俺は惚れる女を選ぶ」


 騒めきは更に大きくなり、もはやそれを止める教師の叱責すら聞き取れなくなるほどだ。


「お前らは全員、俺の彼女になる権利がある。精々女を磨いて俺を惚れさせてみせやがれ!」


 和人の言葉に歓声が湧き、その中を、彼は退場していった。

 その後静かになり指揮を続けるまで十分以上はかかり、教頭の挨拶が説教に変わったことは言うまでもない。

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