主人公死にすぎじゃね?

ちびまるフォイ

お前、つぎ転生したら許さねぇから

「いや! 死なないでキン様!」


声に出すと、誤解されかねない名前を叫びながら姫は三途の川を遊覧しはじめている勇者を抱きしめた。

けれど、勇者の膝からは転んですりむいた傷口からとめどない血が流れている。


「死んじゃいや! ……キン様! キン様ぁ!」


「ふふ……そんな顔……お姫様に似合わないぜ……」


最後の力を振り絞り、少女の目にたまる涙をそっとぬぐう。

もう助からないと悟ってもなお、相手を思いやれるその優しさがまさしく勇者だった。なんか書いててむかついてきた早く死ね。


「俺は――君を守れて――よかっ……た……」


「キン様ーー!!」

姫の最後の絶叫はピー音にかき消されてしまった。



「っていうのは、もう飽きたわけよ」


転生市役所の神様は頬づえをつきながら不機嫌そうにため息。


「いいから転生させてください。あと、なんらか手違い起こしてすげー能力つけてください」


「図々しいよ!! こちとら休日出勤だよばかやろう!!」


「でも死んだんで」


「いや、お前生前死ぬ気まんまんでつっこみやがって。

 むしろ転生ありきで死んだよな。迷惑すぎるわ!」


近年、『第一話で勇者死にすぎ問題』が社会現象にまでなっていた。

神様は毎日転生の処理で大忙しだし、死体の処理に現世も大忙しだし、死んで得しているのは主人公だけだ。


「もうちょっと、現実の力で工夫したりとか修行したりとかしないわけ?」


「いや自分ちょっとそういう体育会系のノリ苦手なんで」


「ゆとり世代めちくしょーー!!」


神様は主人公になにを言っても無駄だと悟り、すぐに現世に働きかけた。


『私は神です。これから美少女には全員防犯ブザーを渡します。

 魔王のみなさん、これからは安全杖を渡すのでこれを使ってください』


これが何の意味になるのかはわからないが、現世の人および魔王たちはその御声に従うことにした。

神様の声にはご都合主義という名の不思議なパワーがあるのだ。


数日後、主人公の第1話死亡率はぐっと下がった。


「死なないで! キン様!」

「すまない……転生するときに、もうちょっとマシなチート能力があれば……」


「そうだわ! 神様にもらったこのブザーが!」


ピピピピピピピ!!!!


けたたましい音が周囲に響くと、ほかの戦いに出ていたパーティがそれに気づいて瀕死の勇者をすぐさま回復してくれた。


「大丈夫ですか!? もう少しで死ぬところでしたね」

「お、おお……」


「魔王も優しいですね。一撃で相手を倒さないような杖を使ってくれるなんて」

「死ねねぇ……」


主人公は不服そうだったが、神の采配はぴたり的中して転生に訪れる主人公は激変した。


「はぁ、これで肩の荷が下りた。ブザーがあればだれか駆けつけてくれるし、一撃粉砕できないから助けてもらえるチャンスも作れたぞ」


安心していた神様だったが、現世に目を向けると大規模な暴動が起きていた。

率いるのは死にぞこなった主人公たちだった。


「転生させろーー!」「「「 させろーー! 」」」

「主人公にチートを!」「「「 チートを! 」」」

「第1話で死なせろ―!」「「「 死なせろ―! 」」」


このままでは主人公たちが八つ当たりでなにをしでかすかわからない。

けれど、主人公たちの思い通りにしてしまえばまたサービス残業と休日出勤だ。


「いったいどうすれば……!?」


「お困りのようだね」


「あなたは……髪の神!!」


髪の神は神業界でも敏腕となだかい神様だった。


「転生の神が困っていると聞いたんで、現世にこんなものを用意してみたよ」


「これは……全自動転生装置!?」


言い換えれば全自動殺りくマシーンとも言えてしまうが、神様の行いは偉大なので大丈夫なのだ。


「これなら転生の神様の手をわずらわさせることもない。さらに転生時の能力も自動でさずけてくれるから超便利だろう」


「ああ、やはりあなたは神だ!!」


この叫びは現世であらぶっている主人公たちも同意見だった。主人公たちは転生帆欲しさに第1話で転生マシーンに飛び込んでいく。


「キン様!!」

「ふふ……そんな顔しないでくれ……」


「あ、えーと、死んじゃいや! キン様!!」

「カンペ見んな」


「キン様、どうして死なれるのですか!? 私との約束は!?」


「今朝、父親にガチギレされたからな……これはもう死ぬしかない……。

 安心してくれ。君を迎えにいく約束は……きっと果たすよ……必ず……」


「キン様ぁーー!!」


主人公は全自動転生マシーンに乗ると、静かに転生していった。

なんらかの特殊能力とかを手に入れた主人公は満足そうにまた冒険をはじめるのだった。




数日後、髪の神がやってくると転生の神は忙しそうにしていた。


「あれ? 転生の神、どうしたんだい?

 全自動転生マシーンで主人公の処理は楽になったんじゃないのか?」


転生の神ははぁ、と長い溜息をついた。


「主人公の手間は減りましたけどね……。

 復活した主人公によって魔王がどんどん殺されて、

 "転生して強い力をよこせ"ってひっきりなしにやってくるんですよ!!」




数日後、魔王の玉座の裏に全自動転生マシーンが備え付けられた。

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